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天気が回復し、青空が広がる中、佐藤は下山を開始した。先程の山小屋で出会った年配の夫婦も前を下っているのが見えた。雨が上がった後の山は、一層鮮やかな緑に包まれ、木々の間から見える眼下の風景には、小さな民家の集落がぽつりぽつりと並んでいた。遠くから聞こえる川のせせらぎと、鳥のさえずりが、自然の調和を感じさせる。
しばらく歩いていると、前を歩いていた年配の女性が急に足を引きずり始めた。心配になった佐藤は、急いで足を止めて声をかけた。「大丈夫ですか?」
女性は少し顔をしかめながら、「少し足をひねったみたいです。でも、なんとか大丈夫です」と答えた。しかし、その表情には痛みがうかがえた。
旦那さんも心配そうに妻の足元を見つめ、「しばらく休んでからまた下ろうか」と提案した。しかし、佐藤は周囲の状況を見回しながら思った。下山道はまだ長く、この先に休める小屋もない。日が沈む前に安全に下山するためには、時間を無駄にできない状況だった。
佐藤は冷静に考え、提案を口にした。「もしよければ、僕が荷物を持ちますので、ご主人が奥さんに肩を貸して一緒に下りましょう。そうすれば、無理なく下山できると思います。」
夫婦は一瞬ためらったが、佐藤の真剣な表情を見て頷いた。「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」旦那さんが申し訳なさそうに言った。
「もちろんです。安全が一番ですから」と佐藤はにっこり笑って、二人のリュックサックを背負った。旦那さんは優しく妻の腕を取り、肩を貸してゆっくりと歩き始めた。
三人は慎重に一歩一歩を進めた。途中、女性が何度か痛そうな表情を浮かべたが、夫の支えと佐藤の心強いサポートに励まされ、次第に安堵の表情が見え始めた。山道が開け、視界の先に広がる集落がだんだんと近づいてくると、彼らの顔にも安心感が広がった。
やがて、無事に山道を抜け、民家の集落に到着した。佐藤は荷物を二人に返し、「これで大丈夫ですね。無事に下りられて良かったです」と声をかけた。
年配の夫婦は何度も感謝の言葉を述べ、佐藤の手を握りしめた。「本当に助かりました。ありがとうございました」と、涙ぐみながら言った。
佐藤は穏やかな微笑みを浮かべ、「いえ、こちらこそ楽しい登山でした。またいつか山でお会いできるといいですね」と応じた。
見上げると、再び青空が広がり、山の頂きが日差しに照らされて輝いていた。佐藤は心の中で、小さな達成感とともに、この山の美しさをかみしめた。




