表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/144

プロローグ

 とあるイベントに参加した俺は、たくさんの声援を耳にしながらステージに上がっていた。


「きゃーっ!リン様よ!」

「国宝級イケメンランキングで堂々の1位を獲得したリン様!カッコ良すぎるっ!」

「はぅ〜」

「おいっ!女性が倒れたぞ!誰か担架を持ってこいっ!」


 そんな騒ぎが起きている中、俺はステージに置いてある椅子に座る。


(なんでこんなことになったんだろう……やっぱり髪を切ったからだろうなぁ)


 そんなことを思いつつ、俺は髪を切った春休みのことを思い出した。



♦︎



「お兄ちゃん!今日は予定入れてないよね!?」

「あぁ。寧々に言われた通り、今日は予定を入れてないぞ」


 高校を卒業し、来月の4月から大学生となる俺、夏目凛(なつめりん)は、双子の妹である夏目寧々(なつめねね)から事前に予定を入れるなと言われていたため、一日暇していた。


 夏目寧々とは茶髪をツーサイドアップに結んだ双子の妹で、俺と同じく来月から大学生となる。

 街中を歩けば10人中10人が振り返るほどの美少女で、高校では校内1の美少女と呼ばれていた。


「それで、今日は何かあるのか?」

「うん!今日は超有名な美容師さんにお兄ちゃんの髪を切ってもらうんだ!」

「………は?」

「予約しても施術は半年後になるくらい有名な美容師さんだからね!切っても絶対、後悔しないから!」


 そう言って俺の手を引っ張って外に連れ出す。


 寧々からは常々、目元まで伸ばしている前髪を切れと言われていた。

 そんな寧々の言葉を無視し続けていたら、強硬手段に出られたようだ。


「お兄ちゃんが何で髪を伸ばしてるかは理解してるよ。昔、天才子役って呼ばれて有名だったから、それがバレないように髪で目元を隠してるんだよね?」


 俺は小学生の頃、『夏目レン』という名前でたくさんのテレビに出演していた。


 しかし、母さんの死後、俺は芸能活動を辞めた。

 理由は芸能界で活動していた俺のことを1番応援してくれていた母さんが亡くなったから。


 その日以降、俺は芸能界で活動する意味を失い、芸能界を引退した。

 突然の引退だったことでメディアに追われて大変だった俺は、気がつけば髪で正体を隠すようになっていた。


「でも、お兄ちゃんが芸能界で活動してたのは小学生6年生まで!あれから6年経ってるんだから、お兄ちゃんの顔を見て夏目レンを思い出す人なんていないよ!しかも、お兄ちゃんは本名で活動してなかったんだから尚更だよ!」

「そう……だな」


 寧々の言う通り、忘れてる人は多いと思う。

それに、今の髪を鬱陶しいと思っている自分もいた。


(この髪のせいで中学、高校の頃は「根暗」だの「陰キャ」だの言われたからなぁ。そのおかげで友達はゼロだし)


 幸い、中学と高校は寧々が同じ学校だったので、独りぼっちということはなかったが。


「だから大学生デビューのためにも絶対、髪を切ろ!」

「だ、大学生デビューだと!?」

「うんっ!お兄ちゃんはカッコいいから、きっとモテモテ生活だよ!」


 とても魅力的な提案に俺の心が揺らぐ。


(寧々の言った通り、活動してた時から6年も経ってる。それに髪を伸ばして生活するのもうんざりしていた)


「そう……だな。バレないとは言い切れないが、6年も経てば誤魔化せるか。それに寧々が予約した美容師は半年待つくらいの凄腕。いい機会だから切ってもらうか」

「うんっ!じゃあ、美容室へレッツゴー!」


 俺は寧々と一緒に美容室を目指し、外へ出た。




 美容室に到着した俺は、寧々に紹介された凄腕美容師に髪を切ってもらった。

 凄腕と呼ばれるだけあって見事な手際で、今の俺は前髪を短めに切り、両サイドにはブロックを入れている。

 そして髪の毛をワックスなどで整えおり、爽やかなイケメンに仕上がっていた。


 ちなみに、俺が髪を切った姿を目にした寧々は「ま、待って!直視できないくらいカッコいいから5分だけ待って!」とか言って、10分くらい俺の顔を見ては逸らすことを繰り返した。


「ねっ!誰もお兄ちゃんが昔、芸能界で活躍してた夏目レンって気づかなかったでしょ!?」

「そうだな。美容室でいろんな人から注目を浴びたけど、誰1人として夏目レンの名前が出なかった。それに今も街中を歩いてるけど、誰も声をかけて来ない。やっぱり、みんな俺が夏目レンってことに気づかないんだな」

「通り過ぎる女性たちが5度見くらいしてるけどね」


 そんなことを話しながら家を目指して歩いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ