『鷲尾の家族に乾杯』の放送 8
〜夏目寧々視点〜
お兄ちゃんと『鷲尾の家族に乾杯』の視聴を終える。
「じゃあ俺は部屋に戻ってゴロゴロしてくるわ」
そう言って立ち上がったお兄ちゃんがスマホをポケットから取り出す。
そして画面を見て固まる。
「どしたの?お兄ちゃん?」
「あ、いや。なんかめっちゃ通知が来てたからビックリしただけだ」
「通知?誰から?」
「……真奈美と桃ちゃんと美奈から」
「………」
その言葉だけで、どのような要件で大量の通知に見舞われているのかが理解できる。
「お兄ちゃん、今日は寝れないかもね」
「なんで!?」
「だって無自覚に何人もの女の子を口説き堕としてたんだよ。きっと3人ともお怒りだよ」
「………無視してもいいかな?」
「ダメに決まってるでしょ」
“ガクッ”と頭を下げて、トボトボとリビングを出るお兄ちゃん。
その際「また怒られるのかよ。美奈との熱愛報道の時も2人から散々言われたんだぞ。しかも今回は美奈まで加わってるし」とか言っていた。
(お兄ちゃんの鈍感さには3人とも苦労しそうだね。変なところで勘違いしてるし)
お兄ちゃんには幸せになってほしいので、是非とも優しくてお兄ちゃんの事が大好きな3人の誰かと付き合ってほしいが、いつになるんだろうか。
そんなことを思いつつ私はSNSを開く。
そこには先ほど放送された『鷲尾の家族に乾杯』の感想がたくさんコメントされていた。
私はコメント欄を遡りながら、みんなのコメントを確認する。
「まずは……女子高生2人にお兄ちゃんがお花をプレゼントした時かな。その時にSNSが盛り上がってるね」
そう呟いてコメント欄を見る。
〈リン様がお詫びに花をプレゼント!優しすぎるっ!〉
〈気絶した女の子たちにも気を配るなんて!性格もイケメンすぎるよ!〉
〈しかもプレゼントした花のチョイスよ!福寿草とかセンスありすぎ!〉
〈リン様の顔を間近で見る+気絶した時にリン様から身体を触ってもらう+お花をプレゼントされる……この女子高生たち羨ましいよ!〉
〈顔もイケメン、性格もイケメンて、神はリン様に二物も三物も与えすぎだろ!〉
〈神には様を付けず、リン様には様を付けるんだな〉
そんなコメントがたくさん見られた。
「お兄ちゃんの評価、爆上がりしてるなぁ」
美奈ちゃんとの熱愛報道の件でリン様ファンの間ではお兄ちゃんが顔良し性格良しの完璧男子となっているが、今回の放送でその事実がさらに広まったようだ。
「えーっと次に……あ、お兄ちゃんがドーナツ屋でドーナツを食べた時かな。その時もSNSが盛り上がってるね」
そう呟いてコメント欄を見る。
〈リン様の食レポ効果ヤバすぎっ!〉
〈一瞬でドーナツ屋に行列ができたの凄すぎる!〉
〈「美味しい!」しか言ってないけど、心の底から美味しそうに食べてるところを見たら、あのドーナツが絶品だってことは誰だって分かるよ!〉
〈俺、あそこのドーナツを通販で買ったぞ!〉
〈えっ!あのドーナツ屋、通販やってるの!?私も買おー!〉
等々、お兄ちゃんの食レポ効果を目の当たりにする。
「確かにお兄ちゃんは美味しそうにドーナツを食べていた。あんなお兄ちゃんの顔を見たら買いたくなる気持ちも分かるよ」
私は書かれているコメントを見ながら首を縦に振る。
「そして次は……あ、お兄ちゃんが『恋占いの石』で女の子たちとイチャイチャした時も盛り上がってるね」
そう呟いてコメント欄を見る。
〈『恋占いの石』でリン様からアドバイスもらえるとか羨ましいよ!〉
〈絶対、自分の恋を叶える気ない人たちがリン様からアドバイスをもらってるだろ〉
〈俺もリン様と触れ合うためだけに『恋占いの石』にチャレンジしたと見た〉
〈リン様からアドバイスをもらえるなら今の恋が叶わなくても問題ないでしょ!〉
等々、『恋占いの石』の役割である恋愛成就をガン無視しているコメントが多々見られた。
「お兄ちゃんと触れ合う機会かぁ。確かに貴重な体験だよね。まぁ、私は毎日お兄ちゃんと触れ合ってるけど」
どこぞの誰かにマウントを取る発言をしながら、私はスマホをスクロールする。
すると…
「やっぱり、お兄ちゃんが着物を着た時が一番盛り上がってるね」
案の定、お兄ちゃんの着物姿にメロメロになったファンが色々なコメントをしていた。
〈リン様の着物姿ヤバすぎでしょ!〉
〈えっ!神降臨!?〉
〈カッコ良すぎよ!今まで見てきた着物男子たちが霞んで見える!〉
〈リン様の着物姿を見てから鼻血が止まらないんだけどっ!〉
〈&¥€%#$&@っ!〉
〈最後のやつ、何言ってるか分からんのだがww〉
等々、お兄ちゃんの着物姿を絶賛する声がたくさん見られた。
他にも…
〈氷鶴ちゃんめっちゃ可愛いんだが!?〉
〈夏目凛に褒められて照れる氷鶴ちゃん、可愛いすぎだろ!〉
〈俺、氷鶴ちゃんと会うために京都まで行ってくるわ〉
〈氷鶴ちゃんの店、リン様が着た着物を飾ってるんだって!見に行かなきゃ!〉
〈氷鶴ちゃん、絶対リン様の着た着物をクンカクンカしてるよ!羨ましいっ!〉
等々、お兄ちゃんにデレデレな氷鶴ちゃんに関するコメントも多々見られた。
「ふむふむなるほど」
私は一通りコメントを確認してスマホを閉じる。
「お兄ちゃんの評価がまた一つ上がったようだね」
そのことを嬉しく思い、自然と笑みが溢れる。
「まぁ、お兄ちゃんは周りの人の評価なんて一切気にしてないけど」
お兄ちゃんはSNSの評価を一切気にしてないため、毎回自分で自分の名前を検索欄に入れるエゴサーチなんてしない。
そのため、定期的に私がSNSでの評価を簡単に説明している。
(今回に限ってはお兄ちゃんにエゴサーチをする時間はないと思うけどね)
きっと今頃は3人から様々な質問攻めを受け、忙しなくメッセージを送っているだろう。
そんな鈍感お兄ちゃんに「はぁ…」とため息を溢しつつ、私はリビングに飾っているカレンダーへ目を向ける。
「来週もお兄ちゃんの活躍が見られるからね。すごく楽しみだよ」
来週には桃華さんとの写真集が発売され、美奈ちゃんとのCMが放送される。
そして6月1日にはお兄ちゃん単独の写真集発売が決定している。
私は持っていたスマホをポケットに入れて立ち上がる。
「よしっ!3人からのメッセージで困ってるであろうお兄ちゃんの様子を見に行こっと!」
そう呟いて、私はお兄ちゃんの部屋へ向かった。