第20話 元厄災の過去と後悔 メリクリウス迷宮攻略
パーティー『赫燿の三日月』は、アスレイ大迷宮を踏破し、次なるダンジョンであるメリクリウス迷宮に挑んでいた。
そして現在、その中層部でモンスターハウスにハマり、現階層全体に大量の魔物が溢れかえっていた。
「クソッ! キリがねー」
「これ以上はほんとに持たないわよ!?」
一行は全力で逃げながら、戦闘を二時間ぶっとうしでしていた。
前衛の気力が尽き始めている。
「どいて! わたしが蹴散らす!!」
ソロモンが前に出て杖を構える。
「――アリウス・エミーラ!!」
第六位階の火属性魔法が正面の敵を全て焼き払う。
素材のことは考えずに容赦なくやった。
今は逃げることに専念しないと死んでしまう。
酸素がなくなり、呼吸が阻害されるがククルが光属性魔法で呼吸を助けた。
「助かる」
「任せて〜」
余裕の無い状況でも、いつも通りのゆったりとした話し方だ。
敵が居なくなった隙に包囲を抜けるために、一行は全力で走る。
未攻略階層のため、次の階層への階段の場所が分からなかった。
だから、とにかく闇雲に走り続けた。
ソロモンがマッピングの魔法で地図を書いていく。
「そっち右その次左!」
「アイアイサー」
ソロモンの指示に従い、まだ未探索のエリアに向かう。
「クッソ! こっちもか!!」
「焼き払う! ――アリウス・エミーラ!!」
再び敵を焼き払う。
「もう一丁!! ストレングス・ファインダー!」
前衛組に筋力強化の支援魔法を使う。
前衛が敵を薙ぎ倒して、道を確保する。
その間にソロモンが火炎魔法で後方の殲滅を行う。
物量で攻めてくる魔物相手には、焼き石に水だった。
それでも数を減らさないと、いざと言う時に押し潰されてしまう。
「ソロモン」
「わかってる、クク姉。みんな耳を塞いで!!」
ククルが防音の魔法を前衛に付与して、咄嗟に耳を塞いだ。
ワンテンポ遅れてソロモンが音響魔法を使った。
超高音がダンジョン内を反響する。
そしてソロモンがその反響を簡易の地図魔法で確認する。
「迸る雷は天を輝く一条の流星……以下省略! ――ライトニング・レメスナス!!」
一条の雷が迸る。
前衛組のアッシュ達は、ソロモンの魔力が高まるのを感知すると同時に回避行動を取った。
何年もパーティーを組んでいるだけあって、見事な連携だ。
「行くぞ!!」
「右右左右!」
ソロモンが大雑把な方向をアッシュに伝えると、一回頷いて迷いなく走り出す。
前方に狼の魔物が現れた。
災害級などと呼ばれる個体だ。
「邪魔だ!! ソロモン!!」
ユリウスが走りながら剣を構えた。
「魔力を解き放つ!」
抑え込んでいた魔力が解放され、ソロモンの瞳が紅く光る。
それと同時に五属性分の五つの魔法陣が展開された。
「アブソリュート・フレイム!!」
ユリウスの剣に灼熱の焔を付与をした。
「五大元素を! ――」
「――叩き込む!! うおおぉぉぉ!!」
ソロモンとユリウスの連携技で狼の魔物を一撃で屠る。
次の階層まであと少しの所に迫ると、階段付近に広間が見えてくる。
階層ボスがいる広間だ。
脇を抜けることもできるが、敵を引きつ連れているため、十中八九バレてしまう。
「やるよソロモン!」
「了解! アリ姉!」
アイリスが片手直剣の柄同士をくっ付け、さらに腰の後ろに装備している二本の短剣を魔力で浮遊させて取り出すと、両刃剣の剣身部に装着して弓に変形させた。
弓を構えた瞬間にソロモンが魔導書を開き、火の矢を作成して弓に装填する。
「見せてあげる! 灼天の――!」
「「撃滅窮!!」」
アイリスが前に出ると、技名と共に灼熱の矢を解き放つ。
それに合わせてソロモンが射線上に貫通威力上昇と弾速加速の効果がある魔法陣を展開した。
技名を言うことで互いに次の動きと魔法の効果を伝えていた。
「四剣の帝弓殿の腕は落ちてないみたいだな」
「ずっと剣ばっか使ってたもんね。ほら、このまま突っ走ってくよ!」
「「了解!」」
一行は次の階層に向かってラストスパートをかけるのだった。
次の階層に到着すると安全そうな場所を探しながら一行は歩いていた。
「ほぼ丸一日走ってたのか」
「さすがにキツイわね」
ユリウスの言葉にアイリスが賛同する。
全員、疲労が顔に出るほど疲れていた。
「ソロモン、丸一日逃げてたから漏らしただろ」
「!? ……うぅぅうう」
アッシュがからかうように言うと、ソロモンが恥ずかしそうに顔を赤くしながら俯いてスカートの裾を握った。
「あんた最っ低! 安心してソロモン、私も漏らしてるから」
アイリスがソロモンの頭を撫でながら言った。
彼女もズボンが濡れていた。
「てか、全員漏らしてるだろ。尊厳よりも命の方が大事だ」
「間違いないな。俺なんてフルプレートだぞ」
「「うわぁ」」
ソロモンとアイリスが顔を歪めてドン引く。
「大丈夫ですよ~。私もほら、漏らしちゃってます」
ククルも服が濡れていた。
「主は私たちが汚れていても祝福をもたらしてくれるんです~。だから、気にしなくていいですよ」
相変わらず呑気な声音だった。
終始変わらないククルに全員安心感を覚えた。
「さっさとキャンプ地を見つけよう」
階層の探索を進め、適当な横穴を見つけてソロモンが気配遮断などの安置を作る魔法を重ね掛けしてさらに結界を張った。
そして簡易的なベースキャンプを作って休息を取る。
ソロモンが洗浄の魔法の魔法陣を地面に書いて、陣の中心に魔石を一つ置いた。
「クク姉お願い」
「任されました~。全員入ったね」
自分も含めた全員が魔法陣の中に入ったのを確認すると、ククルが魔法陣に魔石の魔力を流し込んだ。
ゆっくりと魔法陣が出来上がっていく。
「主よ。我らの祈りを聞き届け、浄化の光で照らしたまえ! 浄化~」
「相変わらず適当な名前だね」
「ふふ、神聖魔法は名や言霊よりもイメージと主への信仰心で発動するから、名前は適当でいいのー」
ソロモンがどこか呆れた様な様子で言った独り言がククルに聞こえていたようだ。
「はああーやっとスッキリしたわ。汚れたままで気持ち悪かったのよね」
「返り血も落とせて、ほんと便利な魔法だよな」
清々しい思いを胸に一行は、簡単な焚き火を作って料理などを分担して始めた。
ほぼ丸一日、逃げ回っていたせいで体力はほとんど残っていなかった。
簡単に食事を済ませると交代で見張りをして、それ以外の人はゆっくりと眠りについた。
それから数時間が経った。
一行は探索を再開した。
順調に探索が進み、次の階層の階段を見つけてもすぐには降りず、地図を全て埋めてから次の階層に進んだ。
途中、食料が尽きてしまうことがあったが、魔物を食らって生き延びる。
そんな状況で約一ヶ月が経過し、やっと最下層に到着した。
そして現在、彼らはダンジョンボスの前にいた。
「何あれ」
見た目はドラゴンだが、気配が全く違った。
今まで出会ってきた生物の中で最も禍々しいと感じるほどに。
そんな敵を前に怯むような声でアイリスが言った。
「多分あれは、厄災の残滓」
「知ってるのか!? ソロモン!」
アッシュが驚いていた。
「七つの厄災の内、あれが何の厄災の残滓なのかはわからない。一つ言えるのは、この世界で討伐された厄災のどれかってこと」
「七つの厄災……昔、聞いたことがあるわ。人類を滅ぼす七体の龍。全人類が争いをやめ、共闘して、さらにその技術の粋を結集させてやっと倒せるかどうかの存在。一言で言うなら人類が乗り越えなければならないもの」
アイリスが怯えつつも半信半疑で昔の思い出を掘り起こす。
「この世界でどれだけの厄災が討伐されたかは、記録が残ってなかった。伝承では一回の厄災で人類の八割近くが滅んだって言われてる。そして七つの厄災は、人類の文明の始まりから始まって、世界の敵となって終わるって書いてあった」
「世界の敵。どういう意味なんだ?」
「わからない。文明が発展しすぎて世界を壊すとかじゃない」
ユリウスの疑問にソロモンがパッと思いついたことを言う。
「どうする? そんな化け物をたった■人で討伐できるわけない」
アッシュが意見を尋ねる。
「やろう。わたし達なら倒せる! 所詮は残滓! 本来の姿ならまだしも、抜け殻みたいなあれに負ける道理はないよ!」
「……あたしは反対と言いたいけど、ソロモンがそう言うなら乗ろうかな。今の私たちなら倒せるはずよ。古龍すら討伐できるようになったんだから」
「俺もソロモンに賛成だ。あの先にはさぞかしいいモンが眠ってるだろうしな」
「ソロモンがそう言うなら、ワタシもサポートするよ〜。主の祝福がありますように」
全員が栄誉と名声を求めた。
そしてソロモンがいれば、倒せると確信していた。
「行こう! あいつを倒せば俺らは英雄だ」
「ええ!」
「ああ!」
「主のご加護を!」
「天才で最強なわたしが爆殺してあげる!!」
指揮も最高潮に高まり、厄災の残滓がいる部屋に向かうのだった。
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毎週木曜日もしくは土曜日の更新予定です。
量が少し少なかったのでもしかしたら今週中のどこかでもう1話投稿するかもしれないです。
これからもよろしくお願いします。