中の人なんていません。
「どうかな?右手から入った魔力が左手から抜けた感覚は、これで魔力回路が出来たから後は魔力を流すだけ。そうしたら自然に魔法が・・」
ハリネズミのどや!顔、こっこいつ・・・
「痛い・・痛かったぞぉぉぉ!!!メッチャ痛い!痛かったんだからな!」
漏電に直接さわったような痛みでしゅ、
バチッと来てバシッって・・・なんか手から火花が出てます!!
「棘吉、これって?!」
「ダメ!近寄らないで!感電しちゃうから!」
手が帯電?なんで?コレが魔法?!
「魔法は魔力を強いイメージで変換して生み出す物なんだ。
なんだけど、まさかいきなり出来るようになるなんて。
キミは何年もの間、毎日電気を浴びるような生活をしてるの?」
「そんな訳あるか!今ビリッってしたから!」私をどこかの暗殺一家の人間と一緒にしないで下さる?
(しかし・・なるほど、イメージ、なら・・・)
電流に抵抗を与え、
「電圧を上げるイメージ!」
バチバチバチバチ!!!!
「凄い火花?!もうそれ、攻撃魔法だよ!どうしていきなり使えるんだい?!」
「そう?私には火を付けるのに丁度良いかとしか」
湿気たライターよりは火が着くんじゃないか、ってくらいに。
名付けて[チャッカ〇ン]はダメですね、アレは商標登録済み。
「じゃ、じゃあ取りあえず魔力の贈与も確認してもらったって事で、交渉成立だねユズキ。
じゃあボクはあのホブゴブリンの死体を貰うよ?もうお腹ぺこぺこなんだ」
「え、ええ」魔力の支払いはされた、ならゴブリンの死体はそっちに渡しましょう・・・?
魔法陣を出たハリネズミはホブゴブリンの所まで走った、と思ったら足を止めた。
(まさか、まだ死んで無いとか?)
初めての魔法に浮かれていた私は、棘吉の動きに目を光らせる。
魔力の交換条件は魔物の死体、アレが死体じゃ無いなら、私が約束を破った事になる。
契約反故は信用に関わる、信用は他人と接する時には何よりも大事です。
斧を掴み、構えを取ろうとするとハリネズミが振り向いた。
「・・・あの、あまり見られると食べ難いんだけど」
「そっちですか!」心配して損しました。
他人に見られながら食事する事を嫌がる人間は、実は多いです。
猫とかもご飯をジッと見てると嫌がります、多分それと同じ感覚なんでしょうね。
(一人飯・便所飯とか言うやつだな)
好きで一人飯をしてるんだ、他人が勝手に可哀想とか思わないでほしい。
「今から私が狩った獲物を喰べるんでしょう?
細かい事を気にしても仕方ないですよ、邪魔しませんから気にせず食べて下さいませ」
誰かに見られてると恥ずかしいからご飯が食べられませんとか、シャイガイ君です?
「・・・じゃビックリしないでね、大声とか食事の邪魔もNGだよ?
食事を邪魔されたら、ボク凄く不愉快で嫌な気分になるんだから」
食事はそう、一人でゆっくりと落ち着いて食べる物なんだ。とかなんとか。
「ハイハイ、どうぞご自由に」ハリネズミの食事風景を見て大声なんか出しませんよ。
とか思って見ていたら、『ぴしっ・・』ヤツの背中が割れた。
『めしゃっ』とか『ぎしゃっ!』って感じで背が割れ、そこから『ずるり』と赤と黒の液体に染まった人型が!
「!?・・・!」なにアレ?!
ヘドロと廃液の中から這い出た胎児、いま胎児の状態で汚水から産まれた怪物。
化物がハリネズミの皮を脱ぎ、関節の無い長い腕を伸ばし、ホブゴブリンの死体を引き千切る。
そして『めしゃり』『ぐちゃり』と赤く血に染まり歪んだ歯で、死体を貪り喰っていた。
ボリボキと腕や足の骨付き肉を咀嚼し、黄土クソ色の内臓に齧りつく。
(私の知ってる孤独のグルメ違う!)アカンヤツや!
「マジカルランドでは蠱毒のグルメって言うんだよ?
トールマンの味覚じゃ美味しくは無いけど、ユズキも食べる?」
肉を引き千切り、その一欠片を目の前に。
喰えって事か?
「ティラノサウルスの肉じゃねぇんだ!ここが地下格闘技場でも喰わねぇ!」
この邪悪なピクルスが!
マジカルランドだか魔法の国だか知らないけどな、鼠の中身は公開禁止なんだよ!
ネズミに中のヒトなんかいない!
中の人は人型魔物の死体なんか食わないんだ!
「・・・キミ、ボクより危ない事を口走ってるよ?
あんまり言うと・・・世界の支配者に消されちゃうよ?」
踏み込み過ぎたか、いや、近代社会における民主主義世界では、言論の自由は認められているはず。
うん、大丈夫だ。
誰かを根拠も無く批判したり、侮辱した発言じゃ無いから大丈夫のはず。
「その言論の自由も思想の自由も、権力者が与えた自由だって解ってる?
ここで言う権力者ってのは有象無象の選挙権保持者・有権者の事じゃないくらい解ってるよね?」
・・・・冷静になれオレ、今の私は元侯爵令嬢。
ヤツの不気味な食事を見たせいで、オレ本来・素の自分がでてしまった。修正・修正。
「メディア[大声]・大資本[カネ]・先導者[政治屋][宗教指導者]・古くから続く名家・[人脈]の事ですね。
そのどれにも当てはまらない弱者には、本当の自由は無いって事くらいは解ってます」
弱者に許されているのは上辺だけの自由、権力者の意にそぐわなければ、直ぐに剥奪される程度の自由の事です。
「消される前に謝ります、持たざる者は常に平身低頭して、ごめんなさい」
権力者に逆らうのはバカですので。
『逆らう時は殺せる時と殺す時』明智光秀も本能寺でそう言ってましたよね。
「あはははははっ」「うふふふふふっ・・」
とかバカな歓談している間にホブゴブリンの死体が捕食され、残ったのは地面を汚す臓物汁と赤い体液。
「こんなところかな?」
今度はぬるっ・ずるっ、剥き出しの身体をハリネズミに潜らせ、ジッパーが閉じるように背中の割れ間が閉じ、『ビシッ!』棘が!
「着ぐるみの正体を隠すための棘ですか!!」
「着ぐるみ?なにそれ?
ボクは可愛いハリネズミのマスコット動物[とげきち]だよ?
中身なんて無いんだからね!」変な事言ってると訴えるよ?民事裁判だよ?
裁判所に出頭する準備は?賠償金の用意は出来てる?逃げても無駄だからね?
くっリアルな脅しを!着ぐるみの中身は詮索無用ですか、解りましたよ。
(くそっ!なにが可愛いハリネズミですか、
中身は化物のくせに、、、)とは思ったけれど訴えられるのは勘弁ですので。
大統領でも殴る強者[つわもの]コングでも、『裁判だけは勘弁だ』そう言っていたような気がします。
なので、これ以上の突っ込みは無しにしましょう。
中はただの怪物と40のおっさんだけです。




