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リーはバーで酩酊状態に陥り、佐藤は彼女を助けながら店を出た。リーは足元がふらつき、ビルの壁に寄りかかってしゃがみ込む。
佐藤は困った表情でリーに手を差し伸べ、「大丈夫ですか?」と声をかける。リーはその言葉をぼんやりと繰り返した。「だいじょうぶ…ですか?」しばらく無言のまま、また口を開く。「だい、じょう、ぶ、です、か…」
ふと、リーがつぶやく。「以前、そう言って私に声をかけてくれた人がいたわ。」
その言葉を聞いて、佐藤の記憶も繁華街でリーと初めて出会った時のことがよみがえる。「そう。あの時も『大丈夫?』って声をかけてくれた。」リーはうつろな目で続けた。「そう、あの時もあなたね。覚えているわ。」
二人は夜の公園のベンチに座っている。少し酔いが冷めた様子のリーが、隣の佐藤に語りかける。
「あの時、付き合っていた彼がいたの。中国から日本進出のために来たメンバーで、とても意欲的だった。でも、なかなかうまくいかなくて、1年くらい思うような結果が出なかった。彼はプレッシャーに押しつぶされて、次第にお酒に逃げるようになってしまった。私は彼を支えようとしたけれど、それが彼の甘えになって、暴力を振るうようになったの。」
リーは少し目を伏せ、記憶をたどるように話し続ける。
「繁華街には、私たちの同郷でスナックを経営しているママがいて、彼も私もよくその店に通っていたの。その夜も、私たちはその店で飲んでいた。あなたの会社とのパートナーシップが決まりかけていて、私もようやく希望が持てるようになっていた。でも、私が少し注意をしたら、彼が突然暴れ出して、『別れよう』と言い出したの。私も売り言葉に買い言葉で、『別れる』と言ってしまった。すると彼は、私が着ていた服を返せと言い出して…。あの服は彼からのプレゼントだったから。」
リーは一息つき、言葉を続ける。
「私も意地になって、彼からもらった服を脱ぎ捨てたわ。下着姿になった私を見て、彼は『全部だ』と言ったの。その時、彼の目を見て、もう終わったんだと感じたわ。全部脱いで、店の入り口に掛かっていたコートだけを羽織って、外に出た。街を歩ける姿じゃなくて、ビルの下に隠れていたの。たぶん、その時に声を掛けてくれたのが佐藤さんだったのよね。」
佐藤は静かに頷く。「ああ、たぶんそうだね。」
「その時の『だいじょうぶ』、覚えているわ。どうしようもなくなっていた私を救ってくれた言葉だった。」
二人の間にしばらく沈黙が流れる。
「再会ね。久しぶり。」
「…ああ。」




