SNS開始
俺は急いで休憩室に戻る。
「すみません、矢上さん！俺のこと探してたと聞きました！」
「探してましたが急ぎの用事があったわけではないので気にしなくていいですよ」
そう言って矢上さんが笑う。
その言葉に安堵しつつ俺は休憩室にあるソファーに座ると、矢上さんが近づいてきた。
「凛さん、今から用事はありますか？」
「いえ、特にありませんが……何か俺に用事があるのですか？」
「はい。実は凛さんに芸能界での活動を宣伝するためのSNSを開設してほしいんです」
今の時代、芸能人は全員と言っていいほどSNSで自分の活動を宣伝している。
デメリットもあるが、現在の俺にとってはメリットの方が大きいので断らずに頷く。
「そうですね。俺もそろそろSNSを始めようと思ってましたから」
「ありがとうございます！」
とのことでプライベート用とは別のアカウントを開設する。
「普段からSNSはやってないと寧々さんから聞きましたが、手慣れてますね」
「寧々と比べたら全くやってない部類に入りますよ。アイツ、四六時中SNSを利用してますから」
暇さえあればSNSを見ているような人と比べたらやってない部類に入るだろうが、TwitterやInstagramも投稿しないだけで活用はしている。
「こんな感じでどうでしょうか？」
俺は新しく作ったTwitterとInstagramのアカウントを見せる。
「はいっ！バッチリです！あとはプロフィール画像と、このアカウントが凛さん本人であることを証明するだけですね！」
「本人であることの証明と言われましても。どうすれば証明になりますか？」
「凛さんの写真をアップするだけで大丈夫だと思いますよ！」
とのことで矢上さんにスマホを渡し、何枚か写真を撮ってもらう。
そしてプロフィール写真と投稿する写真を決め…
『6年前まで夏目レンという芸名で活動していた夏目凛です。TwitterとInstagramを始めました。今後、宣伝等で活用したいと思います。よろしくお願いします』
との文章と共に矢上さんが撮ってくれた写真を数枚ほど投稿する。
「あとはウチの事務所のSNSで、このアカウントが凛さん本人である証明と、凛さんがSNSを開設したことの報告を行います」
そう言って矢上さんがスマホを触る。
そして数分後、矢上さんが満足気にスマホを見せてくれた。
「できました！これで新しく作ったアカウントが凛さん本人であると証明できましたよ！」
そこには事務所のSNSで俺のSNSを紹介しており、リンク先まで貼り付けていた。
「よく出来てますね」
「はいっ！これでフォロワーさんがたくさん増えると思いますよ！」
との言葉が終わると同時に俺のスマホが通知の嵐に見舞われた。
「な、なんだ！？」
俺は慌ててTwitterを開くと、先ほど開設したばかりなのにフォロワーが2500人を超えていた。
「うぉぉっ！なんじゃこりゃ！」
「あ、さっそくフォローが来たんですね！」
そんな俺を見て、分かっていたかのような反応をする矢上さん。
「さっき開設したばかりなのにフォロワーがものすごい勢いで増えました。しかも驚いてる間に5000人を超えたし」
「我が社のSNSで宣伝しましたからね！これくらい増えて当たり前です！」
「いや、ウチの事務所で宣伝したとしても早すぎですよ。みんな暇なんですか？」
「フォロワーが400万人もいる我が社のSNSで宣伝すれば、暇な人が1万人くらいはいますよ」
「………え？400万人？」
「はい！凛さんは我が社のSNSに興味がないので知らないのも無理はありませんが、実はウチの事務所のSNSで凛さんの活動を宣伝してたんですよ」
「そ、そうなんですね。ありがとうございます」
本来なら俺がすべきことをしてもらっていたため、俺は頭を下げて感謝を述べる。
「気にしなくていいですよ。それで話を元に戻しますが、我が社のSNSで凛さんの活動を宣伝してたら、いつの間にかフォロワーが400万人を超えてました」
「そ、そんなことがあるんですね」
「私も驚きましたが事実です。なので我が社のSNSで発信すれば、一瞬でフォロワーが増えるはずです」
「な、なるほど……」
（400万人もフォロワーがいれば3万人くらいは一瞬でフォローしてくれるか）
いつの間にかフォロワーが3万人を超えていた俺は、どんどん増え続けるフォロワーから目を逸らした。
