悪夢の現実、現実の悪夢。
火憐は十二歳年下で、いつもオレを睨んでくる[時々殴ってくる事もある]兄妹の仲は最悪の妹だ。
産まれた直後、産着に包まれていた赤ん坊は、真っ直ぐ睨むようにオレを目で捉え、狼のように啼いたのには驚いた。感覚的には吠えた、に近いと思う。
天敵から身を守るような叫び声を上げ、満身の怒りを吐き出すような啼き声だった。
家に帰ると壁越しからでも睨み付けていたらしく、その上、這い這いし始める頃には噛み付きと積み木の投擲してくる、そんな赤ん坊だった。
彼女には、赤ん坊の頃から嫌われていた記憶しか無い。
幼稚園児の彼女は、オレを見つけては殴る蹴る引っ掻く物を投げてくる。
親の仇のように敵視しされ、オレが高校の寮に入るまで散々の毎日だった。
(中学の時に両親が仕事で忙しくて帰れず、オムライスとハッシュドビーフを作った時だけは大人しかったな)多分彼女の好物なんだろうとは思う。
「良い思い出はそれくらいしかないんだよなぁ」
『どうしても私、あんたへの殺意が抑えられないの、なんでだろ?』
寝ていたオレの首を絞めてそう言った、それが妹と直接交わした最後の会話だ。
(アレは前世でオレが彼女を殺したからだった、とか?馬鹿げてる、バカにし過ぎだろ)
前世とか魔神の魂とか、夢にしてもアホ過ぎる。
「どんな悪夢も、アホすぎたら笑えるジョークにしかならないぞ」
オレと火憐は生まれつき合わない性質だった、それだけだ。
オレの声とか匂いとか動き方とか存在自体が、どこか気に触った・本能的に嫌だったんだ。
それだけだ。
成人式の時に1度顔を合わせた時、いきなり殴られて痛かった。
凄いオーラを放ちながら『私が自分を抑えている間に早く消えて!』って感じで。
オレと違って優秀な妹だ。
国立の大学を出て海外に留学までして、確か今は一流企業の商社勤務で海外を飛び待っているとか聞いた。
妹が魔神の産まれ変わりとか、そんなわけが無い。
「そりゃそうさ、キミは魔神を倒した時、記憶も力も全部捨てて普通の人間として生きる事を願ってボクはそれを叶えたんだ。
でも魔神の魂・・・その欠片は自分を殺したキミを追って転生した。
だから魔神としての力・・性質を持ったままで人の器に入ったんだ、普通の人間として生きるには多すぎる力を持ったままでね」
火憐という少女は、万能の天才だ。
全てを知り理解出来き実践する少女、5歳の時はそんな誇張もされるほどの子供だったが。
6歳になる少し前、憑きものが落ちたように普通の・普通より少し賢く運動が出来る程度の子供になった。
『飽きた』多分その言葉を聞いたのはオレだけだと思う。
6歳の時点で普通の人間の能力を理解し、普通の子供を演じる事で、面倒くさくい周囲の目を閉じさせたんだ。
(バカ間抜けアホのろまクズ、罵倒も酷かったなぁ・・・)
どんだけ嫌われているんだって話だが、天才の彼女からすれば普通のオレ・・普通より少しし下のオレがそう見えたんだろうと思ってた。
「キミの死後、彼女は数日で小国の予算ほどの資金を集める事に成功。
そこから一ヶ月ほどで大陸国の債務と同じ金額の1000兆円を掻き集め、現在混乱の最中にある、あの国家に研究所を作るんだよ。
莫大な資金で無法国家に施設を立てて、道徳より自分の研究を優先する学者を集めて。
西側諸国の医学の倫理とか宗教の正義とかを完全に無視した、あの大国に相応しい法も道徳も無い研究所で死者の復活をさせる研究をね」
人体実験、危険なウイルスの培養、逃亡者には苛烈な制裁を下す。
生きた脳を解体し、人間の記憶・感情・魂を取り出しクローン培養した乳児に移植する。
「命の再生、言葉だけ耳にすれば素晴らしい偉業だと思えるだろうけど、実際医学の発展には多くの犠牲が生まれるだろ?
普通の研究なら実験動物を使う所を、あの国じゃ人間は畑で生えてくるって言われるくらい居るからね。人間を復活させるには人間を使って研究すれば良い、当然そう考えるよね。
それが今まで誰も手をつけなかった、手をつけても成功する事がなかった実験でなら。
人類から死と寿命を無くすほどの技術なら、どれだけの犠牲者が生まれるか・・・は別に良いんだ。
人間はほっといても死ぬし、食べ物があれば貧困地域でも勝手に増えるから。
でも、死なない人間が生まれるのは1000年ほど早いんだ」
長寿大国は高齢者を抱えすぎ、若者が減り続ける国が生まれやすい。
その国・その場所で生きられる人間の数に限界があるから。そう言われているが、少なくとも世代交代の出来にくい場所では若い芽は大きくなる事は難しいだろう。
死なない人間が増えたなら、そしてその人間が不死になる前と同じように喰い・活動し・以前と同じように生活すればどうなるか。
食料・エネルギー・生存環境、全てが彼らによって奪われ利用され消費される事になる。
新しい命が生まれにくく、産まれたとしてもそれは先に産まれた者達の奴隷階級・労働階級としての命として[利用]される存在に成り下がる。そんな世界で子供が増えるはずが無い。
「この世界はまだ寿命と死が必要なんだ。
少なくとも食料・エネルギー・生存環境の確保が出来ないうちに、星の人口が150億を超えるような事があれば・・・」
人間同士の殺し合い、少なくとも人間が半分になるまでの大戦争が起るかも知れない。
しかも戦争を起こし裏で操っているのは、支配者階級にいる不死の人間だ。
「『汝の隣人を愛せよ』とか言うじゃ無い?
でも人間が増えすぎたら
『汝の隣人を殺せ』とか神の代弁者は言うんじゃ無い?きっと」
子供の姿をした何かは笑顔でひどい事を言います。
「神の代弁者は、支配者階級の寄付で肥え太ってるからな。
餌を与える者に従うのはどんな動物でも同じだ」
そして王冠犬も容赦が無かった。
少なくとも今の人間、現代人は人間を食料として見ない。
戦争になれば他人は自分の食料を奪う、命を奪うのはその結果に過ぎないんだ。
殺して食う為に人は人を殺さない。
中世の人間が狼やキツネを狩り、その数を減らす事にした理由の一つは、
家畜を・自分達の食料資源を襲い奪うからで、食料として狩り喰う為では無い。
(人口が増えればより強い武器・兵器を持った人間が弱者を狩る。
そんな悪夢も現実になると言いたいのか?人間はそこまでバカじゃないはずだ。
少なくとも高齢者社会が訪れた国の殆どは自分達の出生率を下げ、人口数の管理を自分達で行っている。
人を殺さず、自分達の子供を作れなくして世界戦争を回避している)
巨人のいる世界みたいだな。
人間はバカじゃない。
どれだけ性欲があっても自分達の子孫を残すのが難しい社会なら、自然と子孫を残さなくなるんだ。
家畜のように管理され、自分達の意思も関係無く数を増やすような事は無い。
(不死の人間が存在するとして。
そのせいで食料不足になれば、その分は人間が生まれなくなるだけだ)
「一つの事実としてね。
人間は飢餓で食料も無く、内戦中で医療も十分じゃない場所でも子供を産むよ?
それが子育てに難しい国であっても。見たことあるよね?
饑餓の国で、産まれたばかりの子供が飢えて震えている映像を」
・・・この神は嫌な事を言う、まったく。
人は不死にしてはならない、不死になってはならない。
けれど、人は病を克服しようとし、死を遠ざける為に医学を発展させる。
人が殺し合うのが悪夢なのか。
それとも病から人間を救うはずの医療が、間接的に人同士を殺させる事になる事が悪夢なのか。
医学の発展は人類の為なのですが、人は死ななければ人口問題が起こる。
ああっひどい話しです、悪夢ですね。




