復帰後初仕事を終えて
その後、5分ほど真奈美の頭を撫でた俺は、真奈美の頭から手を放す。
「もう満足したか?」
「うんっ!大満足だよ!」
若干、頬を染めた真奈美が満足そうな顔で言う。
「そうか。なら俺は楽屋に戻るぞ」
「あ、待って、凛くん!」
俺が真奈美の楽屋から出ようとすると、真奈美からストップがかかる。
「連絡先、交換しよ!」
「あー、そういえば真奈美と連絡先を交換してないな」
子役の頃はお互いにスマホを持っておらず、真奈美に用事があった時は、母さんのスマホから真奈美の母さんにメッセージを送っていた。
そのため、俺は真奈美の連絡先を知らない。
「よし、交換するか」
「うんっ!」
俺が了承すると、パーっと笑顔になる。
そんな真奈美を微笑ましく思いつつ、俺はポケットからスマホを取り出して真奈美と連絡先を交換する。
「じゃあ、俺はそろそろ自分の楽屋に戻るよ。今日はありがと」
「ううん!こちらこそだよ!」
満面の笑みで言う真奈美を見て、俺は楽屋を出るために扉まで移動する。
そしてドアノブを持とうとした時、俺は言わなければならないことを思い出す。
「真奈美!」
俺は振り返って真奈美の名前を呼ぶ。
「俺、今度こそ芸能活動を頑張るよ!寧々と真奈美が応援してくれる限り、絶対に芸能界を引退しない!活躍できなくても諦めず頑張り続けるから!」
芸能界を引退したことで真奈美に心配をかけた俺は、応援してくれる限り引退しないことを伝える。
「だから、真奈美も頑張れよ!」
「うんっ!一緒に芸能活動を頑張ろうね!」
「あぁ!」
俺は真奈美に自分の決意を伝え、楽屋を出る。
「ここからだ。応援してくれる寧々や真奈美をガッカリさせないよう、ここから頑張らないと」
俺は両頬を“バシっ!”と叩く。
「よしっ!頑張るぞ!」
俺は気合を入れて、自分の楽屋を目指し歩き出した。
「収録の手応えはいかがでしたか?」
楽屋に戻り、帰る準備のできた俺は、矢上さんの運転で自宅に帰る。
その道中、運転しながら矢上さんが話しかけてくる。
「そうですね。俺が夏目レンであることは伝わったと思います。それに真奈美や下田さんのおかげで面白いトーク番組にもなりました。なので100点ですね」
「それなら良かったです!」
矢上さんが嬉しそうに言う。
「放送は来週の日曜日とのことです!放送終了後の反響を楽しみに待ちましょう!」
「そうですね。仕事が増えるといいのですが……」
「それに関しては分かりませんが、きっと増えますよ!だって夏目レンは日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を取り、紅白にも出場してるくらいですから!」
矢上さんが励ましてくれる。
「ありがとうございます、矢上さん。少し気持ちが楽になりました」
「いえいえ!」
そんな感じで矢上さんと話しながら自宅を目指す。
「あ、そういえば、大学はいつ頃から始まりますか?」
「7日ですね」
「今日が4日なので明々後日ですか」
そう呟いて考え事を始める矢上さん。
「何かありましたか?」
「いえ、大学に入学される前にもう一つ仕事を入れることができればと思ったのですが、難しいようですね」
「代役でもない限り、明日、明後日に仕事なんて入りませんからね」
収録現場へ向かう道中に俺宛の仕事が100件以上来たと聞いたが、明日明後日に収録がある仕事はないようだ。
そんな話をしていると、俺の自宅に到着する。
「送迎、ありがとうございました」
「いえいえ!今日はお疲れ様でした!また、仕事の依頼が来れば連絡させていただきますので!」
「よろしくお願いします!」
俺は頭を下げて矢上さんを見送った。
【次話は真奈美視点となります】