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第15話 元厄災、最前線で暴れる

 ティル達は最前線の手前で戦況を眺めていた。

 

「予想はしてたけど敵と味方の間がすごい乱戦。これじゃあ誤射上等じゃん」


 ティルは更に魔法を制限された気がして、肩を落としていた。


「互いにぶつかる場所だからな。乱戦になってて当たり前だろ」

「魔物が相手じゃなければ、もう少しは戦場をコントロールできるんだけどね」


 ティルがセキと雑談していると、アリサが話しかけた。


「どこから行くの?」

「とりあえずパパと合流する。戦いながら全体指揮をしてるはずだから、まずは戦術を聞かないと味方を混乱させちゃうからね」

「なるほど」


 アリサが納得したと頷いた。


「ソフィーは、アリサの護衛をお願い」

「そのつもり。私たちはツーマンセルで動くよ」

「うん、お願い」


 ティルとソフィーが互いにこれからのこと簡単に確認した。


「この状況なら少し本気出した方がいいかな。制御の精度も上げないとか」


 そう言うとティルは、フェイスペイントを顔に魔力で描いた。

 耳の下あたりから頬を経由して下顎までの一本の曲線が左右対称で描かれた。


「それは?」

「私にとっての戦化粧的なやつで、見ての通りのフェイスペイントだよ。ただし魔法的な意味があるけどね。一言で言うなら外付けの魔力回路みたいなもの。これのおかげで魔法の性能が上がったりする効果とか色々あるから、一概には同じとものとは言えないけど……」

「俺にはさっぱりだ」


 セキは、聞いたはいいがよくわからないと難しい顔をした。

 それを見てティルがクスリと笑った。

 

「わたしも書けば強くなる?」

「そんなに単純なものなら今頃みんな使ってるでしょ」

「たしかに……」 


 ティルの言葉にアリサが納得していた。

 そしてティルのフェイスペイントは、目に見えない大きさの原初のルーンが何億と文字同士を重ねたりして線になるように作られたものだからこそ、普通に真似することはできない。

 失われた文字を使っているため、そもそもの問題ではあるが。


「じゃあ、行こうか。――絶対強制(アブソリュート・)付与(エンチャント)ライトニング!」


 ティルが雷を身に纏うと同時に凄まじい速度で敵陣に突っ込んでいく。


「あっ……行っちまった……。速すぎるだろ……てか俺にもそれを使って欲しかったんだが!? 追いつけねーだろ!」

「あはは……。わたし達も行こう」


 アリサが苦笑いを浮かべながら言った。


「そうだな」

「そうだね」


 そして三人も遅れて敵陣に向かうのだった。


 

 ティルが敵を斬り裂きながら先に進む。

 ライトニングを拡散させて範囲攻撃をしながら、敵を殺してアレスのもとを目指す。

 他にも様々な低位の魔法を駆使して、敵を薙ぎ倒していく。


「にしてもすごい数。殲滅魔法を使ったら気持ちよさそう。でも、素材が消し飛んじゃうのはな~」


 どうしたものかと考えながらも敵を捌いていく。

 アリサ達がやっとティルを視界に捉えた。


「あいつ伸び伸びしてやがる」

「お姉ちゃん楽しそう」

「いい暴れっぷり」

 

 三人が各々感想が口から漏れた。


「さて、俺たちもやるか」


 そういうとセキが盾を構えて、魔物の攻撃を防ぎながら剣で一体一体確実に仕留めていく。

 アリサはソフィーに強化魔法を使って支援を行ったり、魔力弾や魔法を駆使して魔物を倒していた。

 ソフィーが短剣をメインで戦っていたが、数に押され始めて片手直剣を抜いた。

 本気を出したソフィーは強かった。

 魔物の急所を的確に攻撃し、数で攻めてきた瞬間に剣技で魔物を切り刻んだ。

 そして短剣を鞘にしまうと剣と魔法を両立して戦い始める。

 剣に魔法や属性を付与したり、ティルのように一部の魔法を無詠唱で発動させて戦う。

 そんな彼女の姿を見て、アリサは目を輝かせた。

 ティル以外にも彼女と同じ戦い方をする人間がいたことに驚いたのと同時に、ティル専用の戦い方ではないと認識できたからだ。

 アリサも真似をしようとするが、魔法か剣のどちらかに思考が大きく割かれてしまい、思うように戦うことができなかった。

 

「ものすごく難しい……」


 ティルやソフィーが当たり前のように並列戦闘を行っているが、その難易度をやっと自覚してアリサが悔しそうに呟いた。


 戦場を駆け抜け、ティルはアレスの元にたどり着いた。

 アレスを攻撃しようとした魔物をライトニングで貫く。

 それを見てアレスが咄嗟に射線を辿って、術者の方へ視線を向け、そこにティルが居たことに目を丸くして驚いていた。


「パパ、戦況は? あと作戦も」

「なんでお前がここに?」

「市街地の掃討が終わったからだよ。向こうは、完全に制圧して安置になってる」


 ティルが理由ついでに戦況を報告する。

 互いに背中を預けて隙をなくす。


「そうか、助かった。戦況は見ての通りだ。兎にも角にも数が足りん。範囲魔法による制圧もあまり効果がないのが現状だ。まるで湖の水をバケツですくっている気分だ」

「かなり悪いみたいだね。……私から一つ、作戦の提案があるの。これはキャンプの指揮官も了承してくれてるから、あとはパパ次第だよ」

「ふむ、聞くだけ聞こう」


 そういうとティルが作戦について語った。

 アレスは馬鹿な、と言いたげな顔をしていた。


「――そんなことできるわけないだろ!? その魔法は高位の魔法じゃないか! お前に使えるとは思えん。不確実なことを作戦に組み込めない。ティルならわかるだろ? それにお前がここにいること自体、俺は認めていないのだぞ」

「なら、証拠を見せる。――レメナス・エクスプロージョン!」


 魔物の群れの後方で超が付くほどの大爆発が起きる。

 爆心地にいた魔物はほとんどが粉微塵に爆散し、生き残ったのは強い魔物だけだった。


「あーー」


 アレスが唖然としており、空いた口が塞がらなかった。


「これでもダメ?」

「……魔力はどうする? 今の魔法よりも必要だろ」

「今、この土地には魔力が溢れてる。それを使えばいい」

「なるほど。それなら確かに」


 ティルはなんとかアレスを納得させることに成功した。

 しかし、実力を隠しておきたかった彼女にとっては辛い選択だった。


「詠唱に時間がかかるから魔物が防衛ラインを突破したら、後方にさがるよ」

「わかった。……話は変わるがアリサはどうした?」

「連れてきたよ。置いてきて下手について来られるよりは、その方が守り易いから」

「賢明だな。引き続き、アリサのことは任せるぞ。それと作戦の指揮は任せておけ、お前のやりたいようにやってみろ」

「うん! ありがとう」


 ティルが礼を言うとアレスの元を去っていく。

 そして卓越した剣技と魔法で魔物を掃討する。

 使い勝手いいライトニングをメインで使っていた。

 左手で無数の雷撃を放ち、前方に無差別に攻撃する。

 そして近づいてきた敵は、首や胴などを両断していた。

 

「――ライトニング・メナス!!」


 雷撃が敵に触れると近くの敵に雷撃が伝っていき、雷撃の範囲外に敵が出て、伝うことが出来なくなるまでそれがループする魔法だ。

 そして伝えば伝うほど威力が落ちていくデメリットがあるが、ティルの魔法はリミッターを外して術者も効果の対象にすることで威力が増し、さらに伝うほど威力が上がる能力を付与している。

 ティルは、威力と性能を上げるために術者への安全保証を全ての魔法から排除しているのだ。

 そのため自分にも雷撃が伝ってくる。


「あばばばばば――」


 自身も感電してダメージを負う。


「うー効いた〜!! 電気マッサージをした気分。気持ちよくてちょっと出ちゃった……」


 皮肉を込めながら苦笑いをしながら言う。

 たくさんの敵に囲まれて、ティルは嬉しさのあまり絶頂していた。

 楽しくてたまらないのだ。

 死の恐怖とそれを負うためのリスクを負うのが好きすぎる戦闘狂なのだ。

 

「――ライトニング・エプス! アイシクルランス!!」


 氷の巨槍を強力な雷撃で威力と速度を強化して放つ。

 レールガンの様に氷の巨槍が放たれ敵を穿つ。

 そして雷撃も纏うことで貫通力が増している。

 低位の魔法だからと侮ればどうなるかを、魔物に見せつけるようだった。

 アリサが遠目でそんなティルを見て、目を輝かせる。

 そして自分もと、魔法を工夫しながら戦うことを意識し始めた。


「魔導弓展開!」


 ティルが魔力で作られた不安定で不定形のような魔導弓を模した魔力弓を手に持つ。


「フレイムアロー装填」


 魔導弓に魔法を装填する。

 すると魔導弓が火属性を帯び、炎の弓となる。

 そして弓を空に構えて、さらに魔法を重ね掛けする。


「――プライマウス・レイン!」


 そんなことをしていると正面から魔物が飛びかかってきた。

 ティルは、体勢を低くして魔物を炎の矢を放って貫いた。

 そのまま炎の矢は、空高く昇っていって弾ける。

 無数の炎の矢の雨が敵味方の識別なく降り注ぐ。


「退避! 退避ーー!!!」


 兵がそう言いながら下がっていく。

 魔物も矢を避けようと動き回るが、密集してる中では互いにぶつかったりして足止めをしてしまい、炎の矢に容赦なく貫かれる。

 ティルも炎の矢を避けながら魔導弓の専用魔法を使う。


「奪命無尽弩弓・破城魔矢」


 ティルの視界内の全ての魔物をロックオンしていく。

 弓の弦を引き続け、視界から敵を外さなければ無尽蔵に炸裂して増える矢を放つことができ、さらに殺した敵の命と寿命を自身に吸収もしくは魔力に変換する効果がある。

 敵の攻撃を避けながら弦を引き続ける。

 そして魔力が切れ始めてやっと矢を放った。

 五○を超える矢が放たれて敵を貫き、ロックオンした敵に着弾する前に一発あたり二○の矢に分裂した。

 分裂しても威力が落ちることはない。


 近くに刺さっている自分の剣を回収して、再び接近戦に戻る。

 本職が魔導士なだけあって、回避能力は魔法使わなくても高かった。

 全ての攻撃を紙一重で回避して、後ろにからの攻撃もまるで後ろに目があるかのように余裕で避ける。

 魔法戦闘において、自身の攻撃と魔法発動まで近接職から攻撃を避け続けた結果の実力だ。 

 

「――魔弾装填魔法(エーテリオス)


 ティルが三発の魔弾を装填して、空いている左手を構える。

 そして魔法を放つと直線上の敵を薙ぎ払った。

 その後、二本目の剣を抜いて敵を斬り殺していく。

 吹き上がる返り血を浴びて、興奮と血で顔を赤く染める。


 セキがティルの近くに近づくが巻きぞいを喰らいそうで、一歩引いた位置から支援していた。


「あいつ暴れすぎだろ!? てか、団長並いや、それ以上に強えんじゃないか!?? いつも隠してたのかよ……」

 

 強さへの尊敬と手加減されていた悔しさに複雑な感情を抱く。

 それでも強いやつを輝かせるために、少しでもティルの背後に回る魔物を倒して回る。


「それにしても近づいたら巻き添いになりそうで怖いな」


 ティルの範囲攻撃を気にしながらセキが戦っていた。

 近づけば問答無用で巻き添えになりそうだと、直感で理解したからだ。

 それでもティルのフォローができる位置で待機するように戦闘をする。


 

 ティルの戦いにアリサも感化されていた。

 少しでも彼女に追いつこうと、必死で魔物を倒し続ける。

 

「倒しても倒しても減ってる気がしないよ」

「数が数だからね。数百体ですら誤差の範囲になっちゃうから」

「うぅ……」


 アリサが弱音を吐いた。

 それでもめげることはなかった。


「――ライトニング・ルミネ」


 アリサが無数の雷撃で敵を貫いた。

 二人は、互いに前衛と後衛に分かれるように戦うことで隙を減らしていた。


「アリサ! 逃げて!!」


 ソフィーが焦ったように突然叫んだ。

 何事かと思いアリサがソフィーの方へ視線を向けると、そこには大型の魔物がいた。

 トカゲと虎を合わせたような、四足歩行の魔物だ。

 アリサが片っ端から魔法を使う。

 知識にない魔物だからこそ、どの属性が弱点かを探すために。

 だが、威力が低すぎてダメージが通らない。

 

「逃げ切れない……」


 アリサは直観的に逃げることができないことを悟った。

 周りは魔物だらけで、上手く逃げることはできないからだ。


「仕方ないよね。――人魔解放!!」


 アリサが奥の手を使った。

 体のそこから力が湧き出るのを感じる。

 さらにそこにもう一つの奥の手を使う。


「短期決戦で終わらせる!! ――融裂活性!!」


 体が張り裂けそうになる痛みを、唇を噛んで堪える。

 そして魔力総量が大幅に上昇したことで、高位の魔法を気兼ねなく使えるようになった。


「――ゼノ・リサリス!」


 漆黒の槍を作り出し、それを高速で撃ち放った。

 音速を超えた槍は、魔物の右足を貫いて切断した。

 さらに攻める。

 

「――ゼノ・ブレイズ!!!」


 漆黒の太陽を放った。

 それを見た瞬間に、ソフィーが咄嗟に回避運動を取った。

 本能的に巻き添えになると察したからだ。

 そして漆黒の太陽が、魔物を質量で押し潰して焼き払った。


「すご……」


 ソフィーが関心と驚きの混じった声を漏らした。

 そしてアリサが人魔解放と融裂活性を解除した。


「ふぅぅ」


 全身から激痛が消えたが、魔力の喪失感と体の脱力感を覚えた。

 そして疲労感もアリサは感じており、ほんの一瞬だけ隙を作ってしまうのだった。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけるとモチベーションにも繋がり嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

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