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第13話 防衛戦

 二人は市街地に到着し、乱戦エリアの外周から状況を確認していた。

 避難する者と戦う者、そして数体の魔物。

 

「お姉ちゃん! 早く行かないと!」

「急がない。まずは状況確認を優先して、一番避難が遅れてる場所に救援に入るから」


 ティルが戦場を観察する。

 乱戦中の中でも激戦区をピックアップして選んでいく。

 どのルートで移動するかを決め、ティルが移動を開始する。


「行くよ。避難民が多い手前とあそこの地点を制圧して進む。遅れても置いてくからね」


 ティルが大雑把な場所を指さす。


「頑張ってついてく!」

「いい返事」


 二人は屋根伝いを移動しながら、避難が進んでいない地区に向かう。

 そして到着と同時にティルがライトニングの魔法を使った。

 迸る一条の雷が魔物を貫いた。

 それと同じくしてティルが屋根から飛び降り、魔物の脳天を剣で貫く。


「はぁぁあああ!!」


 まだ息のある魔物の脳をえぐるようにして剣を引き抜いた。

 魔物がビクンッと痙攣して、地面に崩れ落ちる。

 吹き上がる鮮血を浴びて、ティルが血まみれになった。

 顔に着いた血を服で拭い、兵士たちの方を向く。

 

「大丈夫? 状況は?」

「だ、大丈夫です! 現在、五つの防衛班が市街地の防衛を行っています。初動の遅れにより、魔物の侵入を許してしまった状況です。ここの地点の避難が遅れており、一番の乱戦地帯になっていると思われます。先刻の信号弾により商業地区B地点がまもなく制圧が完了します」

「ありがとう。これより私が大物狩りを行う。雑魚は任せるよ。避難者の防衛に兵力を回して」

「了解です!」

「それと市街地防衛の指揮は、リティが行うことになったからそっちの指示を優先するように」

「ハッ!」


 ティルの指示を小隊長が素直に聞き入れたのは、先の防衛線でティルが侵入してきた魔物を狩りまくったのを知っていたからだ。

 彼もあの防衛線に参加していたのだ。

 新兵として。

 

 兵に指示を出しているティルをアリサが目を輝かせながら見ている。

 自分もいつか姉のように強くなって誰かを守れるようになりたい、と思いながら彼女の背中を見ていた。


「アリサ、自分の身は自分で守ること。乱戦だと私もカバーできないかもだから」

「うん! そのつもりだよ」

「じゃあ、行くとしますか」


 ティルが近くの魔物に向かって駆け出した。

 兵士たちの合間を縫って移動し、魔物の所まで行くと剣技を使って一撃で魔物を屠る。

 魔物の首が宙を舞い、それを見た兵士たちが声を上げて指揮が高まっていく。

 アリサも負けじと後ろから単体攻撃の魔法で援護を行う。


「――ファイヤーボール!」


 アリサの放った火球がゴブリンに直撃し、ゴブリンを焼き殺した。

 それ以外にも魔力弾による攻撃で牽制を行って前衛の支援をする。


 ティルは剣を振り回して前線で大暴れしている。

 そして中遠距離攻撃は魔法で行う。


「――ライトニング」

 

 雷が小型の魔物を数体貫き絶命させた。


「油断しないで!」

「ありがとうございます!」


(とは言っても避難が遅れた人達も混じってるから難しいか)

 

 ティルが戦場を上手くコントロールしようと魔法で立ち回りを変えたりするが、避難者を巻き添えにしそうで彼女も辛い思いをしていた。

 それからしばらくの間、避難者をかばいながらの戦いを強いられた。

 その場にいたほぼ全員が精神的にまいり始めていた。

 誤射を防ぎながらも防衛し、乱戦特有の全方位警戒をしていれば無理もない。

 何人かは実際に味方に攻撃を当てかけていた。

 アリサがいる場所にまで魔物がながれ込み、彼女は異空間収納から剣を取り出した。

 なんとかアリサは魔物の攻撃を剣で受け止めたが、受け流すことができずに力勝負を挑んでしまった。

 その結果、力負けして吹っ飛ばされてしまう。


「きゃあ!!」


 壁に強く叩き付けられて、体中に激痛が走る。

 その痛みを耐えるように、涙目になりながらも唇を強く噛む。


(痛いよ。すごく痛い!! 痛みで漏らしちゃいそう……)


 今にも泣き崩れそうになりながらも敵を見る。

 ティルにボコられていなければ、今頃脱落していたことを悟る。

 戦場がどういう所か、ティルから聞いていたがそれでもどこか余裕を持ち、遊び心があったことを痛みをもって思い知る。


「――ライトニン――!?」


 先程のゴブリンに似た魔物に近づかれてアリサが魔法を中断した。

 発動が間に合わなかったからだ。

 咄嗟に剣を構えて、振り下ろした。

 運よく魔物を殺したが生暖かい返り血を浴びて、背筋が震えるのを感じた。

 刃物で殺した時の感覚が手に纏わり付く。

 その気持ち悪さに嫌悪を覚えた。

 しかし、そんなことを感じているからと言って戦いを中断してくれることはない。

 容赦なく次の魔物が襲い来る。

 何とか魔法で魔物を殺した。

 その時にティルの言葉が脳裏に浮かんだ。


『魔導士は寄られると弱い』


 あの時は朧げにしか理解していなかった言葉だ。

 しかし、本当の戦場に出てその言葉の意味をやっと理解した。

 今まさにその状況を体験したからだ。

 

 何とか剣に慣れ始めて魔物を殺せるようになった。

 魔法を主体に剣で守るをやって戦っていると、アリサの足に何かが当たった。


「ごめんなさい!」


 咄嗟に謝り、後ろを向くとそこには死体が転がっていた。

 さっきまで気さくに話していた人物の死体だ。

 それを見たとたんに、胃から何かがこみ上げてくるのを感じた。

 口を押えて頑張って我慢するが、溢れ出して吐き出してしまう。


「おえぇぇぇぇええ!!」


 初めて人の死を目の当たりにして動揺する。

 しかも普通の死に方ではなかった。

 足がもげて、胴からは内臓があふれ出ていたのだ。

 獣に食い散らかされたような光景を前に、動揺するなという方が無理がある。

 それが初陣なら尚更だ。

 気が動転していたことで魔物が近づいて来ているのに気が付かなかった。

 魔物が攻撃態勢に入ってやっとその存在に気が付いた。


「!?」


 アリサは死を覚悟した。

 その恐怖を初めて身をもって知る。

 昔の恐怖を思い出し、漏らしてしまう。

 どれだけ自分が戦場を舐めていたかがわかった。


 その光景を前にしてティルが助けに向かった。

 魔法により強化された体でなら、一呼吸でアリサの元まで駆けつけえることができた。

 そして彼女を襲おうとしている魔物を剣で斬り殺した。

 鮮血を吹き出しながら魔物が崩れ落ちた。


 魔物の攻撃を受けそうになったアリサが咄嗟に目を瞑った。


「?」


 何も起こらないことに疑問を持ち、恐る恐る目を開くとティルが魔物を倒していた。

 その目には殺意が籠っていた。

 アリサは、ティルがいつもの彼女ではないことにすぐに気が付いた。


「お、お姉ちゃん……。ありがとう」

「下がりなさい」

「え? ……」

「聞こえなかったの? 下がりなさいと言ったの。今のアリサじゃ、足手まとい。早く後方の安全な場所に行きなさい」

「わ、わたしはまだ――」

「そのざまで戦える? ふざけたこと言わないで! 自分がどれだけ酷い顔をしてるかわかってるの?」


 ティルが指を鳴らすとアリサの目の前に鏡が現れた。

 まるで見せつけるように、鏡はアリサの顔を鮮明に映し出した。

 そこでアリサは、初めて自分が酷い顔をしていることに気が付いた。

 返り血で顔を汚して、悲惨な光景を前に青ざめていたことを知る。

 そして口の周りにほんの少し吐瀉物が付いている。

 すぐにアリサはそれを服で拭った。


「まだわたしは! ――」


 ティルが近くの負傷兵に命令を出す。


「そこの二人。アリサを後方に連れて行って。ついでに怪我の治療もして」

「「はっ!」」


 兵士が返事を返すとアリサの元に近寄った。


「失礼します」


 一人の男の兵士がそう言うとアリサを抱えて戦場を離脱する。


「離して! 離してよ! わたしはまだ戦える!!」

「申し訳ありません。ティル様のご命令です」


 アリサはそこで察した。

 自分には命令権が与えられていないことに。

 未熟な自分に後悔した。

 ティルの隣で戦いたいのに、それが許されない。

 その気持ちが辛くて今にも泣きそうだった。

  

「この辺まで来れば大丈夫か?」

「ああ。まだこの辺には魔物が来ていないみたいだしな」


 二人の兵士は、壁に背を預けて走って向かってくる衛生兵を待っていた。

 その間、アリサは遠見の魔法でティルの戦いをじっくりと観察している。

 

「すごい……」


 アリサは改めてティルと自分の差を実感した。

 周りの兵に指示を出しながら戦闘を行う姿に目を輝かせる。

 いつか自分もああなりたいと思って。

 

 

 戦況はあまり良くなかった。

 避難者を守りながら乱戦を強いられたせいで、兵士の集中力が削がれてボロが出始めていた。

 そんな時、大通りを我が物顔で歩いてくる四足歩行の大型の魔物がいた。

 獅子と熊を合わせた様な見た目の魔物である。


「総員! 防御陣形!! 大盾隊! ファランクスよーい!!!」


 中型以上を相手取っていた部隊がティルの指示で陣形を整える。

 彼女が詳しく言わなくても、彼らは指示の意味を理解した。

 正面から堂々と来る大型の魔物を迎え撃つためだと。

 大盾隊が盾を並べた。

 これはティルが盾隊に仕込んでいた陣形なのだ。

 この世界においてこの陣形を使う国は一ヶ国しかない。

 だが、彼女はこの世界の出身ではないからこそ知っていた。

 使える物は使う主義のティルは、自領の兵を強化するために色々提案していたりする。


「野郎ども! あんなやつに負けないよね!!」

「「おおおー!!!」」


 大型の魔物が徐々に勢いを増しながら走り始める。

 最大まで勢いが載った突進を大盾隊が声を上げながら受け止めた。

 魔物の攻撃を凌ぐと盾に隙間を作り、槍兵による攻撃を行う。


「そのまま抑えてて!」


 ティルが建物の屋根に飛び乗り、そこから魔物に飛び掛かる。

 剣を背中に突き立て、腰に装備しているナイフを抜いてめった刺しにする。

 ティルを振り落そうと魔物が暴れて、建物に体をぶつける。

 ティルも必死にしがみつくが、振り落とされてしまう。

 地面に落ちる瞬間に、風の魔法を使って衝撃を相殺した。


「――絶対強制(アブソリュート・)付与(エンチャント)! ライトニング!」


 ティルが自身の身体に雷を付与して無理やり身体能力を上昇させた。

 敏捷性能が上昇して、素早い動きで魔物を斬り刻む。

 そして雷撃が追撃としてダメージを与える。

 さらに魔力弾の最上位互換である魔弾で攻撃を行う。

 空中に無数の魔弾が放たれて、雨のように降り注ぐ。

 地上からも無数の魔弾が魔物を襲う。

 剣と魔弾の攻撃でうまく敵の攻撃を誘導して、魔物に盾隊を攻撃させた。

 それで生まれた隙を槍兵が攻撃する。

 魔物が痛みで鳴いた。

 

「攻撃いま!!」


 魔法兵が魔法を魔物に向かって放つ。

 ティルは巻き添えを喰らわないように、屋根に移動する。

 魔法が止むと同時に、魔物に襲いかかる。

 再び魔物に飛び移る。

 そして頭に剣を突き刺すと、魔物が大暴れする。

 

「――ライトニング!」


 剣を伝って雷撃が脳に直撃する。

 魔物が悲鳴の様に咆哮を上げる。

 脳を焼かれてもまだ生きていた。

 そして勢いよく首を振り上げてティルを空中に吹き飛ばした。

 ティルは指先を魔物に向けて照準を合わせると魔法を使った。

 指先に数枚の魔法陣が展開される。


「――魔弾装填魔法(エーテリオス)


 魔法陣に魔弾を装填することで強力な攻撃ができるオリジナルの魔法だ。

 魔弾を二発装填した。

 この魔法は装填された魔弾の数に比例して攻撃力が変動する。

 そして装填中は魔弾を増やすことができず、使用後一○秒間の間は魔弾の最大生成数が装填した魔弾の分だけ減少するデメリットがある。

 制約を設けたことで魔法の性能を上昇させているのだ。

 そして放たれた魔弾は魔物の体を貫いた。


「これでトドメ!」


 ティルが剣に魔力を流し込む。

 剣を上段に構えて攻撃態勢に入った。

 盾兵や魔導兵たちがティルの攻撃の意図を理解して、魔物の意識を自分たちに釘付けにさせる。

 そしてティルが魔力撃を放つ。

 魔物に直撃する瞬間に剣を振り下ろした。

 剣に込められた大量の魔力が解放された。

 魔力が斬撃の様になり、質量で押し潰すように切断した。

 もし魔力量が多ければ消し飛んでいただろう。


「ふぅう。……っとと」


 ティルが着地するとバランスを崩してよろめいえた。


「流石です」


 一人の盾兵がティルの元に駆け寄ってくる。


「ありがとう。戦況は?」

「だいぶ落ち着きました。あとは小型の処理だけです」

「私も参加するからすぐに片付けちゃおうか」

「はっ! みなに伝えます」


 兵の指揮が高くなっているのもあり、それからは早かった。

 


 ティルが戦う姿をアリサはその目に焼き付けていた。

 それに集中するあまり、周りが見えなくなっていた。

 中型の狼の魔物が物陰からアリサに襲い掛かった。


「しまっ――!?」


 魔物に気付くのが遅れ、完全に奇襲される形になった。

 咄嗟に魔法を使おうとしたが、間に合わないことを悟る。

 無駄だとわかっていても、腕を前に出して魔力障壁を張って足掻こうとした時だった。

 彼女と魔物の間に一人の少女が割って入る。

 その少女はナイフを魔物の腹に突き立てた。

 魔物の勢いに負けないように足を少し広げて踏ん張る。

 魔物は、自身の勢いで腹を裂かれる。

 少女が魔物の血と内臓をほぼ全て浴びて真っ赤に染まる。

 体中に内臓が絡まるように被り、気持ち悪いと感じていた。

 

「……最悪……はぁあ」


 少女がテンションを落としながら言った。

 そしてアリサの方を向いて、優しい笑みを向ける。


「大丈夫? アリサ」

「ソ、ソフィー……」


 理解が追いつかずアリサがポツリと名前を呟く。

 ソフィーがアリサの体を上から下まで見ると安堵の息を吐いた。


「大怪我は無いみたいだね」

「なんでここに?」

「アリサが戦場に出ると聞いて、奥様が私を派遣したの。二人の護衛として。でも、ティルは大丈夫みたいね。指図めアリサは、ポカでもやったの?」


 ソフィーが柔らかい口調で聞いた。

 彼女を慰めるように。


「……うん。わ、わたし……動揺しちゃったの。さっきまでお話してた人が……そ、その……し、しん……」

「うんうん。アリサの言いたいことはよく分かるよ。私も冒険者だった頃にたくさん経験してきたから」


 ソフィーが少し悲しそうな表情で言った。

 それを見てアリサは、どこかホッとした気持ちを抱いた。

 先程までの戦場が異常だったことを、肯定された気がしたからだ。


「少し前に一緒にご飯を食べた人が死んでるなんて当たり前。人の死を悲しむ余裕すらもらえない場所、それが戦場なんだよ」


 ソフィーがアリサに現実を教えるように言った。

 アリサは、この戦いを通してそれを嫌というほど体感していた。

 複雑な感情が表情に出て、どうしていいかわからずアリサが俯いた。

 そんな彼女の頭を撫でようとソフィーが手を伸ばすが、血濡れになった自身の手を見て撫でるのをやめる。

 そうこうしているとティルが二人に合流した。

 彼女も返り血を浴びて赤く染まっていた。


「やっほーソフィー。いいマフラー着けてるね」


 取り切れていなかった魔物の内臓を見てティルが言った。


「欲しい?」

「いらない!」


 ティルが本気でいらなさそうな表情を浮かべた。


「ここは粗方制圧できたみたいだし、少し魔力を回復させたら次行くね」

「アリサはどうするの?」

「ここに置いていく。あれくらいのことで動揺するならまだ戦場は早い。死体をただの物だと認識できずに感情を揺らせば死を招くから」

「それが賢明だと私も思うよ」

 

 それを聞いてアリサが悔しそうに、スカートの裾を強く握った。

 自分ならまだやれる、と言いたい気持ちを必死で押し殺す。

 実際に自分が見せた失敗に、言い訳をしたくなかったからだ。


「わ、わたしも……」


 つい零れた言葉。

 だが、その先をアリサは言えなかった。

 また誰かの死を見るのが怖かったから。

 自分のせいで誰かを傷つけるのが嫌だったから。

 そしてティルに失望されたくなかったから。

 色んな感情が彼女の言葉を遮っていた。


「連れてきたのは時期尚早だったかな。もう少し精神が強くなってからの方がよかったかも……」


 ティルのその言葉にはアリサを危険な目に合わせた後悔が滲み出ていた。


「私もティルの言う通りだと思う。だから――」

「待って! わたしも……わたしも連れて行って! 二人の言うこと聞くからお願い!」


 今すぐにでもこの場を後にしようとする二人を見て、アリサは押し込んでいた言葉を口に出してしまった。

 

「覚悟は出来てるの?」

「うん! 今度こそは――」

「それじゃあダメ。たった一回の死を見たくらいじゃあ、人は覚悟を決められない。ましてやそれが親しい者じゃないならなおさら。だから改めて聞くよ。これから胸が張り裂けそうなくらい辛くて、苦しい思いをすることになる。それでもいいの?」


 ティルが半ば脅すように言った。

 ソフィーは、その意図を理解してあえて口を挟まなかった。

 そしてこの時、ソフィーはあることを思った。


(ティル、あなたもこんな戦場は初めてなのになんで平気にしているの? 私だって最初はアリサみたいに泣きわめいて吐くことしかできなかったのに……。まるで何回も戦場を経験してるみたい……)


 当然のことを思いながらもソフィーは、口に出すことをしなかった。

 聞いたとしても返事の内容はわかっていたから。


 そしてアリサが覚悟を決めた。

 目にはまだ動揺が残り、覚悟が少し揺らいでいるのがわかった。

 それでもアリサはスカートの裾を強く握って、意を決して言う。


「お願い!」

「はぁぁああ、仕方ない。でも、これが終わったらホントに辛い目に合うからね」

「うん。覚悟はできてる」

「わかった」


 アリサの決意を確認するとティルが魔法を使った。


「――精神強靭化(セイント・ハート)英雄戦(パーフェクト・)士化(ウォリアー)。これでかなり強くなったけど、魔法の効果に頼らないように! いいね?」

「強くなったと錯覚しないように、でしょ?」

「わかってるならよし。英雄戦(パーフェクト・)士化(ウォリアー)はほぼ全ての近接武器の技量が英雄と呼ばれるような人たちと同等になる。でも、体にかかる負荷がすごいからなるべくそういう状況にはならないでね。それといざとなったらあの剣を使うこと。これが一緒に来る最低条件だよ」

「わかった」


 ティルの言葉をアリサが戒めるように心に刻んだ。


「ソフィー、アリサをお願い。私は部隊指揮とかやるから手が回らない」

「任せて」


 三人で話し込んでいると、一人の兵士がティルの元にやってきた。


「完全に制圧しました!」

「お疲れ様。信号弾もお願いしていい?」

「そう言われると思い、準備を完了させています。そろそろかと」


 兵士がそう言うのと同じくして白い信号弾が空に打ち上げられた。

 信号弾は周辺を照らした。

 街が明るくなり、視界が良くなった。

 それから少しして各所で信号弾が上がる。

 制圧が完了した所は三つほどだった。

 それ以外は、救援要請や戦闘の度合いを教える物があがる。


「救援が二ヶ所、その中でも緊急を要するのは……あっちの方かな」


 ティルが千里眼で救援要請を出した所、その中でも戦況が悪いことを指す要請を出した場所を見る。

 敵味方が入り乱れて、戦況が混沌としていた。 

 そしてここを突破されると避難所までに防衛線がない。

 ティルは、真っ先にここの状況を打開しようと動くのだった。

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