サイン会 2
サイン会当日となる。
今回、某デパート内にある書店を貸切って行うこととなっており、俺は矢上さんと寧々の3人で向かった。
「おぉー!サイン会って感じだね!」
寧々がデパート内に飾られた『夏目凛 サイン会!!』と書かれた垂れ幕をみて、感嘆の声を上げる。
「今日はデパートで働く職員がフル出勤してるらしいですよ。サイン会のサポートに加え、サイン会に訪れた方々がデパート内で買い物することを想定して」
「確かに相乗効果としては期待できますね」
今回、当選した方たちは時間が決められており、「10時〜11時まで」等、人数の振り分けを行っている。
そのためサイン会までの時間を潰す人が大勢現れるはずだ。
そんな話をしながら俺はずっと気になっていたことを問いかける。
「それで一つ聞きたいんですが……」
「なんでしょうか?」
「……なんで開店1時間前にも関わらず大勢の人が並んでるんですか?」
俺はデパートの入り口で発生している大行列に視線を向けつつ問いかける。
開店前ということで裏口にあった職員通用口からデパート内に入ったため、入り口前にできていた大行列に気づかなかった。
「あ、その人たちはサインを書いている凛さんを遠目から見ようとしてる人たちですね」
「つまりお兄ちゃんを生で見ようとしてる人たちだよ!」
「……な、なるほど。でも確か今回のサイン会って規制線みたいなのを敷くから当選した人以外、俺を見ることなんて無理なんじゃないですか?」
「その通りです。サイン会を行っている様子を周囲から眺める事ができるようにすれば大混乱は間違いないですから。でも……何故かたくさんの方たちが来ちゃったんですよねぇ。当選者以外の方は凛さんを見ることができないと告知したのに」
「みんな暇人かよ」
ファンの行動力に天晴れをあげたい。
「規制線、強化しないとダメみたいですね」
「さすがお兄ちゃん!事前の準備だけじゃ物足りないみたいだね!」
「そんなんで褒められても嬉しくねぇよ」
そんな会話をしつつ、俺たちはサイン会場へ向かった。
サイン会場へ到着し、準備をしてくれたスタッフたちへ挨拶をしながら控え室へ到着する。
「矢上さん。ここにいるスタッフ全員が女性だったんですが男性のスタッフはいないんですか?」
「いませんね。全員が女性スタッフです」
「………」
(男手とか必要ないんだろうか)
「良かったね、お兄ちゃん!今日は一日中若い女の子に囲まれるね!」
寧々の発言通り、サイン会のスタッフは皆若い女の子ばかり。
スタッフの採用条件に『若い女性のみ』と書かれていたのではないかと疑いたくなるレベルだ。
「おかげで挨拶周りしただけで大変な目に遭ったけどな」
サイン会の準備に奮闘してくれた女性スタッフたちに感謝の気持ちを込めて笑顔で「ありがとう」と伝えただけで再起不能となった女性が多発した。
「なぜ女性ばかりになったんですか?男手は必要になると思うのですが……」
「もちろん男手は必要です。なのでサイン会の会場作りはキツイ思いをしながらやり遂げたと聞きました」
「見るからに重そうなテーブルや棚がありますからね」
これらを女性陣だけで運んだとなればかなり大変だっただろう。
「仕方ありませんよ。サイン会のスタッフを募集したら女性しか集まらなかったので。しかも募集人数の何百倍もの応募数がありましたから。まさかスタッフ決めまで抽選を行うとは思いませんでした」
「………なんかごめんなさい」
何故か申し訳なさを感じ、矢上さんへ謝る。
「当選しなかった人たちがお兄ちゃんを一目見ようと応募したみたいだね。だからサインをお願いされても簡単に引き受けたらダメだよ?スタッフ全員に書くことになるから」
「わ、わかった」
そんな会話をしながら開始時間が来るまでのんびり過ごした。
開始時刻である10時前となる。
俺は用意された椅子に座り開始時間が訪れるのを待つ。
今回のサイン会は来場してくれた方が俺と会う前に増刷された写真集を購入し、購入したばかりの写真集へ俺が直筆でサインするという流れだ。
「午前は10時から12時まで。1時間休憩を挟み、13時から17時までサイン会を行います。予定では720名が来られます。計6時間、頑張ってください!」
「ありがとうございます」
隣でストップウォッチを持っている矢上さんから励ましの言葉をもらい、俺は前を見る。
そのタイミングで10時となり、ダーっと人が会場に入ってくる。
その様子を眺めていると…
「えっ!桃ちゃんと美柑さん!?」
「おはようございます!夏目様!」
「おはー!」
何故か先頭に桃ちゃんと妹の美柑さんがいた。




