復帰後初仕事 1
矢上さんは一度会社に戻るとのことで、契約を終えてすぐに家を出る。
「今日はありがとうございました!仕事が決まりましたら随時、連絡させていただきます!」
「はい!復帰したばかりなので俺の仕事を探すのは大変かと思いますが、よろしくお願いします!」
復帰にあたり、俺は夏目レンという名をフルに活用する方向となった。
そのため、矢上さんには夏目レンが復帰したことを広めてもらい、復帰したことをネタに仕事を増やしてもらうようお願いした。
もちろん、そのネタで仕事が山程もらえるとは思っていないので、矢上さんには苦労をかけることになるだろう。
「山程舞い込んで来そうな気はしますが分かりました。まずは夏目レン=夏目凛だということを世に知ってもらえる仕事を確保してきます」
「お願いします」
俺との話を終えた矢上さんが車に乗り込み、車を走らせる。
「さて、あとは仕事がどれだけ来るかだなぁ。まぁ、こればかりは矢上さんと社長に頑張ってもらおう」
そんなことを思いながら、俺は家の中へ戻った。
翌日の4/2。
俺は寧々とテレビを見ながら朝食を食べていると…
『えー、次のニュースです。昨日発売されたとある雑誌が、発売と同時に全ての店舗で売り切れるという現象が発生し、SNSで話題となりました。それがコチラの雑誌です』
そう言ってアナウンサーが、俺が表紙を飾っている『読者モデル』をカメラに映す。
「おぉー!お兄ちゃんの『読モ』がテレビデビューしてるよ!」
その様子を見て、寧々が食べる手を止めてテレビに集中する。
『理由としては表紙を飾っている男性、夏目凛さんにあるらしく、巷では『国宝級イケメン』との二つ名が早くも定着し始めております』
「はやすぎだろ……」
「お兄ちゃん、次の国宝級イケメンランキングの1位候補だからね!」
「次って何ヶ月後の話をしてるんだよ。まだ決まってもないのに定着したらダメだろ」
そんなことを思う。
『また、巷では夏目凛さんのことを『リン様』と呼ぶ女性が多く、はやくも『リン様』との愛称で呼ばれております。今後、リン様の活躍に注目ですね』
「へー!お兄ちゃんのことを様付けして呼んでる人が多くいるのかー!これからは「お兄様」って呼ばないとダメかな!?」
「様付けされるほどの人間じゃないから辞めてくれ……」
そんなことを話しながら、寧々と朝食をとった。
その後、自分の部屋でダラダラ過ごしていると、突然スマホが鳴る。
そのため急いでスマホを確認すると、矢上さんからの電話だった。
『お疲れ様です、凛さん。今お時間大丈夫でしょうか?』
『はい、大丈夫です』
『ありがとうございます。実はさっそくお仕事の依頼が入りました』
(はやすぎだろ。まだ『読モ』が発売されてから1日しか経ってないぞ)
そんなことを思うが、仕事が舞い込んできたことは嬉しいことなので、気にせず話を進める。
『どのような仕事でしょうか?』
『はい。今回、凛さんに来た仕事は「おっしゃれ〜イズム」です』
『えっ!「おっしゃれ〜イズム」ですか!?』
「おっしゃれ〜イズム」という番組は、芸人である下田さんが主体となってゲストと話すトーク番組だ。
『はい!番組側から急遽代役が必要になったとのことで、凛さんに話がありました!トーク番組なので、凛さんが夏目レンであることも触れてくれると思います!代役ということで収録日が明後日となりますが、いかがでしょうか?』
『もちろんやります!』
『ありがとうございます!』
俺は矢上さんの言葉を二つ返事で了承する。
『今回、ゲストとして共演される方が凛さんを強く希望されたので、凛さんへ代役の話が来ました!』
『へー、昨日発売の『読モ』で注目を集めたくらいで俺を選ぶなんて、変わった共演者ですね。その共演者って誰ですか?』
『愛甲真奈美さんです!』
『……真奈美かぁ』
真奈美の名前を聞いて、微妙な反応をしてしまう。
『あれ?嬉しそうな反応ではないですね。昔、『マルモのおきてだよ』などのドラマで共演されましたよね?』
『そうなんですが……いえ、なんでもありません』
『……?よく分かりませんが、番組側には出演OKということを伝えます。詳しくは後ほどメールさせていただきますが、収録日時は明後日の10時となります。私が9時頃自宅まで迎えに行きますので、その予定でお願いします』
『ありがとうございます』
そこで矢上さんとの電話を終了させる。
「ふぅ」
さっそく仕事が決まったことに一先ず安堵する。
しかし…
「真奈美かぁ。急に芸能界を引退したから怒ってるだろうなぁ」
今では超有名な女優となっており、愛くるしい容姿と人を惹きつける演技力で、日本国民なら誰もが知っているほどの女優となっている。
そして俺を指名してきたことから、俺が夏目レンであることは気づいているだろう。
そんなことを思いつつ、俺はとある言葉を思い出す。
『一緒に芸能活動を頑張ろうね!』
この言葉は真奈美が俺に言ってくれた言葉。
きっと、その言葉を簡単に破った俺に、怒りを覚えているはずだ。
「これは出会ってすぐに謝らないといけないな」
そんなことを思った。