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第40話 調達と買い出し

 二人は採取を終えると、依頼達成の報告のためにギルドを訪ねていた。

 二人を見た受付嬢が優しい笑みを浮かべて歓迎する。


「お疲れ様です。大丈夫ですよ。新人が失敗してしまうことはよくありますから」


 帰りが早い二人を見て受付嬢は依頼を失敗したと思い込んでいた。

 まだ子供の二人が一日も立たずに戻ってくれば誰だって失敗したと思うだろう。

 その証拠にクスクスと笑う者がチラホラいる。


「期待を裏切るようで悪いが依頼の品だ。確認を頼む」


 ティルが依頼の品をカウンターの上に置いた。


「か、かしこまりました。少々お待ちください」


 受付嬢が品物を持って裏方に向かった。

 その間二人はギルドの内装を暇つぶしに眺めていた。


「なんか視線を感じる……」

「気にすることない。物珍しさからの好奇な視線だ。自然にしてればいい」


 ティルは視線を無視して内装の細かいところを観察してブツブツと独り言を呟いていた。

 そんな彼女を見てフィリスもなるべく視線を気にしないように心がける。

 それからしばらくして受付嬢が報酬を手にもってやってきた。


「お待たせしました。こちらが報酬の銀貨四枚と大銅貨六枚になります」

「あれ? 相場より少し高いな」

「それはですね。薬草の品質が良く、一匹だけホブゴブリンが混じっていたからです。まさかホーンラビット以外の魔物を討伐してくるとは思っても見ませんでした」

「まさかホブゴブリンがいたなんて気づかなかった」

「ふふ、ぱっと見だと判断が難しいですからね。無理もありません。……それでは、気を付けてお帰りください」

「ありがとうございます」


 フィリスが一礼してティルの後を追った。

 

 街を散策しながら良さげな宿を見つけて、今日はそこに泊まることにした。

 宿に入ると一人の少女が受付をきりもりしており、ティルたちに気が付くと微笑して二人歓迎した。


「いらっしゃいませ~。お二人ですか?」

「ああ、一部屋頼めるか」

「よろしいのですか?」

「こう見えても兄妹でな。妹は一人の部屋が怖いみたいなんだ」

「ふふ、かしこまりました。こちらが鍵になりまーす」


 少女がフィリスを見て、少し前の自分を思い出して懐かしさを覚えた。


「あっ! それと代金は前払いになりますがよろしいですか?」

「いくらだ?」

「一泊で銅貨五枚、食事を付けるなら一食にあたり大銅貨三枚になります」

「食事は二人分、今日の分と朝の分を」

「では、合計大銅貨一二枚と銅貨十枚になります」


 金額を聞くとティルは小袋からお金を取り出して支払いを行う。


「ちょうどいただきます。部屋は階段を上がって奥から二番目の右側を使ってください」


 ティルが鍵を受け取ると、言われた通りの部屋を目指して歩いて行った。

 部屋に着くとティルが荷物を投げ捨てるよう置いて一番近いベッドにダイブする。


「あぁあ! 疲れた~」


 魔法を解除して女の姿に戻って溶けるように寝そべった。


「やっぱベッド最高~。地べたとは大違いだよ」

「姉々、まだご飯食べてないよ」

「もういいや~」


 久しぶりのベッドの感触に強烈な睡魔に襲われてしまう。


「食べに行こ」

「あ~い」


 気力がない溶けた様な声でティルが返事をして、フィリスに引っ張られるように一階の食堂に連行された。

 ティルが部屋を出る頃には男に戻っていた。


「思ってたよりメニューが多い」

「悩む」

「じゃあ、とりあえず全部行っとくか?」

「姉……兄々、食べきれなかったら勿体ないから駄目」

「ははは、さすがに冗談だ」


 二人はメニューから気になった物を直感的に選び、女将が注文を聞いて厨房へ戻っていく。

 料理が来るまでの間に二人は今後の事を話し合う。


「これからどうするの?」

「とりあえずは厄災を目指してこのまま北上するつもりだ。とは言っても路銀も必要だから冒険者業と並行してになる」

「じゃあ、もう少しこの街に留まるの?」

「そうなるな。連絡を取りたいやつもいるから、しばらくはここを拠点にするつもりだ。お互い体を休めないとだし」

「美味しそうな食べ物があったから安心して食べられそう」

「なら、明日は休んで明後日から路銀稼ぎを始めるか」

「明日が楽しみ」


 フィリスの表情はあまり変わらないが、楽しみにしているように感じられた。


 翌日、朝食を済ませて二人は街の散策を行っていた。

 目的は主に冒険者をやるに当たって必要になるポーションなどの消耗品の買い出しと、服と装備を整えるためだ。

 フィリスの服は、ティルのお下がりしかなく、装備に限っては最低限すら揃っていない。

 ティルも所持していた衣服の大半が彼女の魔法の方の異空間収納の中にあり、取り出すことができない状態であるのと、性別を変更する関係上、男物の衣服と装備を揃える必要があった。

 特に転移してきた際の四肢の欠損等の影響で汚れてダメになった服もあったからだ。


「まずは消耗品の買い出しをしがてら、服屋さんも探してみようか」

「可愛いのがあれば嬉しいです」


 ティルとフィリスが手を繋ぎながら、露店などを見渡しながら道を歩いていく。

 たまにある硝子店やアクセサリーの店を覗いては、目の保養をしながら進んでいった。


「さっきの首飾り可愛かったね」

「そうだね。あの純度の宝石なら付与(エンチャント)を三重にして、魔石化させればいい性能になりそう」

「え? あーうん。姉々ってそういう人だった」


 見た目よりも性能を重視するティルにフィリスは何とも言えない視線を送った。

 談笑しながら歩いていると裏路地に続く道がティルの目に止まった。

 その道の奥からは金属を叩く音が微かに響いてくる。


「この奥に目的のお店がありそう」

「ここ通るの?」

「こういう場所の方がいい鍛冶屋があったりするんだ。表でやってるとこは、あまり質の良い剣を売ってないイメージがあるの。私の偏見だけど」


 そう言ってティルがフィリスの手を引いて不気味な雰囲気がある道を進む。

 しばらく進むと川がある裏道に到着した。

 人気はあまりないが、道はしっかりと舗装されていて主に生活路としての役割を担っていた。

 音を辿っていくとこじんまりとした鍛冶屋に到着する。

 二本の剣と盾が描かれた古い看板が吊るされている。


「絶対いいやつがある! 私の直感がそう言っているのだ~」

「わ、わたしにはあまりわからないです」

「入ればわかる!」


 そう言ってティルは期待を胸いっぱいに秘めて店の扉を開けて中に入っていく。

 入った瞬間に猛烈な暑さと金属を叩く音が二人を歓迎した。


「あっっつ!!」

「あ、暑い……」


 鍛冶場の熱気が店全体にまで充満していた。

 まるで真夏の炎天下の中でキャンプファイヤーの近くにいるみたいだった。

 二人の声を聞いて、立派な髭を生やしたドワーフが一人現れた。


「いらっしゃい。悪いな嬢ちゃんたち、鍛冶場の扉を閉め忘れてたせいで」


 汗だくドワーフが歓迎のあいさつと共に謝罪を口にした。

 そしてティルは心の中で「予想通り」と呟いた。

 二人の容姿を見て偏見の目で見てこない職人の方が彼女は信頼を置くに足る人物だと思っているからだ。


「うん、見立て通りいいお店」

「そうなの? やっぱ、わたしにはよくわかないです」

「汎用武器を見れば大まかな指標にはなるよ。その点で言えばこのお店は汎用品の剣でここまで良いものを取り揃えてるからね。全体の質が良ければ、必然とその職人の腕がわかる。まあ、特注以外作らないって人とかもいるから一概には言えないけど」


 ティルが剣を実際に手に取ってしっくり来るものを探す。

 魔剣や名剣を数多く所有しているがどれも普段使いには向いていなかった。

 特に弱体化した今の自分には使いこなせないということがわかっているからこそ、鍛錬も兼ねて性能に頼らないで済むものを探していた。


「よし! 決めた! これとこれにする」


 ティルが何本もの剣を持って、一番手に馴染んだ二本の剣を購入することにした。

 しかし、フィリスのメイン装備である大鎌がなかったため、彼女は護身用に一本の剣を選んだ。


「鎌使いが剣を選ぶんだ」

「実際に戦ってみて、鎌だと近づかれすぎると取り回しが大変だったから……」


 フィリスがティルとの模擬戦と魔物との戦闘を経て、あると便利だと思った気持ちに正直になって選んだ。


「実践で感じた不便さを解消するのはいいことだよ。それのあるなしで生きるか死ぬかが決まることもある」

「うん、それは戦ってみてよくわかった。アルビオンも実践ではいかに効率よく敵を殺せるかが大事だって言ったから」

「その感覚大事だから覚えておけよ。ただし、日常でその感覚を覚えると殺人鬼にまっしぐらだ」

「気をつける」


 話しながらフィリスも自分の感覚に従って、色々な剣を持って馴染むものを探す。


「よくよく見てみれば、ここの武器ってゲラルクが作った武器みたい」


 ティルが独り言を言うと店主に聞かれていた。


「嬢ちゃん! ゲラルクを知ってるのか!?」

「うわっ! びっくりした。……もちろん知ってるに決まってるよ。なにせあの店の常連だったんだから」

「ははは! そうかあの青二才が自分の店をね」

「ゲラルクと知り合いなの?」

「知り合いも何もオレはあいつの兄弟子だ」

「なるほど! それなら納得。同じ流派を納めていれば製法も似るってもんだよね」

「あいつは元気にしてるのか」


 店主が嬉しそうに頷いていた。

 まさかこんなところで弟分のゲラルクのことを知れるとは思ってもいなかったからだ。

 ティルからゲラルクのことを聞くと懐かしさが込み上げてきて店主が遠いところを見る目をしていた。


「あいつの常連ならオレもサービスしないとな。二人とも一本好きなの持ってきな。話を聞かせてもらった礼だ」

「いいの!? やった! それならこの武器をもらうね」

「おい待て!? よりによって少量のオリハルコンが混ざったそれにするのかよ!?」

「武器は好きだから、目利きがきくのさ」

「くぅ〜この口を穿ちたい」


 店主が自分の言葉を心のそこから悔やんでいた。

 ガラクタの中に混じった一品を持って行かれるとは流石に思ってもいなかったようだ。


「二言はねーホントにそれでいいのか?」

「ああ、わたしはこれでいいよ。あとはえーと……」


 ティルが店主の名を呼ぼうとして名前を知らない事に気がついた。


「そういえば名乗ってなかったな。オレはバルカスだ。定期的に街を移動しながら鍛冶屋をやってる」

「私はソロモン。ま、偽名だけどね。本命はちょっと事情があって言えない。その代わりと言っては何だけどあだ名はティルって呼ばれてる」


 本名を明かすと実家にバレる可能性があり、かと言って偽名だとゲラルクに会ったときに矛盾が出ると考えてあだ名だけは明かすことにした。

 

「それでソロモン、他に必要なものがあるみたいだな言ってみろ。安くしとくぜ」

「それは助かるよ。これが今必要なもの」


 ティルが紙切れに魔力で文字を書いて、必要な物をバルカスに手渡した。

 メモを一通り見ると、バルカスが首を傾げた。


「この男用防具ってのがなんで二ついるんだ? パーティーメンバーの分か?」

「違うよ。偽装した時の私用」


 そう言ってティルが魔法を使って男の姿になった。

 バルカスはその光景を見てもあまり驚いてはいなかった。

 長く生きているせいで、大抵の光景は見慣れてしまったのだ。


「そういうことか。女二人だと面倒事も起きるだろうから正しい選択だ。にしても体の性別ごと変える魔法が存在したとわな。長く生きるもんだ」

「あまり驚かないんだね」

「そりゃあ、長く生きてれば大抵のことには慣れちまうもんさ。……さて、防具に関しては了解した。ポーションを買うならこの通り南に行った角地にあるラリ兎って名前の道具屋に行くといい。安価で質の良いものを売ってる」 

「ありがと。助かるよ」


 そう言って二人はバルカスに防具の代金と選んだ武器の調整を依頼して次の店に向かうのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜もしくは土曜日の予定です。

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