(33)
人づてにリーの会社のメンバーの情報が伝わってきた。リーと、佐藤の会社から引き抜かれた北川がその案件の担当となるらしい。まさに佐藤の会社を意識したような布陣だった。
その案件のプレゼンが行われたという話が、佐藤の耳にも入ってきた。しかし、プレゼンを行ったのはリーではなく北川だったという。北川のプレゼンは、どうも期待外れな内容だったらしく、聞き手たちはもどかしさを感じたようだった。
数日後、その案件は無事に佐藤の会社が獲得することになった。佐藤は決定の連絡を電話で受けると、早速田中部長へ報告に向かった。部長は満足げな表情を浮かべ、「よくやった」と佐藤の肩を叩いた。役員たちからも労いの言葉がかけられ、社内には安堵と喜びが広がった。
自席に戻った佐藤は、ほっと一息つきながら机に置かれた資料に目を通していた。ふと、佐藤の電話が鳴り響く。ディスプレイに表示された名前を見て、佐藤は一瞬驚いた。発信者は北川だった。
佐藤は少し迷いながらも、思い切って電話に出た。「もしもし、佐藤です」と穏やかな口調で応じる。
佐藤は電話の相手が北川であることに少し驚きつつも、以前の同僚でもある彼との再会を嬉しく思った。「もしもし、佐藤です。久しぶりだね、北川さん。」
北川の声は少し気まずそうだったが、それでも明るさを保っていた。「ああ、佐藤さん。久しぶり。今回の案件、すごいね。おめでとう。いやー、俺たちも全力でやったんだけど、やっぱり佐藤さんの会社は強かったよ。」
佐藤は笑いながら応じた。「ありがとう。でも、お互い全力を尽くした結果だからね。こういうのは仕方ないさ。」
北川はため息混じりに「まあ、そうだよな。でも、正直悔しいよ。あの時、俺たちがもっと上手くやれてたらって思うとさ。」と本音を漏らした。
佐藤は少し同情しつつも、励ますように言った。「そんなことないよ。お互いに成長している証拠だろう。これからもお互い切磋琢磨していこう。」
北川は笑い声を上げて、「そうだな、佐藤さんは昔からポジティブだよね。ところでさ、せっかくだからお祝いにお酒でもどう?昔の話とか色々聞かせてほしいしさ。」
佐藤は一瞬迷った。中村のこともあり、北川との再会が何か波風を立てるかもしれないという懸念が頭をよぎったが、すぐにその考えを振り払った。結局、元同僚との一杯ぐらいは問題ないだろうと判断した。
「そうだな、久しぶりだし、一杯やろうか」と佐藤は応じた。
「じゃあ、今日の夜なんてどうだい?いいバーを知ってるんだ」と北川が提案し、佐藤はその誘いに乗った。
電話を切った後、佐藤は少しだけ胸の中に引っかかるものを感じたが、それでも昔の仲間との再会を楽しみに思い、夜の飲み会に思いを馳せた。




