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シンクラ社の輝かしい成功の陰に隠れていた問題が、ついに明るみに出た。かつて高いコストパフォーマンスを誇り、競合を圧倒していたシンクラ社のビジネスモデルに、ほころびが見え始めたのだ。彼らが顧客を引きつけるために行っていた戦略――つまり、コスト度外視の価格設定で受注を勝ち取る方法――は、実際には大幅な赤字を生んでいたことが明らかになった。
「ニュースでリストラの話が出ているよ」と、中村は職場での昼休みに佐藤に話しかけた。彼女はスマートフォンを操作しながら、シンクラ社の最新のニュースを追っていた。「利益が出ていないプロジェクトが多すぎて、持ちこたえられないみたい。」
佐藤は驚きを隠せなかった。かつての同僚が働いている会社が、そんな危機に直面しているとは夢にも思っていなかった。彼は少し考え込んでから言った。「確かに、あのやり方ではいつか限界が来ると思っていたけど、まさかこんなに早くとは…。」
「うちの会社に戻ってきたいってクライアントもいるみたいだね」と中村は続けた。「シンクラ社が提供していた価格が、いかに無理なものだったかがわかってきたみたい。」
佐藤は静かにうなずいた。仕事の世界は厳しい。数年前、シンクラ社の急成長に脅かされた彼らの会社も、今や逆にその衰退の恩恵を受ける形になっていた。
数カ月後
佐藤がオフィスで仕事に集中していると、同僚の一人が声をかけてきた。「そういえば、聞いたか? 田中さんと北川さん、シンクラ社を辞めたらしいよ。」
その知らせに、佐藤は思わず手を止めた。「本当か? どこに行ったんだ?」
「どうやら、それぞれ違う会社に移ったみたいだ。あのリストラ騒動が原因かもしれないな。」
佐藤は複雑な気持ちでそのニュースを受け止めた。かつて尊敬していた上司の田中も、野心的な北川も、シンクラ社に移ったことで新たな可能性を追求していた。だが、会社の問題に直面して、結局はまた新たな道を探さなければならなくなったのだ。
「どうやら、シンクラの夢は長くは続かなかったみたいだな」と佐藤は心の中で呟いた。彼はその後の田中や北川のことを考えながら、自分自身の選択についても考えを巡らせた。今の会社に残るという決断が、彼にとって最善だったのかもしれない、と。
オフィスの窓の外では、秋風が木々の葉を揺らしていた。季節の変わり目は、人生の転機のようでもあり、佐藤はその風に乗って新たなチャンスや課題が訪れることを感じていた。シンクラ社の衰退がもたらす変化の波は、まだ彼らの会社にも及んでいない。しかし、その余波がどう影響するのか、彼の胸には小さな不安が生じていた。




