第25話 襲撃
あれから屋敷に戻らず二日が経った。
あいも変わらずスパルタな指導が続いている。
屋敷には実像分身を魔法で作って置いてくることによって、屋敷に戻らずに何日も森ごもりができていた。
「もっと早く展開しろ! なに? 死にたいの? なら殺してあげる!!」
ティルが数え切れないほどの魔弾を展開して乱れ撃つ。
超高速で魔力障壁や防御魔法を展開しなければ蜂の巣になる魔法の速射訓練だ。
とにかく連続で同じ魔法を使うことで、硬直を減らして連射技術を上げている。
死を感じる極限状態だからこそ、生きるために体が学習する。
感覚派のティルは、感覚で覚えろとこの訓練を始めたのだ。
殺意をむき出しにして本気で殺そうとしていた。
最悪死んでも、数十年分の寿命を魔力代わりに消費して蘇生すればいいと思っていたからだ。
ティルの殺意をもろに受けてアリサは足がすくみ、彼女の目に宿る冷徹で命の価値すらゴミとしか思っていない瞳を見て、アリサはティルが本気で殺しに来てると察した。
生きるために死に物狂いで魔法を使う。
もし絶やせば、魔弾に貫かれる。
そして魔法や障壁の質を落とすと魔弾が貫通してくる。
とにかく魔力の残量を度外視するしかなかった。
魔力が切れれば多少生命力を消費してでも魔法をなんかとか使う。
生命力を使いすぎれば死に至る。
故に、常に魔法を改良して大気中の魔力を使用して消耗を抑えなくてはならない。
「キャッ!!?」
魔弾の中に凄まじい痛みを伴う魔力弾が紛れていた。
そして特殊な魔力弾はティルが常に制御して、アリサの隙を突く。
痛みが上限に達して痛覚が麻痺するのを無効化して、激痛の魔力弾をアリサに当てまくる。
あまりの痛みにアリサが漏らして、脚に水が伝って垂れていく。
彼女自身も意識を手放そうとするが、そんなことをすれば死ぬと本能が叫び、大小漏らそうが血反吐を吐こうが防御行動を止めることはなかった。
「どうしたの? ほら、攻撃しなさい! 攻撃しないとやられ放題よ!! 私の意識を飛ばせばこの地獄からも開放できるのになんで攻撃しないの? 舐めてる? なら、本気を出させてあげる!!」
ティルが歪んだ笑みを浮かべて、魔弾の生成速度を上げて攻撃の量を増やす。
(む、無理だよ! これ以上は限界!!)
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、心の内で叫ぶ。
声に出せば罵倒されて心を抉られると思っているからであり、文句を言わないのは、自分の成長を実感できていたからだ。
それでも辛いものは辛かった。
無我夢中で防御魔法と魔力障壁を使いまくってる内に体が慣れてきた。
そして余裕が少し生まれてきて攻撃魔法を断続的に使った。
「そうそうもっと攻守バランスよく! 攻撃こそ最大の防御!! もっと攻撃しなさい!!」
無茶苦茶な事を言いながら、ティルの攻撃が過激になっていく。
戦闘狂としての顔が見せ始める。
模擬戦だと言うのに、高揚感が湧き上がってくる。
「ほらほらほら!! もっっと楽しませて!」
「あ、当たらない――」
アリサが攻撃魔法を使っても、ティルが魔法陣や魔力の流れを読んで未来予測を行っていた。
瞬間的に魔力反応があれば、その全てを読み切ってしまうティルの技能゛星淵魔導観測゛によりアリサの攻撃が一切当たらない。
「これなら!! ――!?」
攻撃しようと手数を増やした瞬間に防御が手薄になって障壁を貫通されて、ティルの魔力弾が直撃するところだった。
アリサは冷や汗を流し、思考が冷静になる。
(攻撃と同時に防御するのは今のわたしだと無理。なら、攻撃した瞬間に障壁を張ればなんとかなるかな。速射と展開速度を上げる訓練だからやる価値はある!!)
やると決意してすぐに行動に移した。
攻撃後、瞬時に防御系の魔法や障壁でガードを行う。
ティルの攻撃をピンポイントで防ぐ。
魔力障壁はガード範囲を広げるほど脆くなる性質がある。
そのためアリサは、一点集中することで貫通するのを防ぐ。
そして同時に連続して魔法を展開して攻撃する。
死と隣り合わせになったことでアリサの技能が全体的に大きく上昇した。
攻撃から防御への切り替えも早くなり、障壁のガード精度も上昇していた。
時間が立つに連れてどんどん成長し、短期間で防御と攻撃を両立できるほどの技能を獲得した。
体の限界が来るまで摸擬戦は続き、アリサが力尽きてやっと終わりを迎えるのだった。
少しづつ成長を見せるアリサを見て、ティルはどこまで吸収するか実験したいと思い始める。
摸擬戦が終わって直ぐに次の鍛錬に入ると早速ティルは、アリサを実験台にするように試し始めた。
試しにアリサの魔力回路に接続して、強制的に筋系や血管系などと言った体の全てを疑似魔力回路に変換して魔力回路を拡張した。
溢れ出る魔力と疑似回路の激痛がアリサに襲い掛かる。
多すぎる魔力のせいで体が爆発しそうだとアリサは感じていた。
「あ、あぁぁぁぁぁ!!」
体の何もかもが磨り潰される様な感覚と異常なまでの激痛にアリサが絶叫する。
「体のほぼ全てを魔力回路と誤認させることで、魔力回路の量と質を増やす技法”拡張魔導強化”って言うの。要するに体の全てを魔力回路と誤認させて疑似魔力回路にするってこと。これにより一度に流せる魔力量が増えて、運用効率が飛躍的に上昇する一方で、体組織を磨り潰すから常時ダメージを受けるデメリットがあるの。だから、回復力がこれを上回らない限り常時運用が不可能だし、仮にできたとしても常に激痛に襲われることになるけど、その代わりに魔力が続く限り好きなだけ魔力を流すことができるようになる諸刃の剣。いざって時には役に立つはずよ」
ティルが説明していると、ダメージが目に見える形で発現を始め、アリサの目と鼻から血が流れ始める。
永遠に続く痛みにアリサが藻掻き苦しんでいた。
「耐えなさい。耐えてこの感覚を覚えて自分の物にしてみせなさい」
「で、でも……これはわたしには――」
「――アリサならできると判断したから教えているの! 魔導士は手札が多いほど強い。だから、これを奥の手にしなさい」
魔力の制御すらティルに奪われて、限界を超えて魔力を回路に流し込まれたことで、アリサの体は溢れ出る魔力を受け止めきれず体から魔力が溢れ出していた。
苦痛に表情を歪ませながらも、アリサは必死に制御の主導権を取り戻すために擬似魔力回路の技術を習得しようとしていた。
感覚でしかわからないからこそ悪戦苦闘する。
苦しくても体が動かない。
ティルから逃げられないと悟るにはそれで十分だった。
数時間が経ち、アリサはようやく感覚を掴み始めた。
その間、ティルは天球を眺めて焦燥感を覚えていた。
(時間がない。早く基礎だけでも教えないと)
天球が発動までの期間が目前にまで近づいてきていた。
疑似魔力回路の習得訓練が終わりに近づいてきた頃、ティルは何者かが見ていることに気がついた。
木の上に佇むローブの男は、アリサよりもティルに殺気を向けていた。
「誰!? そこに居るのはわかってる。出てきたらどう?」
それに気が付かないティルではない。
一つ問題があるとすれば、ボロボロの体でどこまでやれるかという問題だ。
声をかけられ、黒いローブを身に纏う男がゆっくりと姿を現し、木の上からティルに視線を向ける。
そして互いに同時に動いた。
ローブの男が短剣より長く片手剣より短い、中剣を抜いてティルに襲いかかる。
ほぼ同じタイミングでティルも剣を抜き、ローブの男の剣を受け止めた。
その瞬間に力では押されると判断したティルは即座に攻撃を受け流す。
互いに距離を取って、剣を構え直した。
「アリサ、近接戦で使う魔法はこう使うの。ちょうどいいから見てて」
「この状況で指導とは余裕なお嬢さんだ」
「ふふふ。余裕こそ強者の証だよ、おじさん」
「俺はまだ二十代だ!」
「成人年齢的におじさんじゃん」
「まだおじさんではない!」
ローブの男はおじさんと呼ばれることに納得がいかない様だった。
ローブの男を無視してティルが即座に支援魔法を使う。
「――超加速・九重展開、筋力増強・五重展開」
ティルが一歩踏み込んだ瞬間、男の前から消えた。
超高速移動からの斬撃。
並の敵ならこれで決まっていた。
しかし、ローブの男は余裕に受け止めて、反撃を行う。
(やっぱり、この人の方が剣の技量と経験は上か)
ティルは今の一撃で自身との力量差を把握した。
(久しぶりの強敵との戦い! すごくわくわくしてきた)
ティルがニヤけながら隙を伺う。
木々を蹴りながら立体的に動き回る。
正面からの斬り合いでは、技量で負けてしまうからだ。
敵もそれを許すわけがなく、暗器をティルの進行方向に向けて投げた。
ティルは暗器を剣で弾くが、細い糸に足を取られて木を踏み外す。
その好きを突いてローブの男が斬りかかってくる。
ティルは咄嗟に視線をズラして視線とは違う方向に短距離転移をした。
しかし、それを読まれてしまいカウンターを剣で受け止められて鍔迫り合いになる。
ティルが両手で剣を握って、不敵に笑う。
(この人かなり場数を踏んでる。いや、この強さなら不思議じゃないか)
ティルの中でローブの男の評価が上がる。
「へー、これを初見で防ぐんだ」
「驚きはしたが、視線誘導が仇になったな。それにしてもどんな手品だ? 転移のように見えたが」
「ふふん! それはひ・み・つ!!」
互いに剣を弾くと一歩後ろに下がった。
(この嬢ちゃん、この歳でここまでやるか。これなら確かに警戒人物になるだけはある)
ティルは魔導士の癖で距離を取ろうとしたが、この距離では詰められると読んで敵に詰め寄る。
互いに動き出して無数の剣戟を放つ。
ティルは技量で押されてこのままでは防戦一方になると判断すると、致命傷以外は割り切って防がずに攻撃に転じた。
傷を負っても動じずに攻めてくる彼女を見てローブの男は、ドン引きしていた。
(まじかこいつ!? 笑顔で攻撃を受けながら突っ込んでくるとか正気か!?)
ローブの男が困惑しながらも、丁寧にティルの攻撃をいなす。
隙をみて暗器を使うが、それを読まれて避けられてしまう。
お互いにサブのジョブは、上手く無かった。
ティルの狂気で戦況は拮抗していた。
死兵に近いティルの攻撃は、相手を精神的に怯ませていた。
そして唐突に左手でライトニングを放つ。
紫電の雷撃が迸る。
剣士としての感でローブの男は直撃を避けた。
「クソッ! 掠った」
ローブの男がティルの左手に視線を送ると、彼女の腕は雷を纏っていた。
魔法を放たせないためにローブの男が距離を詰めてくる。
ティルがバックステップで距離を取るとその倍を詰められて、予想通り距離を離せない。
「――我は魔導の極致に至りし者。基は星淵を観測し、従える者なり。火の精よ我が名に従い、その姿を変貌させ、眼前の悪鬼を屠る槍となれ。さすれば汝らは快楽的な眠りに就けるだろう」
「並列戦闘だと!? 詠唱中に他の魔法を使いながら……」
ティルの魔法に危機感を覚えながら素直に彼女を認めた。
(どれだけ高位の魔導士なんだよ。これをできるやつが剣士の真似事とは恐れ入る。……なるほど、本職は魔導士か。道理で魔導士っぽい立ち回りをするわけだ。なら剣で仕留める。剣の技量は俺の方が上だ)
(私に魔法を使わせるってことは、予想よりも強い剣士。技量で負けてても魔法なら私の方が上! 敬意を込めて魔法で殺す!)
互いに実力を認め合い、本気を出す。
低位の魔法しか使えない現状でも、技術でそれを補おうとティルが立ち回る。
「フレイムランス・アビスティア」
改良を加えたティルの火炎槍が放たれる。
至近距離で放たれたがローブの男は紙一重で回避した。
着弾地点で爆発し、両者が吹き飛ばされた。
すぐに態勢を立て直すと同時に攻撃をする。
ティルが回路に負担を掛けないように魔力量を調整して、火炎槍を放つ。
「これだけの魔法を連射するってことは何かカラクリがあるな」
ローブの男が楽しそうな声音で言った。
「正解!」
ティルが舌を出すと、そこには何かの刻印があった。
「これを壊せば止められるよ」
「はっ! 首を斬れってことか。いい度胸してるぜ嬢ちゃん」
互いが本気を出してぶつかろうした時、もう一人のローブの男が二人の間に割って入った。
「やることは済んだ。撤退だ」
「ここからが本番なんだ。もっと楽しませろ!!」
「指示に従え。あの方の命を忘れたか。これ以上、情報を残すな。これだけ時間を掛けて、お前が仕留められない時点で十分な脅威だ。それだけわかれば情報としては今は十分だ」
「はぁぁ。わかったよ。じゃあな嬢ちゃん。またどっかで戦えるのを楽しみにしてるぜ」
「決着はその時までお預けにしてあげる。あんたたちが何をしたのかも調べないとだしね」
互いに剣を収めると、ローブの男達は森の奥に消えていった。
「結局あいつらはなんだったの? 私を危険視してるから天球に関わってはいそうだけど……現状じゃあ情報が足りない、か。それにこの世界じゃ知名度もない私をなぜ警戒したのかが一番の謎。とりあえず今はアリサの育成を優先しないと」
ティルがポーションを飲みながらアリサの元に近づいていく。
「怪我はない?」
「うん、大丈夫だよ。おねえちゃんの方こそ大丈夫?」
「致命傷はないから問題ないよ。さて、続きをやろうか」
ティルが親指を立てながら言うと「そんなわけない!」とアリサが叫んで回復魔法を使う。
「そこまでしなくても」
「足を引っ張るだけはいやなの……。どうして、どうして回復しないの!?」
「あはは、わたしって回復魔法が効きにくい体質だからね」
ティルが苦笑いをしながら、そっとアリサの手を握って魔法をやめさせた。
「私に回復魔法が効くようになれば、一人前の証だからがんばろう」
「おねえちゃんを回復できるように頑張らないと!」
新たな決意を胸にアリサの修行が再開されるのだった。
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