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第14話 いざ前線へ

 ティル達は次の地点に移動していた。


「――ライトニング!」


 ティルが魔法を三つ同時に発動させる。

 雷が正面の魔物を穿つ。


「状況は?」

「押されています。負傷者が多く戦線維持が難しいです」

「五分以内に体勢を立て直して。それまで私がここを死守する」

「いくらティル様でも――」

「――アース・ウォール、アイシングウォール!」


 ティルが土と氷の壁を二重で作り上げた。

 人が通れるほどの通路などを残して。


「早く!!」

「はっ!」


 自軍が壁の裏に後退を始めた。

 ティルは後退が完了するまで、剣と低位の魔法で敵を押さえていた。

 そして後退が完了すると、壁の穴を全て塞いだ。


「さて、死んじゃった皆、仕事の時間だよ」


 ティルが魔力感知で死体の位置を確認した。

 そして魔法を行使する。

 黒紫の魔法陣が展開された。


「――死者よ。愛を求(ネクロマンス・)めて狂い裂け(ロマンシア)。さぁ私の駒になりなさい」


 死体が起き上がっていく。

 教会の人間が見れば異端者と判定されるだろう。

 腹を裂かれた者は内蔵を零し、頭を砕かれた者は脳汁を零しながら立ち上がる。

 ゾンビだってもう少しまともな見た目をしている。

 そう思えるほど、最悪な光景が広がる。

 そしてティルが純粋過ぎるほどの悪辣な笑みを浮かべる。


「見られたら色々終わるね。これは……。さあ蹂躙しなさい! お前たちはまだくたばってなどのいないのだから」


 死兵たちが魔物に襲いかかる。

 体を引きちぎられてもなお、魔物に攻撃をする。

 その身が完全に朽ちるまで何度でも。

 そしてティルも魔物を倒していく。

 味方である死兵諸共攻撃している。


「あと三分くらいかな。それまでは思う存分やらせてもらうよ!」


 近接攻撃に少し飽きてきたティルが魔法を中心に攻撃を始めた。

 魔弾や低位の魔法で魔物を薙ぎ倒していく。

 そして寄られれば容赦なく剣で斬り捨てる。

 

 部隊の再編が終わったのを魔力探知で確認すると、死霊魔法を解除した。

 魔法が解けると死兵が糸が切れた人形の様に崩れ落ちて、地面に転がった。

 死霊魔法の痕跡がなくなったことを確認してから壁に穴を開けた。


「お待たせしました!」

「想定より一分早かったよ。行けそう?」

「問題ありません! ティル様のおかげで、兵の士気も高まっています」

「私は何もしてないんだけどな~」

「何を言ってるんですか? 数分とは言え、あの量の魔物を足止めしたんですよ。年端もいかない少女にそんなことされたら、我々も負けられないと鼓舞されます」

「ふふ。そういくことなら存分に暴れて欲しいな。私もちゃんと混ぜてね」


 ティルが語尾にハートが付きそうな声音で言った。

 それを聞いて部隊長もやれやれといった様子だった。

 

「お姉ちゃん! やっと追いついたよ……」

「ふふ、お疲れ様。着いてそうそうにあれだけど、戦闘(パーティー)に強制参加だよ」


 ティルが眼前まで迫った魔物をライトニングで貫き殺す。


「じゃあ、お先に」


 そう言い残すと、ティルは乱戦の中に突っ込んでいった。

 すぐに彼女の影は消えたが、魔法を使うたびに居場所が分かった。


「アリサ、どうする? 別に参加しなくてもいいんだよ」

「わたしも行く! お姉ちゃんの追いつきたいもん」

「無茶はしないようにね。私もフォローするから」

「ありがとう」


 二人も戦闘に参加した。

 英雄戦士化の効果で、アリサも普通の兵士よりも戦えていた。

 ティルの言いつけ通り、与えられた力にはなるべく頼らないように、魔法中心で戦闘を行う。


「さっきの支援魔法、凄まじい効果ね」


 魔法での反撃が間に合わない程に寄られてしまっても、まるで歴戦の戦士のように剣で魔物を斬り殺していた。

 動きも技も全てが卓越している。


「まるで自分の体じゃないみたい」

「こんな魔法は、エルフの里でも見たことない」

「たぶん、古代の魔法かオリジナルなんだと思う」


 二人はティルに感心する。

 

 戦況が好転し、兵たちが魔物を押し返している。

 ティルは、その先頭に立って指揮をしながら掃討を行っていた。

 そんな彼女に追いつこうとアリサも奮闘しているが、彼女の元にはなかなか辿り着けない。

 そうこうしていると戦闘が終わり、残党の掃討戦に移行した。


「ここも何とか掃討戦に移行できそうだね」

「支援助かった」

「気にしないで。それよりも最前線の状況が気になる」

「確かに」


 周辺の安全を確認していたセキがティルの元に合流した。


「城門の方に行けば何かわかるかも知れないぞ」

 

 兵士が少し考えて城門の方を見ながら言った。


「ここからだと、そこそこ距離があるな」

「そう? 魔法を使えばすぐでしょ。魔力消費もそこまで重くないから今からでも――」

「少し休め! 最前線に合流するならなおさらだ。今回のことでわかったが、入り乱れた戦闘は集中力が持たん」

「別に問題ない。魔法と言ってもほとんど魔力消費がないのを使うから」


 ティルがライトニングを自身とセキに付与して走り出す。

 遅れてティルを追うようにセキが走り出し、アリサ達がその後を追う。

 しばらく走ると城門に到着した。

 着く頃には、ティルとソフィー以外の面子が息切れをしていた。


「よ、よくスタミナが切れないな」

「そりゃあ、こういうときの為に毎日走り込みしてるからね」

「俺も……走ってるはずなのに……」


 セキが悔しそうに呟いた。

 休みなしの連戦を行ってからの全力疾走だ。

 疲れていない二人がおかしいだけだ。


 指揮を取っているリティを見つけるとティルが話しかける。


「やっほーリティ。前線の戦況は?」

「お疲れ様です。現在、前線では魔物の数が増え、押され始めていると今しがた報告を受けました。原因は、疲労だと推測しています。敵の数が減らないのは精神的にも疲れますから」

「あとは負傷者だよね? 数が多いとなると、魔導士の大半が殲滅に駆り出されるし」

「はい。衛生兵が不足しています。量が量なので、衛生兵も支援攻撃に参加させられていると思われます」

「ありがとう。私たちは、前線に上がるから馬を貸して。あと、ポーションを八本わけて欲しい」


 それを聞いてリティが目を丸くした。

 まさかティルが前線に行くとは思っていなかったからだ。

 すぐに平静を取り戻した。


「わかりました。準備させます。ですが、前線に出るのは危険です。なるべくなら――」

「問題ないよ。無理しない程度に頑張るから。私たちは討ち漏らしの処理を優先するつもりなの」


 止めようとするリティをティルが息をするように嘘を言って説得を試みる。

 実際は、最前線で戦いたいだけなのに。


「それなら……無理はしないでください。あなたに何かあれば私が怒られてしまいます」


 リティが少し考えこみ、ため息交じりに言った。


「わかってるわかってるから安心して。じゃあ、向こうで準備してるから」

「ポーションと馬をそちらに手配します」

「ありがとう助かるよ」


 ティルが礼を言うと、アリサたちの元に向かった。

 そして剣の消耗具合を確認していると、リティが手配した物が届く。

 中身を確認するとティルが均等にポーションを分配する。

 各々が自分のポーチにポーションを入れ、他の準備を済ますのを確認するとティルが馬に乗った。 


「よし、行きますか」


 ティル達が馬に乗って出発した。

 セキとティルは一人で乗り、アリサはソフィーと一緒に乗っていた。

 アリサはまだ馬を自分で御せないからだ。

 

(馬を走らせるよりも自分で走ったほうが速いんだよな〜。でも、こんなこと言えないんだよね〜)


 ティルが魔法を使うほうが圧倒的に速いが、それができないことに歯痒さを感じていた。

 今の身体でも出来なくはないが、あとの反動を考えるとちょっと怖くなって日和っていたのだ。

 そこからしばらく馬を走らせているとやっと最前線のベースキャンプが見えてきた。

 あと一〇〇メートルほどの所で、馬が走らなくなってしまった。

 魔物の気配に馬が恐怖していたからだ。

 この軍馬は、戦場の中を走り回る騎兵の様なことはあまだ出来ない新米だった。

 訓練された馬はすべて最前線に駆り出されていた。


「ここが限界みたい」

「そうだな。ここからは徒歩で行くしかなさそうだ」

「だね。二人もそれでいい?」


 ティルの言葉に二人が頷いた。

 全員が馬を降りると、その馬に帰るように指示を出した。

 その時、無事に着いたことを知らせるスカーフを馬に付けた。


 四人がベースキャンプに着くとそこは、目を覆いたくなるほどに悲惨な光景が広がっていた。


「ひでー」


 セキがつい本音を漏らしてしまう。


「とっと状況を確認しよ」


 その光景を見て眉一つ動かさないティルに、セキは冷徹さを感じた。

 しかし、戦場ではそれが一番正しいのだと思う心もあって、複雑な気持ちを抱く。


「……」


 アリサは言葉を失っていた。

 なんて言えばいいかわからなかったから。

 そんなアリサをソフィーが優しく撫でた。

 

 そしてティルはキャンプの指揮官の元に行った。

 

「今、どんな状況?」

「ティ、ティル嬢!?」


 指揮官が目を丸くして、驚きの声を上げた。

 服と髪に取りきれてない返り血などを見て、ティルも戦闘のあとだと推測した。

 そして兵たちの評価を聞き、実際の訓練も見ていたからこそ、戻れとは言わなかった。


「よくありません。どんどん増える魔物に兵たちの指揮が下がり始めています。特に負傷者が多く出ることで医療関係がパンクしています」

「衛生兵の運用は?」

「七割方が戦場に出ています。戦力が全く足りていないのです。王都と付近の領地に応援要請を出していますが、最低でも二日はかかる計算です」

「かなり厳しい……」


 ティルも眉にシワを寄せていた。

 頭が痛くなるほどの戦力不足だった。

 古龍の影響で周辺の魔物が全て移動を開始したからこそ、数が万を超えていた。


「ポーションは、補給を出すようにリティに指示を出しといたよ。それと市街地の制圧が終わり、兵の一部をこっちに回すってリティから伝言を預かってる」

「補給の申請ありがとうございます。彼女には一杯奢らなくてわな」

「なら、この戦い、無事に切り抜けないと。私はこれから戦場に向かう。パパになにか報告はある?」

「負傷者を第二防衛ラインまで後退させるとお伝え下さい。今の魔物の進行速度では、ここが落とされるのも時間の問題です。それに討ち漏らしを止める余力がなくなってきましたと」


 それから少しの間、指揮官と作戦についての打ち合わせをした。

 そして作戦会議が終わると指揮官も色々やることについて思考を新たに巡らせ始めた。


「わかった。健闘を祈るね」

「武運を祈ります。星々の輝きに導きを」


 ティルが親指を立てて、指揮官の元を後にする。

 三人と合流すると、ティルが戦闘準備を行った。

 

「――英雄戦(パーフェクト・)士化(ウォリアー)我に畏怖し、平服せよ(テラー・オブ・テラー)魔の理は、ここにあり(ディアベル・スペル)


 ティルが自身を中心に一定レベル以下の敵に恐怖を与えて、戦意を失わせる魔法と、自身を中心に一定範囲内の味方の魔法性能を上昇させる魔法を使う。

 そして指輪に装飾はない綺麗な紐を通した小さなペンダントを付けて、服の中に入れた。


「それはペンダント?」


 アリサが不思議そうに聞く。


「うん、そうだよ。お守りみたいな物かな。勝てますようにって言う意味とかでね」

「お前もそんなの付けるんだな」

「ゲン担ぎとか願掛けとかそんな意味だよ。大きな戦いの前には付けるようにしてるんだ」


 最後の言葉が引っ掛かったが、自分より強い人間もそういうことをやるんだとセキは感心していた。

 アリサもセキと同じことを思っていた。

 そしてアリサがソフィーに視線を向けた。

 その意味を汲んでソフィーが口を開く。


「こういうことをする人は結構いるよ。強い人でも大一番には、自分にとって縁起の良いを付けて勝負に挑んだりね。まあ、だからと言って勝てるかと言われれば微妙だけど。自分の指揮を上げたり、戦い前のルーティーンみたいな感じに思えばいいよ」

「興味深い」


 そんなことを話しているとティルが聞こえない声で小さく呟いた。


「仲間の形見だからね」

(これをしてれば、死んだみんなも見てくれてると思うと、不思議とやる気が出るんだよ)


 ティルが昔のことを思い出して懐かしい気持ちになったが、すぐに気持ちを切り替えた。


「みんな、準備はいい? ここからは何が起きるかわからないし、二度と会えなくなるかもしれない。だから、しっかり装備の確認はしたね?」

「ああ、問題ない! 刃こぼれ一つないぜ」


 セキが不敵の笑みを浮かべながら言った。

 

「わたしも大丈夫。覚悟はできたから」

「いつでもいいよ」


 各々が意気込みを言う。

 それを確認するとティルが作戦を話す。


「さっきここの指揮官と話したんだけど、ここのベースキャンプまで戦線を後退させたら、私が大規模の魔法を使うからそのときは護衛もしくはすぐに戦場を離脱して。たぶん巻き込まれるから」

「そんなのを使えるだけの魔力があるのか?」


 セキが当然のことを聞く。


「普通は無理だよ」


 ティルが苦笑いを浮かべて、嘘を言った。


「でも、今この土地には魔力溜まりが出来てるから、そこから吸い上げて魔法を使う。でも、使用後は反動で戦闘不能になるかも……ううん、確実になると思う」

「……そんときは担いででも、お前を離脱させればいいんだな」

「別に置いて行ってもいいよ。なんとかするから」

「そんなことはできない! いいな?」

「はいはい、わかったよ。でも、巻き添え食っても文句言わないでね?」

「ああ」


 セキが強く頷いた。

 そして全員が作戦を理解していた。

 それは表情を見れば、一目瞭然だった。

 こうしてティルたちは最前線に向かうのだった。

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