第28話 孤独
それから一日が経ち、目的もなく歩いていると水が流れる音が聞こえてきた。
「この音はもしかして!」
ティルが心躍らせながら音を目指して歩いていく。
道なき道をかき分けながら歩いていると、陽光を煌びやかに反射している場所が視界に移り始め、さらに進んでいくと浅めの川を発見した。
「キタコレー! やっと見つけた! これで体と服を洗える」
このときばかりは神に感謝したいと感じながら鞄を置いて、川の中に服を着たまま入っていく。
「あーーー! 冷たい!!」
天然の氷水のような冷たさに絶叫しながらも、嬉しそうに駆け回る。
「春先でよかった。冬なら凍死ものだよ」
季節に恵まれたことに感謝しながらティルが服を脱ぎ始める。
汚れた服を見て一周回って汚れ具合に感心してしまった。
「我ながらすごい汚れ具合。はぁー、魔法が使えれば洗濯しなくてもいいのに……」
文句を言いながら汚れた服と下着一式を洗い、洗濯を終えると自分の体を洗い始める。
欠損した腕もいつの間にか修復されており、欠損部が乾いた血で真っ赤になっていた。
「体の修復もそろそろ終わる頃かな? 回復はまだまだかかりそう」
欠損部の機能を確認しながら、おおよその自分の状態を分析する。
「痛っ! 髪が傷んでてめんどくさい……」
指を通すごとに汚れなどで髪に指が引っ掛かり、洗い終わるまでの時間と手間を考えると面倒くさいと感じてため息を吐いて肩を落とす。
髪を丁寧に洗って汚れを落としながら、長髪ではない自分の髪に感謝していた。
その勢いで体も隅々まで洗うのだった。
「終わったー!」
ティルが達成感を覚えながら陸に上がると、風が吹いて体を震わせた。
「さっむ!?」
震えながら慌てて体を拭いてタオルを巻くと、慌てながら火打石で焚き火に火をつけて暖を取った。
火の温もりに感謝しながら、手を当てて一息つく。
「やっと一休みできた。腹下しの後は暴走して、装備集めと休める時なんてなかったし……」
振り返ると「大変だったな」と遠くを見る目で焚き火を眺めていた。
「そういえば皆は無事かな? 人里じゃないから状況もわからないや。……それはそうと絶対死んだと思われてるよね~。脳みそとか色々置いてきちゃったわけだし……。まさか転移事故が起きるとは……まったく想定してなかったよ、ホント!!」
ティルが冷静になって自分が欠損した部位を思い出すと、普通の人間なら致命傷の場所だということに気がついた。
戻るつもりはあまりなかったが、それでも帰れないと思うと寂しいものがあった。
短い間でも楽しい思い出が脳裏を過ぎり、少しだけ喪失感を覚える。
「ふふ、こんな感情を感じるくらいには、感情を感じるようになってたんだ」
自分の変化に驚きながら、嬉しそうに小さく笑った。
いつも横にアリサがいたのが当たり前で、彼女がいないことに違和感を感じた。
「一人は慣れてるんだけど、誰かが隣に居ただけでこんなに耐性が落ちるのか。これは初めての経験な気がする」
孤独への耐性が下がってることを自覚して苦笑いをうかべた。
そしてこれからのことを考えていると、疲れが出てきて眠ってしまうのだった。
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