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契約と制約。

「と、闘激血・・なんてかっけぇ名前なんだ!ボク気に入ったよ!」

 小さい手を握り背中の棘をワナワナさせて喜ぶ?ハリネズミ、何か違う。具体的になにが違うとは言い難いですが。

 多分、怒羅魅[ドラミ]とか雄波Ⅸ[オバQ]とかそんな頭の悪そうな感じの。。。


「興奮してる所悪いですけれど、[とげきち]ですよ?」

 平仮名ですよ?仮に漢字でも棘吉です。

 屠怪鬼鏖、でも無いんです。

 鬼人怪異、皆殺すとか不穏過ぎる名前じゃありません。


「かっこいい名前を付けてもらったのは良いんだけど、ユズキ、いい加減その十字を止めてくれない?」

「まだダメです棘吉」


 悪魔と交渉する時はそれ相応の舞台・・前提が必要になる。

 悪魔の虚言・恫喝・嘘の誓いをさせない為には、まず最初にしなければならない事があるんです。


「棘吉!まず魔導王ソロモン、彼の紋章に誓いを立てて下さい。話はそれからです」

 ソロモン72柱の魔神、古代魔導王は彼ら魔神達を従わせその力を行使したと言う。

 ソロモン王の紋章に誓いを立てた上で虚言を語れば、彼に従った魔神達の名誉と地位に唾を吐くような事に繋がるらしい。

 普通の悪魔が相手なら、[縛り]として十分な効果があると聞きますが。


「・・また何とも古くさい呪式を知ってるんだね、いいよ」

 地面に浮かぶ六芒星の円陣、その中央に立った棘吉は「これで満足かい?」と顔を向けた。


「・・あと二つです」私の手には拾った斧と剣、それと落ちていた手槍がある。

 余裕ぶったハリネズミめ、こっちの術法ならどんな反応でしょうか。


『東に力有れ、雷神の斧!西に英知と魔術の大神よ、この地に有れ!』

 東・西の大地に斧と槍をブッ刺す!

 雷神トール、主神オーディン、大地に刻まれし斧と槍をこの地に記し、その雷の威光を示したまえ。


「え?な??」


『正義と栄光を持ち来たれ、死の眠りに捕らわれ光りの王!

 我は汝等の子、我は魔を服従させる者、我に神世の制約を与え賜え!』

 光の神ヘイムダル、そしてバルドル神よ、光の神・白い大地の神よ、偽りの闇をその光で照らし賜え、

 悪魔の虚言を裁き賜え!


「ぐぎゃ!・・アッ?”!なん!?」


「・・・こっちの縛りは効きましたか?」

 北欧神話体系はギリシャ神話に連なる魔物にも効果があるらしい、ソロモン王の印に怯む様子が見られなかったから、もしやとは思いましたが。


 十字が効いて、ソロモン王とは縁が薄い魔物ですか。。。


「きっ・・キミは魔術の関係者だったの??道理で。


 ボクの魅了にも抵抗できたのはそれが理由だったんだね。

 それで?ボクをこれだけ縛って置いて、『魔界に還れ!』とか言わないよね?

・・あっ!マジカルランドに帰れ!だよ?」


「先ほども申し上げた通り、私は悪魔だろうと狂人だろうと、害にならないなら手を組む覚悟はあると」

 詐欺師を相手にするなら弁護士を同伴する、やくざなら警察。

 悪魔を相手に交渉するなら、こちらが有利な場を作るのは基本でしょう?


 交渉の場は作りました、さあ交渉ですよ、自分を高く売りつけて相手を安く買い叩きましょう。


 商売とは自分の持ち物を高く見せ、相手に高く買わせる技術である。

 相手の持ち物を値踏みし、安く買う交渉術・技術。


(私の中で一番価値のある持ち物は自分自身、それを担保にハリネズミから何を引き出すかですが・・・)

 十中八九、ヤツの狙いは私の魂。

 魂を担保にしてより価値のある物を得ようとするとは、人間は愚かな生き物ですが、そこにつけ込むのが悪魔。


 (魂・命は一番大事な物でありながら、目に見えない物。

 それだけに欲深い人間は簡単に差し出してしまうんですよね)


「まずはそっちの狙いですが、本音で話しましょうね?

 魂とか命が狙いなら他所に行って下さい、それ以外なら交渉可です」

 私が人生を悪魔に捧げて自滅するバカだと思ってるならやって見なさい、その侮辱は万死に値する事を教えてあげます。念入りにね。


「魂なんか!グァ!!・・・てへっ!

 はぁはぁ、それはね、今は良いんだ」

 法陣の中では嘘偽りを口にしない棘吉は、言葉を濁しながら私を見あげてくる。


「最上の悪・・マスコットはね、キラキラなパートナーを見つけて、苦しっ・・キュアキュアな姿を直ぐ近くで観し・・・見守るのがサイコーなんだ。

 だからキミにボクのパートナーになって欲しいんだけど・・キュア化に抵抗出来る娘なんて、聞いた事も無かったからさ」


(キラキラなパートナーとかキュアキュアとか・・[おとまとぺ]で誤魔化しますが、子供が苦労して戦ってるのを観察するのが趣味とか、最悪です)。


「だからさ、取りあえず魔力贈与の契約だけしない?対価はキミが殺した魔物の死体で」

 顔をホブゴブリンの死体に向け、アレアレって指をさす。


「見ての通りボクはひ弱だからさ、食料確保が大変なんだ。

 かと言って自分が殺した訳でも無い獣の死体を食べるなんて、そんな畜生みたいな事もしたく無い。

 そこでキミが魔物を殺し、ボクがその死体を食べる。

 キミが狩人で、ボクがその獲物を魔力と交換で受け取る契約。物々交換だよ。

 これなら仮契約・仮パートナー契約には十分だと思うんだ」


「あなたが、ご自身の魔力で狩りをすれば良いのでは?

 なぜそんな面倒くさい手順を踏む必要があるんです?おかしくは無いですか?」

 虎が他人に獲物を捕らせ、自分の毛皮で取引するとか、あり得ませんよね?


「僕も一応魔法は使えるんだけどね。

 マスコット動物は、こっちの世界に影響を与えすぎないように、こっちに来る時に色々と制約を掛けられるんだ」

 だから契約したパートナーに戦ってもらうんだよ。って。


(こっちに来てるのは影・もしくは分体って所でしょうか?

 自分の力を削がれてまで、子供の苦戦を観戦しに来るなんてなんて悪趣味な。

 それとも高次の生命体は暇なのでしょうか?)


「完全契約ならパートナーが殺した敵は、そのまま全部吸収出来るんだけどね」

 キュアが殺した敵が炭化し・燃え尽きた灰のように消えるのは、こいつらのせいらい。

 まぁ確かに、ごろごろと死体を置いて置かれても困るから解るんですが。


「観察した所キミは魔力が使えない、って言うより普通この世界の生物なら持っているはずの魔力が無いんだ。だからキミ、魔法が使えないだろ?」


 つぶらな目を光らせ私を見るハリネズミ、[観察]とかコイツ、変な視線が張り付いて来ると思ったらそんな事をしていたのですか。


(魔力・・魔力ですか・・っていうかこのネズミ、いま変な事言いませんでしたか?)


「そこでボクがキミに魔力の回路・パスを創って、魔力を流して上げれば」

「魔法が使えるようになる、ですか」


 この世界が夢だとしても、魔法を使って見たいとか思うのはオレだけでは無いはずだ。

 目が覚めたら消えて忘れる世界だとしても、現実とは違う体験が出来るのは夢の特権、、、、心が揺れるなぁ。


(考えろ、、、この呪いのリボンが有る限り、オレはコイツに追跡され続ける。

 その上でパスを繋いだら、コイツはオレを観察し放題・着き纏いし放題になる、、、コイツの狙いは観察だけなのか?それとも他に狙いがあるのか)


「魔王とか倒せって言うのでしたら、なら拒否します。

 ただの観察が目的で、魔物の死体と交換で魔法とか言うのが使えるようになるなら、容認します」


「じゃ契約成立だね。ユズキ、両手を出して」

 方陣の中に私を招く、ハリネズミ、怪しい。


「判断が早い!・・・さっきも言いましたが変な紋章とかは   痛ッ!」

 棘吉が指先に触れた瞬間、肩から背中に火花が走る!

 強烈な生電気が弾けるような痛みと痺れ!


「こっ!これは!!?」

「左も!」

 バシッ!

 今度は背中から左手に痛みの火花が走った!メッチャ痛い!


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