どこにでもいる普通の人。
王冠を被った犬のマスコット、彼は『自分は死にそうな人間を救う神だ』と言った。
「この国の奴隷階級、ブラック企業で死にかけている人間を異世界に招待してストレスを解消!
そんな心優しい神さ」
ブラック企業で15年以上、月の残業時間80時間以上!内サービス産業60時間以上!
それでいて、平均給与年収300万以下の奴隷労働者に希望を与える神。
それがボク、修羅道の神であり、死と戦闘の神だ。
と犬の神様は言った。
「最近じゃこの世界の遊戯・・・ゲームを模した世界に、奴隷労働者階級の人間の魂を招待して、ブッ殺しあってストレスを発散してもらうんだ。
ボクの用意した魔物とか魔獣も殺したりしてね」
・・・・
「そんなボクがキミに目を付けたのは、あっち世界では5年前くらいかな。
キミ、中々死なないし、やたら回復力が高いし、どうやったら死んでくれるのかと観察してたんだ」
マスコットみたいな格好してるくせに邪悪な犬だ、ヒトが死ぬまで見張ってるとか、不幸を呼ぶ黒犬ブラックドックか?
「はっはっはっ!それはそれ、彼って元勇者だからね!
精神力と回復力、危険回避能力は常人を遥か超えてるんだよ」
こっちの子供はやたら自慢げだし、なんだろう。
「つまりオレは、自分を神と名乗るそちら二人殺されたって事?
オレにはそんな記憶は無いし、そう簡単に殺されるとは思えませんが」
仮に殺されたとしても全力で抵抗したはず。
この二人に対して憎悪と殺意と恐怖、その記憶や感情すら浮かんで来ないのはおかしい。
「まぁそれはね、僕らだって本当は寿命で死んで欲しかったよ。
でもちょっとした不運が重なったんだ」
子供と犬が見あげた空間に光りが浮かぶ。
薄い液晶画面のような映像、そこにはいつも見慣れたオレの姿があった。
「幽体離脱?自分が歩いている姿を見あげてるってのは、、、なんか新鮮だ」
「まぁまぁ、ここからここから。
もう少ししたら正面から大型の客車・・バスってのが走って来るからさ」
「あのさぁ・・」バスが突っ込んで来たくらいで死にませんよ、避けるから。
正面から来るなら普通は避ける、真っ正面から来る大型バスを避けられないほど疲れてたとかですか?
「そのバスも、我らと同じ要件だったとしたらどうかな」
犬の笑い顔が恐い、同じ要件って・・・バスの神様もオレを殺そうとして現われたとかです?
「じつはさ、そのバスには異世界に行く途中の、17歳の学生が30人くらい乗ってたんだ」
[集団転移]バスに乗ったクラス全員を、異世界に転移させるはずだったらしい。
「そのバスを運転していたのが、異世界の関係者だったんだ。けどね」
1クラス全員を転移させ、殺し合わせる[バトルロワイヤル]
学生1人に一つ 武器・スキル[特殊技能][特異体質]を与え、試練を与えて最後まで生き残ればどんな願いも一つだけかなえる、そんな悪趣味な神の遊び。
「・・・その集団転移に巻込まれた、とか?」
「それも違うんだよねぇ・・」子供の姿をした神?が困ったような顔で首を傾げる。
「集団転移はもっと後、トンネルとか人目の着かない所で行われるはずだった。
その前準備、騒がれる前に学生を全員眠らせる手筈だっただろう」
「そう、それがさぁ、丁度キミが歩いていた場所から30m先でバスの中の全員、バスに仕掛けられた眠りの罠に掛っちゃって」
運転手ごと眠むってしまったバスは、そのまま居眠り運転で蛇行し始めていた。
「ボクとしては、集団転移とかでキミを連れて行かれるのは許容出来ない話だからさ。
そのバスの前輪を破壊してキミを守ろうと」
道路に飛び出した所で、オレも飛び出したらしい。
「全くビックリだ、神である私を救おうと飛び出すとは」
ちなみにマスコット犬は、オレが挽かれて死んだ直後の魂を持っていく為に、道路の真ん中で待ち構えていたらしい。
「犬は見捨てておけば良かったかもですが、まぁそれでも助けたでしょうが」
「ワタクシも同じ要件だったのですが」
「え?・・」猫がしゃべった、美人猫が美人な声で喋った!どういうこと?
「キミの目の前にいるのも神だよ」
「・・・マジですか・・・」猫の神様か、道理で美人猫なわけだ。
「その身体の持ち主、その一族には世話になっていまして」
この身体、つまりこの少女の母系の方の曾祖母が、傷付いた猫神様を拾って介護したらしい。
その御礼に彼女の家の娘達を守るようになったと。
「食事と寝床、その礼に少々見守っていただけです。ですが・・・」
この体の持ち主、彼女の姉は数年前にこの国の宰相と結婚して家を離れ、彼女の兄は戦争で戦果を上げ、侯爵家千人将から5千人の兵を持つ事の許された将軍に出世した。
そんな時、彼ら・彼女らの母親が病死した。
侯爵家の父親は母親の死去すぐに新しい母親を招き入れ、彼女には血の繋がらない二人の姉と妹が出来た。
そんな中でこの体の持ち主である少女と王族との婚姻、血の繋がらない二人の姉と妹がソレを大人しく認めるわけも無く。
彼女を貶め追い出し、始末する準備を始めたらしい。
「人間同士の争いに直接関わるのは面倒でな、それで娘の身を守る者を探していたのです。
出来れば猫に理解があり勇気と力と悪知恵のある者を」
「それがオレですか?オレは普通のどこにでも居る人間ですよ?」
「「「にやっ」」」三人の神を名乗った存在が笑う、なんだか凄く嫌な気配。