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第33話 逃げる少女と残虐な鬼

 薄い蒼色の髪と紫紺の目をしたロングヘアの少し痩せた少女が孤児院で過ごし、楽しそうに周りの子と遊んでいた。


「次はフィリスが捕まえる番な!」


 元気が良い男の子がそう言うと蜘蛛の子を散らすように、子供たちが逃げていく。


「――三、二、一」


 数え終えるとフィリスと呼ばれた少女が友達を探すために庭を彷徨い始めた。

 元気よく走り回り、緑色の髪をした少年を見つけて全力で走り出す。


「捕まえた!」

「クソーまさかフィリスに捕まるなんて!」

「ふふ! 今日こそ捕まえたよ!」


 フィリスが嬉しそうに笑って、少年が悔しそうに叫んだ。


「次はどこかな?」


 辺りを見渡して次のターゲットを探す。

 

「みっけ!」


 フィリスが標的を見つけて走り出し、次から次へと捕まえていく。

 そして全員を捕まえて、新しい鬼役を決めていると院長が全員に声をかけた。


「みんな揃ってる?」

「「はーい」」

「先生どうしたの?」


 フィリスが全員の気持ちを代弁した。


「今日は二組に分かれて山菜取りと買い出しに行ってきてもらえないかしら。先生、お仕事が溜まっちゃってて今日は行けないから、変わりにお願いできないかしら」

「そういうことならオレ達に任せろ!」

「ならお言葉に甘えようかしら」


 院長が籠を二つとお金を少年に渡した。


「じゃあ、お願いね」

「「はーい」」

「気をつけて行ってくるのよ」


 各々返事を返すと、誰がどこに行くかを決めるために話し合いを始めて、フィリスと他二人が森へ採取に行き、それ以外の子が買い物に行くことになった。

 

 短剣などの最低限の装備を持ってフィリス達は森に向かった。

 道中は何事もなく目的地に到着し、奥まで行かずに森の浅い場所で採取を始める。


「ないねー」

「いつもならこの辺にたくさんあるはずなのにな。フィリス、そっちはどうだ?」


 少し離れた場所で探すフィリスに赤髪の少年が話しかける。


「こっちにもない。二人も?」

「うん。こっちもないよ」

「移動する?」

「そうだね」

「そのほうが良さそうだな」


 仕方なく三人は森の奥へと移動した。

 森は奥に行くほど危険度が増す。

 三人はそれをわかっていながらも、院長に喜んでもらうために森の中を進んだ。

 

「これくらいでいいんじゃないかな? これ以上は危ないよ」

「わたしもフィリスちゃんに賛成。エルク君はどう?」

「そうだな。これ以上は魔物にも遭遇しやすくなるし、ここら辺で探してみるか」


 三人は採取を再開して目的の山菜と薬草を見つけたが、量はそこまで多くなかった。

 全員分を賄うには足りないと考えて、三人はいつもよりも長い時間滞在することにした。


「お、あったあった」

「エルク君、これ取るの手伝って」

「おうよ」


 エルクと呼ばれる赤髪の少年が元気よく返事を返した。


「結構集まったかも、二人はどんな感じかな」


 フィリスが二人の元に合流して、互いに成果を確認した。


「これだけあればみんな喜ぶね」

「その分重そうだけどな」

「三人で分ければ問題ないよ」


 荷物が均等になるように割り振ったあと、エルクが追加で籠を持ち上げた。


「これは俺に任せろ」

「「ありがとう」」


 三人が帰路に着いてしばらくすると、何かが近くにいることに気が付いた。

 周辺を警戒して歩く速度を上げたが、間に合わなかった。


「きゃ!!」


 フィリスが咄嗟に横に倒れこむことで魔物の攻撃を回避した。


「あれはもしかしてレッドチャップ!?」


 エルクが驚きの声を上げたると、三人は即座に荷物を捨てて、少し遅れて武器を抜いた。


「全力で逃げないと」

「たしか、すごく残虐なんだよね?」

「先生からはそう聞いたよ」


 ゴブリンのような見た目をしているが武器が棍棒や錆びた剣ではなく人から奪った剣やナイフと言った鋭利な物を使い、目が赤くしっかりとした武装をしているのが特徴な魔物であり、爪だけでも鉄を裂くほどの威力がある。


「全員は逃げ切れない……」


 エルクの言葉に他の二人が固唾を飲み、覚悟を決める。


「誰が逃げ切れなくても恨みっこなしだよ」


 少女があとくされ無いように言葉を残すと、全員が頷いて一斉に逃げる。

 三人はレッドチャップの攻撃を防いだり、回避したりしてとにかく致命傷をもらわないように気を付けた。

 全員の体中に切り傷が増えていくが、それでも足を止めずに走り続ける。

 

「ゲゲ、ゲッゲッゲ」


 レッドチャップが面白そうに笑う。

 まるで狩りを楽しんでいるように見える。

 

 レッドチャップが背負っていた弓を構え、矢を番えると弦を引いて狙いを定める。

 そして矢を放つとフィリスのふくろはぎに貫通して刺さった。


「あああぁぁぁぁああ!!」


 あまりの激痛にフィリスが絶叫して、盛大に転んだ。


「「フィリス!!」」


 二人が咄嗟に振り返った。


「に、逃げて!!!!」


 フィリスが痛みを堪えて必死に叫び、レッドチャップの方を向いた。


「ゲヘヘ、ゲゲ」


 レッドチャップが面白そうに口角を上げて、ゆっくりとフィリスに近づいていく。


「こ、来ないで!!」


 フィリスが必死に近くに落ちていた石を投げるが、全く効果がなかった。


「ゲゲゲ」


 レッドチャップが容赦なく返しがついた矢を引き抜いた。

 矢は肉をブチブチ引き裂く音を立てながら引き抜かれた。


「!! ああああ!」


 フィリスのお尻の当たりに水溜りが出来ていく。

 恐怖と痛みで失禁してしまい、水溜りを作ったのだ。

 咄嗟にフィリスがレッドチャップを無傷の左足で跳ねのけた。

 

 レッドチャップはわざと倒れたフリをして痛みを堪えて必死に逃げるフィリスを見て楽しんでいた。

 わざと逃げ切れたと思わせて距離を取ってから血と尿の臭い、さらに血痕を追って追跡を始めた。


 フィリスは、とにかく逃げた。

 息を切らせて足を引きずりながら、必死に走る。

 逃げて逃げて、やっと撒いたと思って安堵したダイミングでレッドチャップが木の上から降りてきた。

 音の方を見てフィリスの表情は、絶望へと変わった。

 そんなフィリスの表情を見て、レッドチャップが嬉しそうに笑った。


「ゲッゲッゲ。キキ」


 必死に走るフィリスに向けて、矢を放った。

 わざと外すことで恐怖と安堵を持たせたあとに本命を打ち込んだ。

 その矢はフィリスの右耳に命中して、耳を引きちぎった。

 フィリスは、痛みでバランスを崩して転倒して、レッドチャップに追いつかれてしまった。


「ゲゲゲ」


 レッドチャップが笑うと、鋭利なナイフでフィリスの喉を少し傷つけて、また失禁するのを楽しそうに見てから彼女の腹を少し開けた。

 もがき苦しむ姿を見て邪悪な笑みを浮かべ、下半身にある女性の性器のスジに沿ってナイフを入れた。

 フィリスがのた打ち回ろうとしたが、しっかりと手足を押さえつけられて動けなかった。

 そして右腕を切断して、左目を抉り出した。

 その痛みは想像を絶し、フィリスが泣き叫んだ。

 

「あぁぁ! あああああ!」


 体が反射的に動こうとするが、無理やり押さえられて動かせず、むしろその動作が痛みを増幅させた。

 それからレッドチャップは、さらにフェリスの顔に深い切り傷を付ける。


「ゲゲゲゲ!!」


 レッドチャップが楽しそうな声を上げた。

 そして力が抜けた瞬間にフィリスが拘束から抜けだして、絶叫しながらもすぐに立ち上がると、必死に走り出だす。

 内臓が垂れ下がり、足に引っかかるがお構いなしだ。

 走るたびに内臓が零れ出る。

 血がなくなり、痛みが上限を超えたことで次第に痛覚が麻痺していき、痛みを感じなくなってきた。


(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない助けて助けて助けて助けて! 誰か助けて!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い)


 息が苦しくなってもう走れないと感じても、生きるために懸命に足掻いた。

 そうして森の奥まで走っていくと、眼前に広がった光景を見て、フィリスが足を止めた。

 そこには全長ニキロはあったんじゃないかと推測できるほどの巨大な龍の腐敗した死骸があった。

 フィリスは、それを見て心が折れてしまった。

 強靭で最強と謳われる龍でも死ぬ時があるんだと理解してしまったからだ。


「は、はは、ははは」


 乾いた絶望の笑い声が無意識にフィリスの口から漏れ出した。

 諦めたフィリスを見るとレッドチャップが、トドメを刺すために襲い掛かり、次の瞬間、レッドチャップが消し飛んだのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日もしくは土曜日の予定です。

私事にはなりますが、仕事が繁忙期に入ったため、更新が遅れるかもしれません。

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