帰省 4
婆ちゃんから母さんの夢を聞いた俺は、その日以降、より一層気合を入れて指導を受ける。
「そこはもっと感情を込めて。凛がどんな想いで言っているかが全く分からないよ。もう一度、イメージし直して」
「わ、わかった」
「それとさっきのシーンだけど……」
等々、演技する度に色々と指導される。
さすがに6年もブランクがあればダメ出しばかりだが、指導される度に上達しており、特訓を見学している寧々から指導を終える度に褒められている。
そんな日々を過ごしていた。
「うん。及第点ってところね」
「はぁはぁ……ありがとう。婆ちゃん」
ゴールデンウィーク最終日の前日。
毎日13時間以上もの指導を受けることで、ようやく及第点をもらえた。
「お疲れ、お兄ちゃんっ!」
俺の特訓を見学していた寧々が飲み物を渡しながら言う。
「ありがと、寧々」
それを俺は受け取り、一口飲む。
「一応言っておくけど及第点だからね。凛に指導できる期間がゴールデンウィークまでってことになってるから合格を出しただけで、今の演技内容に満足したらダメよ」
「もちろんだ。婆ちゃんから及第点をもらったからといって慢心はしないよ」
俺は真剣な表情で伝える。
婆ちゃんがこの程度の演技力で合格を出すとは思っていない。
ゴールデンウィーク期間のみという縛りがなければ、まだまだ演技指導に付き合ってくれていただろう。
「えー、私はお兄ちゃんの演技、すごく良かったと思うけどなぁ。そこら辺の俳優さんよりも上手だと思うよ?」
「そこら辺の俳優よりかは上手だとは私も思うけど、凛が優秀主演男優賞を受賞した時の演技には程遠いよ」
「俺もそう思う」
婆ちゃんのおかげでそこら辺の俳優さん並みの演技力は獲得できたが、6年のブランクを完全に埋めることはできなかった。
「あとは凛が家でどれだけ頑張るかよ」
「分かってる。慢心せずに努力を続けるよ」
俺が『マルモのおきてだよ』で優秀主演男優賞を獲得できたのは、婆ちゃんからの指導に加え、真奈美の努力に負けないよう俺も努力したから。
(今回もらった仕事は真奈美がヒロイン役なんだ。恥ずかしいところは見せられないから、あの時みたいに毎日数時間は家で練習しないと)
そう思い、気合が入る。
「良い顔ね。慢心していないことが伝わるわ」
そんな俺を見て婆ちゃんが笑みを浮かべる。
「演技力に不安を感じたらいつでも来なさい。クタクタになるまで扱いてあげるから」
「いや、そこまでしてほしくはないんだが……」
そんなことをボソッと呟く。
こうして婆ちゃんからの演技指導が終わった。