サイン会 6
浜崎さんを見送り、サイン会を再開する。
その後は大きな問題なくサイン会を続け、いよいよ残り5人となる。
「ありがとうございました!」
「いえいえ、今日は来てくださりありがとうございました」
そして遂に最後の1人が終わる。
「終わったー!」
グーっと体を伸ばし、筋肉の緊張を解ほぐす。
「お疲れ様でした。数人来られなかったみたいですがもう並んでる方はいらっしゃらないので終わって良いと思います」
俺は何人来たかなど調べなかったが、当選したほとんどの方が来てくれたようだ。
時計を見ると終了予定時刻である17時はとっくに過ぎていた。
「じゃあ撤収作業に……」
――移ろうか、と言おうとした時、「ちょっと待ってくださーいっ!」と大きな声が響き渡った。
「はぁはぁ……ま、まだサイン会は終わってませんか!?」
「み、美奈!?」
大声をあげて走り込んで来た女の子に俺は驚く。
「あ、リン様ー!お久しぶりです!」
俺の姿を見た瞬間、マスクをした状態からでも分かるくらいパーっと笑顔となる。
「ホント久しぶりだな。メッセージは何度ももらってたけど会うのはCM撮影以来だからな」
「わー!覚えててくれたんですね!」
「当たり前だろ?美奈と初めて会った時のことだからな」
「っ!そ、そんなに私との思い出を大事にしてくれてたんですね……」
何故かこのタイミングで耳まで真っ赤にして美奈が照れる。
そんな美奈を不思議に思いつつ、俺は質問をする。
「で、どうしてここにいるんだ?もしかして美奈も当選したのか?」
「あ、はいっ!私もバッチリ当選しました!」
そう言って嬉しそうに当選した証拠を見せてくれる。
「ま、まじかよ。俺の知り合い当選しすぎだろ。本当に倍率4万越えだったのか?」
4万人知り合いがいたら1人しか会わない計算なのに、4人も出会ってしまった。
「あのぉ、リン様。私、仕事で来るのが遅くなったのですが……サインを書いてくれますか?」
先程まで嬉しそうだった美奈が不安そうな声で聞いてくる。
「矢上さん。美奈にサインを書いても良いですか?」
「もちろんです。もう人は来ないと思うので小鳥遊さんへ色々とサービスしてください」
「分かりました」
俺の返事を聞いた矢上さんがスタッフたちに混ざって片付け作業へと移る。
俺たちは片付けの邪魔にならないよう人気のない場所へ移動し、美奈へサイン会を行う。
「今日は仕事終わりなのに来てくれてありがとう」
「いえいえ!私、リン様のファンですから!」
そう言って美奈が嬉しそうにサイン入りの写真集を受け取る。
「それで何かしてほしいことはあるか?仕事終わりに来てくれた美奈には特別に何でも言うことを聞いてやるぞ」
「な、何でもですか!?」
俺の言葉に目をキラキラさせながら言う。
「あ、あぁ。わざわざ来てくれた美奈にサインだけってのも忍びないからな。もちろん、限度はあるが」
そう言うと美奈が頭を悩ませる。
「うーん……あっ!なら私たちの新曲を聴いてくれませんか!?」
「新曲?」
「はいっ!今度、のぞみ坂47の新曲が発売されるんです!その曲の感想を聞きたいです!」
「分かった。それくらいお安いご用意だ」
「ありがとうございます!」
そう言って美奈が嬉しそうにスマホを取り出して1つの動画を見せてくれる。
その動画はまだ公開されていない新曲のミュージックビデオ。
俺は美奈から片方のイヤホンを受け取り、右耳に装着。
美奈も左耳にイヤホンを装着し、俺の方にもたれかかる。
「えへへ……なんか恋人みたいですね」
「そ、そうだな」
お互いの耳にイヤホンを装着している以上、お互いの身体がくっつかないといけないことは理解している。
(めっちゃ良い匂いするし。なんかドキドキするな)
誰もいない空間で美奈から恋人みたいと言われ、美奈のことを少し意識してしまう。
そんなことを思っていると…
『〜〜』
曲が流れ出し、のぞみ坂47のメンバーが画面内で踊り出す。
「お、美奈はセンターか」
「はいっ!夏ということで水着姿の私です!」
その言葉通り、美奈はビキニタイプの水着を着ており、可愛い笑顔と引き締まった魅力的な身体に視線が吸い寄せられる。
「胸に自信がないのであまりジロジロと見られるのは恥ずかしいですが……」
「そんなことないよ。とても似合って可愛いよ」
「あ、ありがとうございます……」
隣に座っている美奈が照れながら答える。
確かに周りの皆んなと比べ胸の大きさは無いが、美奈の魅力は胸じゃない。
(俺は美奈の笑顔が好きだからな)
可愛い笑顔で踊る美奈に釘付けとなりながら歌を聴く。
そして歌が終わり、俺たちはイヤホンを外す。
「ど、どうでしたか?」
「うん。すごく良い曲だよ。それに美奈の踊りもとても良かった」
「わー!ありがとうございます!」
マスク越しでも分かるくらい嬉しそうに美奈が笑う。
その後も美奈とゆっくり談笑し、結局、矢上さんが迎えに来るまで俺たちは話し続けた。




