(25)
翌週、昼食時の休憩室では、佐藤が最近行った登山の話題で盛り上がっていた。山の美しさや達成感について話す佐藤の顔には、まだ山の新鮮な空気が残っているかのようだった。
「登山かぁ。」一人の男性同僚が感慨深げに言った。「僕には無理ですね。もう体力がないですよ。」
他の女性同僚も笑いながら続けた。「私もです。でも、いつかやってみたいと思うんですけどね。」
中村も興味を示し、楽しげに佐藤の方を見て言った。「実は私も、ずっと山登りをしてみたいと思っていたんです。でも、なかなか機会がなくて。」
昼食が終わり、佐藤は自分のデスクに戻り、午後の仕事に取り掛かった。しばらくして、佐藤の携帯が鳴り、画面には見覚えのない番号が表示されていた。佐藤は一瞬ためらいながら、電話に出た。
「もしもし、佐藤です。」
電話の向こうから聞こえてきたのは、どこか聞き覚えのある落ち着いた声だった。「ああ、佐藤さん。先日は山でお世話になりました。杉本です。」
佐藤はすぐに思い出した。「ああ、杉本さん!お元気ですか?」
「ええ、おかげさまで無事に帰宅できました。妻は、まだ足を引きずっていますが、良くなったらまた山に行くと意気込んでいますよ。実は、明日、渋谷の近くに行くので、せっかくなのでお礼を兼ねて佐藤さんとお昼でもと、電話しました。」
佐藤は思い出した。下山の際に、彼が渋谷近辺の会社に勤めていることを話した時、自然と連絡先を交換していたことを。「もちろんです。明日、お昼は空いていますから、ぜひご一緒しましょう。」
電話を切った後、佐藤はなんとなく暖かい気持ちになった。山での偶然の出会いが、こうして新たなつながりを生むとは思ってもみなかった。次の日の昼食が楽しみだった。




