本気とは?
「1分、1分ですか」
真剣勝負での1分は長い。
喧嘩での殴り合いで1分も続く事はほとんど無い。
60秒も殴り続けたら呼吸も拳も持たない、全力で殴り合えば手の骨が折れてしまいます。
「万が一お前が1分もったら、そっちのヤツも見逃してやる。どうだ?破格の条件だろ」
ニヤリッと笑った彼女は、その条件以外には逃がす気は無いらしい。
「・・・」どうしましょう、この邪悪な動物を差し出す方が安全なのですけれど。
「へへへっ、そっちが来ないならこっちから行くぜ」
闘気を吐きながら歩き始めた、こっちの返事を待たないタイプ。
(くっ、巻き込まれました!)
「1分ですか、1分ですよね?仕方ないです!」業腹ですが、今は1分を逃げ切る事に集中します!
「解ればいいんだよ!」
プリティな彼女が1歩進むごとにプレッシャーが高まる、逃がす気は無さそう。
暴の圧に対し、低く構えるユズキ。
この構えは両手を開き獲物を捕えるフォーム、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン。
捕えて極めるレスリングスタイルだった。
「へぇ・・・無手でやる気かよ、オレを舐めてるって感じじゃねぇが」
プリティの足が止る、狙い通りだ、もっと迷って警戒して下さい。
(このまま時間を稼いで何とか)
「何が狙いか解らねぇが、一発殴れば解るよな!」
プリティの振り上げた大戦斧、狙いは頭!脳筋さんめ!
長柄斧の柄を掴む両腕、筋肉が堅く隆起しその腕に力がこもってます。
(パターンB!)
私も攻撃のトリガーを引く!
低く落とした自重を更に低く落とし、地面を滑るように移動する歩法!
「向かって来んのかよ!?」真っ直ぐ振り下ろされる、彼女の持つ最強の凶器。
戦斧は速度を増し、ティアナの額を目掛け落とされる。
だがそれすら恐れない動きがユズキに勝利を掴ませた。
長柄物の内側、武器を掴む腕をくぐり抜け、私の両腕にはプリティの身体が。
「それで? ここからどうするんだよ」彼女は身体を掴まれても全く動かなかった。
私の両腕に感じる重さと堅さ。
何年も雨に打たれ、削れる部分が無くなった堅い岩。
地面の上に置かれ、分厚く重く密度の高い塊。
私が両腕に感じたイメージはそれだった。
体重・筋肉・骨格、その全てがユズキとは違う。
彼女の全てが堅く、分厚く頑丈だ。
(足に根っこでも生えてるみたいです!押しても引っ張っても動かない!)
「ガキの力じゃ私は倒れねぇよ!」
「そうでしょうね!」それも想定済みなんですよ!
魔力と呼吸は十分溜めた、さあ存分に味わって下さい。
[電撃]
背中に回した手の平から、直接流す全力の電力!
「ガハッ!テッ、テメェ」
「肌の上から直接流す電気です、痛いくらいじゃ済みませんよ!」
更に電力アップ!スタンガンです、痺れて下さい!
「ウガガガガガ!!!!」堅い筋肉が更に締まり、心臓の痙攣が伝わってくる、これならば。
(ここで私の魔力、全部使います!)
身体から力が抜け始め、意識が薄れそうになる。「それでもまだ!」
歯を食いしばり失神を耐える私、電気の衝撃を筋肉で耐えるプリティ!
「我慢比べ!です!」「ふっふざけ、うががががが!!!」
社畜の我慢強さは異常ですよ?
眠さ・ストレス・吐き気・身体の疲れ、15連勤中で半分意識が無くてもエクセルに入力し、開いたメールに返事を書くんです。
ブラック企業の社畜は、半分くらい意識が無くても働けるスキルがあるのですよ。
・・・・・・・・・・
「勝っ・・・た」半分意識のない私は、脱力したプリティの彼女を抱えたあと、ゆっくりと手を放した。
意識を無くして働いて、気が付けば自分の打った数字に覚えが無く。
翌日には、メールを返した事すら忘れていますけれど、それも社畜にはよく有る話だ。
メールの返信など、送った後で確認すれば良いのです。
「はぁはぁはぁ・・・は~~~」呼吸を整え深呼吸。
森の空気・大地の風が私を包んだ。
「ん・・・んっ、はぁ~~~」
酸素が身体に染み渡るように脳が起き始め、半覚醒状態の頭から霧が晴れ、思考が戻り始めた。
「やった!ボクのキュアが悪の幹部・『ダイ・キラーイ』をやっつけたんだ!
ねぇいいよね?食べていいよね?」
棘吉が飛び跳ねながら駆けつけてくる、ボクのキュアとは一体だれの事でしょうか??
「食べて良い訳ありません」
何がダイ・キラーイですか、自分が嫌いなだけでしょう、それに。
「ツ!・・くそっ、ちょっと飛んじまったぜ。
でもまぁそっちの切り札は終りみたいだな、じゃあ次ぎはこっちの番だな」
棘吉[敵]の気配に反応し、意識を取り戻したプリティがゆっくりと立上がる。
斧を支えにして立ち上がり、強く柄を握った。
「ダメージが殆ど見えないですね、あの電撃を耐えられてしまいましたか」
少なくとも目の中にある闘志に陰りは見えない。
「素の状態でそこまで解んのかよ?やっぱりやんなぁテメェは」
「戦っている相手の状態を見極めるのは基本ですから」
呼吸・視線・顔色、それくらいは見て判断できます。
「・・・オレの仲間にも似たような事をするヤツがいるが、まぁいい!死んどけ!」
「って待って下さいよ、もう1分は経ったはずです。見逃してくれるって約束でしょう!」
「約束?そんなのしたか?」斧を振り下ろす彼女に躊躇いは無い、本気だ!
ドッゴォー!!
斧が地面を砕き、振動が足の裏に響く。
(こっちはフラフラだっていうのに!だから約束って言ったのに!)
約束をする時はより強者を挟み、しっかり書類と証人を残しましょう。
それでも理屈を着けて反故するような方とは、2度と信用しません!
「少しは、話しが解る方だと思っていましたが」
約束を守らない人とは絶交ですよ?。
「そう嫌うなよ、オレは強いヤツと戦うのが好きなんだからよ!」
横薙ぎの一撃!
何とか躱しても風圧で身体が持って行かれる!
「・・・オレもお前みたいな強いヤツは嫌いじゃないぞ」
「?!は?」
「正し、約束を守れないヤツとはダチにはなれないって話だ」
スイッチを切り替えろ、ここからはじゃれ合いじゃない。戦いだ。
全力で倒しに行く、骨を折って鼻を砕いて立てなくしてやる。
「戦意を砕き心を折る、本気の喧嘩、したいのならしてやるよ!」
40歳の男が本気で女子を殴れるとおもいますか、無理です。
ですが相手を女と思わず敵と認識すれば、敵対者は殴ります。
約束を守らない、言葉の通じない相手には拳で語る、それが重要。




