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第4話 警鐘が鳴り響く日

 今日も平和に日常を謳歌していたティル。

 駐屯騎士団の訓練場で騎士に混じって走り込みなどを一緒にやっていた。


「おい、セキ、ティルに負けてるじゃないか」

「こんな可憐な少女に負けるなんてまだまだだね〜」


 走り込みでティルよりも先にバテて速度が落ちた男の見習い騎士が周りからからかわれていた。

 そしてティルもここぞばかりに煽る。

 セキは、ティルよりも年上だが三歳しか離れておらず、この中では最年少の見習い騎士だ。


「はぁはぁ……はぁ……はぁはぁ……。ティルが、お、おかしいだけだ……」


 今にも死にそうな声だった。

 だが、せめてティルには完走した姿を見せようと根性だけで走っている。


「新兵ども! ティル嬢に負けるなんて何事か!! それでも騎士なのか!」


 先頭を走る隊長が活を入れる。


「相変わらず厳しい〜。アベル隊長は大丈夫なのー?」

「愚問だ。常に鍛えてれば問題などない! ティル嬢にスタミナ面で負けてる方が問題だ」

「セキにすごく刺さってるよその言葉」

「戻ったら筋トレだな」


 その言葉が聞こえた瞬間、新兵たちの表情が絶望のそれに変わった。

 それを見てティルが小さく笑う。


「ティルは、平気なのか?」

「平気だよ。常に鍛えてるからね。体力は戦いの基本だから」


 涼しい顔をしながら言った一言が、新兵の心にトドメをさす。

 新兵がティルと気軽に話すのは、彼女が話しやすいよう話して、と言ったからだ。


「お前らもティル嬢を見習え!」

「「はい!!」」


 こうして走り込みや筋トレなどの基礎的な訓練を行った。

 そして模擬戦での訓練に移行した。


「はい! 次!!」


 ティルが新兵を片っ端から薙ぎ払っていた。


「今何人抜きだ?」

「三四人だ。あいつ強すぎだろ」

「隊長と副隊長以外で勝ってるヤツ見たことないぞ……」


 年端もいかない少女に負けたセキ達は、悔しそうにしながら試合を眺めていた。


 そしてティルが三六人目を倒した時だった。


「じゃあ俺が相手しようか」

「うげぇ、隊長じゃーん。勝ち目がなくなった」


 心底嫌そうな声だったが、目は輝いておりやる気満々である。

 互いに距離を取り、剣を構える。


「来ないのか?」

「じゃあ、お言葉に甘えて!」


 ティルが先制して攻撃した。

 それをアベルが受け止め、そのまま受け流す。

 そして流れるような動作で反撃する。

 ティルが一太刀目を体を捩って回避する。

 その際に振り切った剣を引き戻したことで、アベルの剣戟を捌けるようになった。

 互いに攻防を繰り広げるが、ティルが押されていた。


「クッ! 押し切れない……」

「勢いが落ちてるぞ?」

「これからスロットル上げるの!」


 アベルの剣を受け流して体勢を崩させると、腰に下げたもう一本の木剣を抜刀した。


 私の奥の手! これでなら一本取れる!


 完全な不意打ち。

 これは入ったと思った時だった。

 

「えーうそ〜。これ止めるの!?」


 アベルが剣の柄で、ティルの二本目の剣を受け止めた。

 その技量を見て、ティルが目を丸くして驚いていた。


「悪くなかったぞ」


 アベルは受け止めた剣を力で弾いて、体勢が崩れたティルに即座に攻撃をした。

 木剣を一本捨て、ティルもアベルの攻撃をいなそうと剣を引き戻して構えた。

 だが、アベルの方が一手早かった。

 迎撃しようとしたのと同じくして、ティルの首元に木剣が寸止めされた。


「くぅ〜負けた〜!」

「はっはっは。前より強くなってるぞ」

「ありがとう」


 ティルが悔しそうに頬を膨らめながらも、嬉しそうな声で言った。

 訓練所の端に移動して、一息ついているとセキがやってきた。


「ほれ。お疲れさん」


 セキが水筒をティルに投げ渡した。


「ありがと、セキ」

「見てたぞ」

「も〜見なくていいのに」

「不意打ちも効かないとか、どうすれば勝てるんだ?」

「それは私が聞きたいよ。まさか、柄で受け止められるとは思ってなかったし……」


 困ったと表情に出ていたティル。


「あれはどうしようもなー」


 セキが頭を掻きながら言った。

 そして少しすると訓練所に、アベルの声が響きティルに負けた人達が彼にしごかれていた。

 それを見てティルがクスクスと笑う。


「ひでーなお前」

「だってこういうの見るの好きだもん」

「いい性格してるぜ」


 それを褒め言葉と受け取り、ティルが満面の笑みで笑う。


「ありがと」

「褒めてねーよ!」


 その笑みを見てセキが呆れ顔をしていた。

 そしてティルと雑談しているのが見つかり、アベルに引きずられて行った。

 セキもティルに負けていたのだ。


「隊長、しっかりセキをシゴいといてね」

「おうよ!」


 セキの表情が絶望のそれに変わった。

 それを見てティルが悪い笑みを浮かべる。


「そうそう、団長に報告書を渡しといてくれないか」

「りょーか〜い。帰る時に渡して」

「ああ。受付に渡しとくから、俺が渡し忘れてたらよってくれ」

「おけおけ」


 そしてそのままティルは、アベルに稽古をつけてもらうのだった。


 昼も過ぎ夕暮れにさし変わる頃、事件が起きた。

 その頃は、訓練も終えてティルは新兵と一緒に休憩していた。

 アベルもティルと楽しそうに雑談をしている。

 そんな時に警鐘が鳴り響く。

 それは街中に響き渡った。

 そしてそれはティル達がいる東門の警鐘だ。

 それを聞いた瞬間にアベルも含め、その場にいた全ての騎士が真剣な表情になる。

 戦闘準備が始まり、全員が装備を整え始める。

 伝令兵が扉を蹴破る勢いで、入ってきた。


「伝令! 伝令です!! ここから六キロ先の森、キシカの森から魔物の大群がこちらに向かっています!」

「見張りは何してた!」

「偵察隊と見張りは全滅した……と……」

「そうか」


 それを聞いていたティルが、アベルに話しかけた。


「隊長、私がパパの所に報告しに行くよ。小柄だから馬を走らせれば皆より早く着く」

「いや、大丈夫だ。すでに向かっている。それよりもティル、早く逃げろ!」

「私も戦う」

「たしかにお前は強い。だが――」


 そこでアベルの言葉を遮るようにティルが口を開く。


「大丈夫! 私は中で避難誘導を新兵とするから。民を守るのも私達の務めだよ!」


 アベルが顎に手を当てて考え込む。


「……。……わかった。セキを連れて行け。リティを頭に指揮をする。お前は別働として動け、この件は伝えとく」

「ありがとう」


 ティルがセキに視線を送る。

 すると互いに頷いて、その場を後にした。

 それからは簡単だ。

 騎士たちが駆けつけるまでの臨時の避難誘導を行っていた。

 ティルは領民からの信頼も厚く、全員素直に誘導に従っている。

 その後駆けつけた赤髪の女騎士であるリティに、現場を任せて避難が遅れた人が居ないか、めぼしい所から一軒一軒探していく。


「おばあちゃん大丈夫?」

「ええ、ありがとう。この歳になると動くのが大変でね」

「あはは。まだそれは分からないや」

「ティル様も大きくなれば分かりますよ」


 老婆が優しい口調で話していた。

 

「セキお願い」

「任せろ」


 老婆をセキが背負い、ティルが最低限の荷物を持った。


「ありがとうね、若い騎士さん」

「これも務めですから」


 二人はそのまま避難民の列まで老婆を送り、再び探索を開始する。

 それからほどなくして、2回目の警鐘がなる。

 これが意味するのは、魔物が街に侵入したということだ。


「急ごう」

「ああ」




 その頃、新米の騎士たちは自分たちで作った木のバリケードを駆使して侵入した魔物と戦闘していた。

 戦況は芳しくない。

 少しずつだが、魔物に押されている。


「ひぃっ! し、死にたくない!!」


 一人の新米騎士が魔物に吹き飛ばされ、武器を手放してしまった。

 そして体勢が崩れて座り込んでいるところに中型の虎に似た四足歩行の魔物が近づき、右前脚を上げて爪を剥き出しにする。

 新米の騎士は、本能的に目を瞑りその恐怖に震え上がり失禁してしまう。

 魔物に殺させる寸前にティルが魔物の首を斬りつけた。

 致命傷にはならなかったが、不意をつかれて魔物が怯んで後ずさりした。


「大丈夫? お漏らしするなんて、まだまだだね」


 不敵の笑みを浮かべながら言った。


「ティ、ティル……様……」


 新米騎士が呟くように言う。


「セキ、その人と一緒に下がって。あれは私が殺る」

「いくらお前でもそれは無理だ!」

「セキ、足でまといだから言うこと聞いて」


 殺意の宿ったティルの瞳を見て、セキが固唾を呑む。

 そして彼女の命令通り、後ろへと下がる。

 セキが下がったのを確認すると、ティルが魔物に突っ込んで行く。

 それを迎撃する様に、魔物が前脚で攻撃をしてくる。

 だが、ティルはそれを避けた。


「体が小さいから当てにくいでしょ。まあ、その分筋力はないんだけどね」


 横薙ぎの攻撃をしゃがんで避けて、右脚の腱を狙う。

 硬い毛皮で剣を防がれるが、切れ味上昇の魔法を付与して無理矢理に脚の腱を斬った。

 それから小柄な点を活かして、敵を撹乱するような戦い方で削っていく。

 魔物が弱り始めて隙を見せた。

 ティルがその隙を突く。

 

「この魔法ならセーフだよね。前衛職の人もよく使ってるし」


 そう言うと身体強化の魔法を使った。

 そして強く地面を蹴り飛ばして跳躍して、魔物の首を斬り落とした。


「いっちょ上がりっと。このレベルなら身体強化使えば行けそうだね」


 返り血で綺麗な髪や服を赤く染めながら着地した。

 セキと新米騎士が唖然としている。

 幼い少女が自分たちでは、勝てない敵を倒してしまったからだ。

 しかも無傷で。


「戦線を押し上げる。セキ、私のサポートお願い」

「任せろ! だが、策はあるのか」

「うん、考えはあるから大丈夫」


 ティルが親指を立てる。


 皆動きがバラバラ……。これじゃあ、小隊を組んでる意味がないよ。魔導士の支援も槍の強みもあんな近接だとほとんどないに等しい。


 新兵と合流するまでの間に、ティルは彼らの動きを観察していた。


「すぅぅ……総員スリーマンセルを組め!! パーティーの中に魔導士か槍兵を一人入れなさい! 余った魔導士は、侵入口を集中砲火して魔物の侵入を阻め! バリケードを迂回した魔物を優先しなさい! バリケード越しは槍兵で十分!」


 ティルが言葉に殺気を多少混ぜて、威圧するように言った。

 幼い声で言っても無駄。

 それをわかっての行為だ。

 それを聞くと同時に、背中にゾクッといった感覚を抱く者もいた。

 そしてティルの言葉に従って、スリーマンセルを組んで戦い始めた。


「中型以上の魔物は、二組以上で当たって!」


 指示を出しながらティルも戦闘に参加した。

 ティルが担当したのは一番激戦になりやすい門の前だ。

 前線での撃ち漏らしが侵入してくる。


 結構漏らしてるな〜。ってことは、あっちもそれなりの数いるってことかな? たぶん五〇くらいは、かるくいるね。


 ティルが侵入する魔物を次々と葬っていく。

 その時の彼女は、笑みを浮かべていた。

 それはどこまでも純粋なものだった。


 市街地に三体逃したか……。それに兵を無駄に死なせる無能にはなりたくないな。仕方ない……低位の魔法を解禁しようかな。体への負担は……この際、気にしない。


 ティルが魔法を使う決意を固めた。

 自身への縛りよりも兵の命を優先することにした。

 侵入してきた中型の魔物を、ティルが容赦なく魔法で仕留めた。

 火の槍を形成してそれを主体に戦闘を行う。

 魔物の侵入量が減った頃合いを見て、ティルが指示を出す。


「左一番と二番! 市街に逃した魔物を仕留めに行って! 空いた穴は残りの部隊でカバー!!」


 指示に従い、二部隊が戦線を離脱して市街地に向かう。


 今思ったけど、火属性の魔法はやめた方がいいかも。街の中だと火事になりそうだし……。


 火力を優先して周辺への影響を考えていなかったことに思い至る。

 それからティルは、氷属性の魔法を中心に使っていた。

 それからもティルが中型の魔物などを率先して狩っていく。


「セキ、トドメ!」

「任せろ!」


 隙を見てセキが魔物の首筋を切断して仕留めた。


「次来るよ!」


 それを言った後、数瞬遅れて魔法で作った火の壁の外から凄まじい勢いで侵入してくる魔物にティルが気づく。

 だが、対応が遅れてティルは魔物の突進をもろにくらって吹き飛ばされた。

 吐血しながら宙を舞い、そして石造りの壁に叩きつけられるのだった。

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これからもよろしくお願いします。

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