プロローグ2
少女が目を覚ますと、そこは真っ白で何も無い空間だった。
「あなたは?」
何も無い空間に少女以外にもう一人の少女がいた。
見た目は普通の女の子だが、気配が人のそれでは無い。
「余は、アステカシア。気軽にテシアと呼んで」
「じゃあ、テシア、私をここに招いた理由を聞いても? ここは恐らく神の回廊、もしくはそれに近い場所だと思うのだけど」
「その推察であっておる。余が貴様を招いた理由だったな。簡単ことさ」
テシアが一泊置いて口を開く。
「貴様に魔獣王オルテガ・ソシエティアを討伐してもらいたい。報酬は、余たちが管理するこの世界への転生権だ」
「いいよ。その依頼は、厄災の魔王たる私が引き受ける」
「では、罪人よ、良き旅を」
テシアが魔法を使おうとした時、少女が咄嗟に止める。
「ちょっと待って! 聞きたいことがあるの」
「ふむ……余の権限の範囲なら答えよう」
「じゃあ、お言葉に甘えて。……あなたは神なの?」
テシアが頷く。
「余は、豊穣と廻りを司る。他にも回帰などの権能を有している。後者はあくまでサブだがな」
「神なら直接魔獣王を殺れるんじゃない?」
「それは無理だ。世界には理がある。我ら神々は世界がどうにかならない限り、その権能の行使は基本的にはできん。例外はあるがな。そして本来、魔獣王は人が越えなければならないもの」
「なるほど。じゃあ、質問を変える。魔獣王はいつ復活するの?」
「わからぬ。余は時間を司る神ではない。故に、無限の時を生きる者に頼んでいるのだ」
少女は、テシアが嘘をついているようには見えなかった。
だから、その言葉を信じて話を続ける。
「私は、魔獣王の討伐後とその前は自由に生きていいの?」
「構わぬ。だが、体に刻印を刻んでもらうがな」
「刻印?」
「ああ。貴様が原罪を犯し、第八の厄災となった証だ。わかりやすい言葉で言うなら、原罪の刻印だ」
「あなた達が私を管理しやすいようにするって事だね」
テシアが首を縦に振って肯定した。
「何、悪いことだけでは無い。その刻印を使えば汝の力をさらに上の領域に導くこともある」
「いいわよ。刻んで!」
テシアの言葉を聞いた瞬間、少女は嬉々として望む。
「ふむ。これを率先して刻まれたがる奴は、初めて見たぞ」
テシアが驚きながら、刻印の準備を行う。
「刻印は、貴様のフェイスペイントで良いか?」
「ええ! このペイント自体に魔法的意味もあるし、かっこよく見えるからお願い!」
少女の言葉を聞き、テシアが刻印を始める。
「これでどうだ?」
テシアが鏡を作りだし、少女に差し出す。
少女が鏡を受け取った。
すると、興奮気味に自分の顔に見惚れる。
「うん! かっこいい!! この額のもいいセンスしてるよ! 前から入れたかったんだよね~」
少女のフェイスペイントは、元々額にはない。
これは、テシアが新しくフェイスペイントの他に追加したものだ。
「喜んでもらえて何よりだ。……では、今度こそ」
「ええ! 依頼はしっかりこなすから安心して! ふふ、今世は剣でも鍛えてみようかしら」
テシアに親指を立て頼もしそうに振る舞ったあと、ニヤつきながら転生後のことを考える。
「罪人よ、良き旅路を! 厄災に祝福を!! 罪獣に喝采を!!!」
テシアがにこやかに少女を送り出す。
「テシアには、また会えそうな気がする」
「その時は、友として語らおうじゃないか! 厄災の獣よ!」
二人の頬が緩まる。
そして別れ際に互いに微笑を浮かべるのだった。




