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第2話 剣を初めてみる

 あれから6年が経ち、ティルは6歳となっていた。

 そして今日は、日課である剣の稽古を朝からやっていた。


「パパ! 強いよ~」

「伊達に騎士団長はやってないさ。ははは!」


 ティルの父親であるアレスが自慢げに笑う。


「ティル、踏み込みが甘いし、もっと強く握れ」

「むー……」


 ティアが悔しそう頬を膨らませる。


「でも、いい筋いってると思うぞ。俺なんかお前くらいの時は、ボコボコだったぞ」


 悔しがる妹をグエルが励ます。


「手加減されて、それ言われると余計に悔しい」

「なら、精進あるのみだな」

「絶対お兄ちゃんを負かせてみせる!!」

「父さんは、どうなんだ?」

「あれは、無理!」

「確かにな」


 グエルは、笑いながらティルの言葉に賛同を示す。

 それからも剣の稽古を行い、グエルとも模擬戦を行うが見事全敗した。

 そして稽古を終えると、風呂に入って寛いでいた。


「うう~、体中が痛い」


 痛みになれ過ぎて実際には痛みを感じていないが、そんなことを言いたい気分だった。


「あれだけ見事に負けたんだから、仕方ないよ」

「ソフィ~」


 幼いことをいい事に、ティルの専属使用人であるエルフの美少女であるソフィアに甘える。

 ティルはいつも彼女のことを愛称でソフィーと呼んでいる。

 そんなティルを妹のようにソフィアが甘やかす。

 実際、ソフィアはティルを妹のように思っており、ティルもソフィアのことを姉のように思っている。

 そんな二人を屋敷にいる者、全員が姉妹のように暖かく見守っていた。


「ほら、お風呂から出たら魔法の勉強なんだから気を取り直して」

「そうする~」


 ティルは、異世界の魔法に興味深々だった。

 自分のいた世界の魔法との違いを見つけるのが、何よりも楽しいと感じていた。


「さて、出ますか」


 そうして二人は、風呂を後にしてティルの自室に向かった。

 自室に戻り、魔法や文字、計算など講義が始まり、昼を過ぎた頃に終わった。

 基本的に勉強嫌いなティルの顔は、魂が抜けたような表情になっていた。

 気を取り直すように昼食を済ませると、庭に出て剣を振る。

 何回も。

 何百回も。

 強くなる為に。

 かつて戦った強者たちを思い描き、彼らに追いつくを目標に、ただひたすら努力を続ける。

 基本の型を一通り確認し終えると、かつての強者の剣を思い出しながら振るう。


「たしか、こうやってこう! からのこう!!」


 英雄たちの剣を模倣して、ティルは改めて思った。

 彼らがどれほどの研鑽を積んだのかを。

 実際に、ティルがそれを真似すると鳴ってはいけない音がよく関節などから聞こえてくる。

 今回も肩に変な感覚を覚え、腕が動かなくなり、ティルが渋い顔をしていた。


「やってしまった……。なんか右腕に力が入らない……」


 背伸びしたことを後悔するように、ため息を吐く。


「仕方ない。左手だけで練習して、二刀流とかできるように頑張るか!」


 気を取り直して再び、剣の稽古に励むのだった。

 それからも日が暮れるまで、愚直に剣を振り続けた。

 そして夕食を取り、風呂などを一通り済ませてから、自室でゆっくりと寛いでいた。


「う~ん。流石に毎日ぶとうジュースは、飽きてきちゃうな~」

「ティル、贅沢言わない」

「だって貴族だよ私。贅沢言うよそりゃ」

「それを言われると……」


 互いに顔を見合わせて笑う。

 二人で楽しく話し込んでいると、月が高い位置に来ていた。


「そろそろ寝ないとね。おやすみティル」

「おやすみ~ソフィー」

「おねしょしないようにね」

「し、しないよ!」


 ソフィアが冗談交じりに言って笑う。

 そして彼女を見送ると、ティルが装備を整え始める。


「えーと……確か剣はここに――」


 ベッドの下に手を伸ばして、隠していた剣を探す。


「あったあった」


 ベッドの下から剣を取り出すと、そのまま腰に付ける。


「さて、行きますか!」


 予め準備してた転移魔法を発動させる。

 視界が白く染まる。

 そして次の瞬間には、マキリの森の前にいた。


「初めての剣での実戦。どこまでやれるかな~」


 ティルが胸を踊らせながら、森に入って行く。

 しばらく進むと魔物と接敵したが、雑魚ではティルの相手にはならなかった。

 

「う~ん。流石に雑魚相手だと物足りない」


 そんなことを言いながら森の奥へと進んでいく。

 すると、ティルの索敵魔法に強力な個体が引っ掛かった。


「これは!? ムフフ、これは期待できるかも」


 駆け足で魔物の元へと向かう。

 そして魔物と遭遇する。

 ティルの前にクマの魔物が居た。


「あれってたしか……Bランクの魔物だっけ? まあ、いいや! 楽しめそうだし!」


 嬉しそうに声を弾ずませる。

 そして抜剣と同時に襲い掛かる。

 だが、クマの魔物の毛皮は硬く、初撃を防がれてしまう。


「かった! 手が痺れる!!」


 嬉しそうにしながら、もう一本の剣を抜き、手数で攻める。


「こういうのはどう?」


 剣に魔力を通す。

 それにより切れ味が上昇した。


「――付与(エンチャント)・フレイム」


 更に火属性を剣に付与して攻撃する。

 クマの魔物がそれを爪で受け止め、咆哮と同時に左腕を振るう。

 それをティルは、紙一重で回避した。

 更に二撃目を剣で受けたが、踏ん張りが足りず、勢いよく吹き飛ばされる。

 そして後方にあった木に激突した。


「くぅ~きくぅ~」


 四足歩行で勢いよく突進して追撃を加えるクマの魔物。

 だが、それを横ステップで回避すると同時に剣で攻撃を加える。

 しかし、勢いのついた突進相手では分が悪く、剣が弾かれ宙を舞う。

 それを好機と見たクマの魔物が、ティルとの距離を詰め両腕を振り上げて攻撃しようとした。


「これは、まずいかも……」


 敵の射程範囲に入っているティルは、場所的に射程外に出ることはできない。

 そしてやむを得ないと思い、渋々魔法を使った。


「――インパクト」


 左手を敵に向けて、衝撃波の低位の魔法を放った。

 その衝撃でクマの魔物が、一歩後退した。

 そしてティルも後方へステップで回避運動を取る。

 クマの魔物も諦めずに両腕を✕字に振り下ろした。

 その爪はしっかりとティルの胸部を抉るが先端が掠る程度で致命傷ではなかった。

 しかも右腕は空振りに終わり、大ダメージを喰らうことはなかった。


「あちゃ~。喰らっちゃったかー。やっぱ、剣士の間合いって大変だな~。本職が魔導士だから、剣をかじった程度だと、動きが本職に引っ張られちゃう感じかな」


 ティルは、一応前世でも剣は使えた。

 魔導士は、寄られると極端に弱くなる。

 それをカバーして、魔法展開の時間を稼ぐ程度の近接戦闘しかしたことがない。

 故に、剣士として戦った時の駆け引きを、まだ体が覚えていないのだ。


「さて、ここからどう動こうかな? 魔法を極力使わないのは、結構大変だよ~」


 弱音を吐きながらも、周辺に視線を送り、戦闘で使えそうな地形などを探す。

 戦闘中に俯瞰的に戦場を見るのは、彼女が魔導士だからだ。

 その経験があるからこそ、敵が目の前に居ても二つの事に集中しながら戦える。

 そうこうしている内にクマの魔物が、攻撃を仕掛けてくる。

 

「今の腕だと勝てないかな~」


 そんなことを溢しながら、敵を誘導する様に戦う。

 動くたびに傷口から出血し、激痛が走るがお構いなしだ。

 痛みに慣れすぎて、それを痛みと感じていないからできる芸当だ。

 ヒットアンドアウェイで戦いながら、目的の場所にクマの魔物を誘導することに成功した。

 敵が突進するのを促すように、ティルがいきなり背を向けて走り出す。

 それを追うように、クマの魔物が四足歩行で走ってくる。

 そして追いつかれると思ったその時だ。

 クマの魔物は、二本の木の間を通れずにつっかえてしまう。


「これで終わり。チェックメイトってやつだよ」


 そう言ってティルが剣技を使って、クマの魔物の首を跳ねた。

 

「ふー。いっちょ上がり!! ……まったく~乙女の身体に傷をつけるなんて、罪なクマさんだね」


 返り血で真っ赤になりながら言う。

 そのまま体から力が抜けて、地面に尻もちをつくように座り込む。


「あー楽しかった~! さて、川に洗いに行こーっと。……ほんとこの体って嫌になる。前世は自己改造して、飲み食いした全てを魔力と栄養に変換してたから、感覚を忘れて排泄機能を制御出来ない……」


 ティルが深いため息を吐く。

 彼女の股間部から水が広がり、スカートが濡れる。


「また、やってしまった……。早く成長したいな」


 切実な声音で言った。

 子供の体に嫌気を覚えながら、立ち上がって川に向かった。

 その道中では魔物と接敵することはなかった。

 そして川に着くと服を脱ぎ、下着一丁になる。

 チェック柄の下着を履いていた。

 パンツを脱ぐと汚れた服と一緒に手洗いをする。


「春先でよかった。冬だったら凍死してた自信がある。……前言撤回、今でも冷たすぎて死にそう……」


 一人で苦笑いをしながら、手を動かす。

 返り血で汚れた髪もついでに洗う。

 そして岸に上がると温風の魔法で、体と衣服を乾かす。


「ふー、さっぱりしたー。あとは、牛乳があれば完璧だったかな」


 冗談混じりに言うが、返事が返って来ないことに少しだけだが、寂しさを覚えた。

 薪を集めて、焚き火を作る。

 そして上半身の服を脱ぎ、収納魔法を発動させて応急箱を取り出す。

 箱を開けて中から縫合用の針と糸を取り出した。

 針に糸を通し、抉られた箇所を縫う。


「これ、思ってたより深いな。まったく、乙女の体に~」


 痛みに表情を変えることなく、縫合を始める。

 回復魔法を使わないのは、なるべく魔法に頼りたくないからだ。

 そして今の自分が回復魔法を使うと、魔力が持たない可能性があり、帰りに連戦になった際に不利になると考えたからでもある。


「体の傷は、女の勲章だよね!」


 語尾に音符がつきそうな言い方をする。


「さて、縫合も終わったし帰ろうかな。……もうすぐで夜も明けそうだし」


 こうして楽しい時間は終わりを迎えるのだった。

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