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ホテルの部屋で、佐藤とリーは静かに見つめ合っていた。お互いの心に刻まれたあの日の記憶が、今この瞬間に溶け込んでいくようだった。
リーの瞳には、ほんの少しの寂しさと、同時に何かを求めるような熱が宿っている。佐藤は、その瞳に吸い込まれるように、リーに近づいていった。
リーの服がゆっくりとはだけ、肌がちらりと見えた。その瞬間、佐藤の脳裏に、繁華街の暗がりで怯えた彼女の姿が蘇る。あのときの彼女と、今目の前にいる彼女が重なり、時間が巻き戻されたような感覚に襲われた。
佐藤は静かに手を伸ばし、リーの頬に触れた。彼女の肌は温かく、やわらかかった。リーは軽く目を閉じ、佐藤の手の感触を感じている。二人はそのまま、自然にベッドへと向かい、互いの温もりを確かめ合った。
夜が更け、部屋の中は静寂に包まれていた。佐藤は隣で眠るリーを見つめ、ふと自分の中で何かが解けていくのを感じた。彼女の隣にいることで、これまで感じていた孤独や不安が少しずつ消えていくようだった。
数日後、会社での打ち合わせが行われていた。佐藤は中村を含む同僚たちの前で自信に満ちたプレゼンテーションを行っていた。
佐藤の話に引き込まれるように、周りのメンバーもうなずきながら耳を傾けている。会議が終わると、上司が笑顔で言った。
「では、この件、佐藤くんに任せたよ。」
「ありがとうございます。」
佐藤は頭を下げ、自信に満ちた表情を見せた。仕事は順調に進んでおり、中村との関係も良好だ。彼女との何気ないやり取りが、日常の中に安らぎをもたらしてくれる。
昼食時、佐藤は公園のベンチに座り、カップコーヒーを片手にリーのことを思い出していた。
リーは、数日前に中国に帰国した。その決断に一抹の寂しさを感じたが、彼女が新たな道を歩むことを願うばかりだった。
ベッドでのひとときも忘れがたいが、もっと深く記憶に刻まれているのは、初めて出会った時の衝撃だ。リーの見せる強さと内面の弱さ、そのギャップに魅了されたのだろう。彼女は外見こそ強く見せていたが、心の奥底では傷つきやすい部分を抱えていた。
「再会ね。久しぶり。」
最後に会ったときの彼女の言葉が、今でも耳に残っている。その言葉には、暗闇の中で光を求めるような輝きがあった。
佐藤はコーヒーを一口飲み、空を見上げた。青空の下、光と影が交錯するように、あの日の繁華街での記憶、ホテルの夜、そしてリーの「再会ね」という言葉が、彼の心の中でひとつに溶け合い、まるで『明影』のように、鮮やかでいてどこか儚い映像となって浮かんでいた。




