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第11話 決着


 アリサが動くのと同時にティルが魔法を使った。

 杖の先端に魔法陣が展開され、そこから魔力砲が放たれる。

 瞬きをした瞬間には、アリサの目の前まで砲撃が迫っていた。

 咄嗟に魔力障壁で防いだ。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 正面のあらゆる方向から攻撃が飛んできた。

 それを魔力障壁をピンポイントで展開して防ぐ。

 集中防御をしないと貫かれるからだ。


(杖を持ってからお姉ちゃんの攻撃パターンが変わった。量による物量攻撃をやめたってことは、もっとすごいのがくるって想定したほうがいいかも)


 アリサが慎重に状況を分析する。

 攻撃の隙を見て、アリサも反撃を行う。

 ティルがそれを飛びながら回避して五つの魔法陣を展開して、魔力砲撃を叩き込む。

 そして六つの黒いファイヤーランスを放つ。

 炎の槍が着弾すると地面に刺さり時間差で爆発した。


「きゃっ!!」


 アリサが爆風に吹き飛ばされた。

 体勢が崩れた隙を狙って、魔力弾がほぼ全方位から襲い来る。

 避けても次が来る。

 アリサは常に行動を予測され、先手を打たれ続ける。

 

「空に上がれない!」


 ティルが制空権を完全に手にしていた。


「漆黒の太陽よ――」


 戦況を変えるためにアリサが詠唱を始めた。

 それに合わせてティルも詠唱を始める。


「謌代€�ュ泌ー弱r讌オ繧√@閠�€ょ、懃ゥコ縺ォ霈昴¥譏溘�螯ゅ¥縲∽ク也阜縺ォ辣後a縺阪r蜈キ迴セ縺帙h」


 ティルが複数の魔法の詠唱を一回で行う。

 複数同時詠唱という人知を超えた離れ業を魅せた。

 アリサは、それを言語だと認識することができなかった。

 一回の発声で複数もの言葉を紡いでいたのだ、無理もない。


(なに? その詠唱!?)


 さらにティルは心臓の鼓動と血流、生体電流そして瞬きなど体のあらゆる機能を使って詠唱を行っていた。

 状況を把握するためにアリサが魔力視でティルを見て、目を丸くした。

 なぜなら、ティルの体中を巡る魔力がありえない動きをしていたからだ。

 そして血流が進んで戻るなどの本来起こり得ない現象をその身でやっていたからでもある。


(あんなことしたら死んじゃうよ!! 何でそんなことを平気でできるの?)


 アリサが唖然としながらも詠唱は続けていた。

 大魔法が来ることはわかっていたから、止めるわけにはいかなかったのだ。


 これを見てアリサは驚いてるんだろうな〜。

 魔導の最高峰、つまり奥義の様なこの技法、体現詠唱を前にして。

 動作や生体現象といった体のありとあらゆる機能を使っての超多重詠唱。

 制御をほんの少し間違えるだけで死に至る諸刃の剣。

 そこに圧縮詠唱や短縮詠唱、省略詠唱、神言詠唱そして超高速詠唱などを緩急つけて同時に行うことで、詠唱可能な魔法の数をさらに増やして、性能向上などの様々なことができる。

 やっぱこれを使わないと性を実感できない!!


 ティルが死のリスクを前にして、恋する乙女の様な感情を抱く。


 アリサ、見せてあげる。

 魔導の神髄の一端を。

 低位の魔法でも複数の魔法を同時展開して魔法陣をかけ合わせることで、擬似的に上位や最上位魔法の再現をすることができるんだよ。

 低位魔法しか使えない縛りがあっても上位魔法は使えるんだよ。


 溢れて漏れ出した魔力によって、ティルの目が淡く光り始める。

 オッドアイの瞳が紅くなる。


「――ゼノ・ブレイズ!!」


 アリサの方が早く詠唱を完了させて三つの漆黒の太陽を放った。

 アリサも覚えたばかりの多重詠唱を行っていたのだ。


「うそ!? 詠唱中にそんなことできるの!? 詠唱中は魔法への魔力制御を行うから他の魔力制御ができないはずなのに! なんで魔力障壁を展開できるの!!」


 ティルが魔力障壁を展開して、漆黒の太陽から身を守った。

 それを見てアリサの脳裏にティルの言葉がよぎった。


『魔導を探求して、ある程度の領域に足を突っ込んだ魔導士わね、詠唱中でも他の魔力制御ができるから気をつけること』


 アリサは、その言葉を冗談だと思っていた。

 そんなことができる存在は歴史にもいなかったからだ。

 単純に油断するなと遠回しに言っていると、彼女は結論付けていた。

 しかし、目の前にそのありえない現象を行った者がいたのだ。


「――白雷夜天」


 ティルが淡々と言いながら、何かを落とす動作をした。

 白き夜が、黒雷を纏って降ってくる。

 範囲内の全てを夜が飲み込んで、超熱量で蒸発させる。

 それでも残ったものを黒雷が貫き死を振り撒く。

 アリサは、それを直撃した。

 魔力障壁に全魔力を使っての全身全霊のガードをする。

 最終的に障壁は、破壊されたがなんとか耐えきった。

 しかし、全身ボロボロで体中から激痛が襲い来る。

 文字通りの満身創痍の状態だった。

 痛みに顔を歪めながら、アリサは空を見上げてティルを見る。


「これがお姉ちゃんの真の実力……すごい!! こんな魔導士がこの世界に居たんだ!」


 アリサが目を輝かせてティルを見る。

 興奮は未だ冷めず、心の内で燃え上がっていた。


「どう? これが第十一位階魔法白雷夜天。その威力は?」

「すごいよ!! すごいとしかいいようがない!」


 そこまで言ってアリサが不服そうな顔で言う。


「でも、お姉ちゃんが高位の魔法を使うのは禁止じゃなかったの? しかも、第十一位階って最上位の魔法だよ!?」

「ちゃんと縛りの中でやったよ。魔力視で私を見てたなら気づいてるんじゃない?」

「もしかして発動前に無数の魔法陣が重なっていったこと?」

「そう。あれは全て第四位階以下の魔法だよ。他の魔法同士を組み合わせて上位魔法の再現しただけ。例え、下位の魔法しか使えなくてもこういうことができるんだ。本来の性能よりかはそこそこ劣化するけどね」


 それを聞いてアリサは戦慄した。

 魔法をかけ合わせての変質現象を逆手に取った技。

 変質を自分が使いたい魔法にすることは、空の星を掴むようなものだ。


(こんな高等技術を当たり前のように平然とやるなんて……。どこまでの高みにいるの? お姉ちゃん)


 それを平然とやってのけた姉に畏怖と尊敬を覚える。


「体現詠唱と言う技法だよ。一言で言うなら詠唱という行為を極めた奥義って所かな。近い内に教えてあげるね」


 ティルのその態度は決着がついたと言わんばかりの物だった。


「あははは。これは勝てないや。格が違いすぎるもん」


 アリサが嬉しそうに笑った。

 ティルも釣られて嬉しそう笑う。


「どう? 少しは目標になれたかな?」

「少しどころじゃないよ! ありがとう」

「ならよかった。そろそろ結界が解ける頃かな」


 ティルが言うよりも少し早く結界に亀裂が入る。


「そういえばこの結界ってどうやって維持してたの?」

「魔力溜りの魔力を使って維持してたの。少しでも早く解消させるために使ってみた」

「へ〜、そんな使い方もあるんだ」


 それを聞いてアリサが結界を見上げる。


「そうそう、これは返してもらうよ。装備に頼るのは、良くないからね」


 ティルが指を鳴らすと換装の魔法が発動して、アリサが私服姿に戻る。


「は〜い。でも、ちょっと欲しかったな」

「ふふ、なら今度、武器でも作ってあげるよ。さて、戻ろうか。疲れたし――!?」


 ティルがいきなり血を吐き出した。

 目からも血涙が流れる。


「お姉ちゃん!? 大丈夫?」


 アリサが焦りながらティルに駆け寄って彼女を支えた。


「大丈夫大丈夫。……結界の補助があるとは言っても、流石にハッスルしすぎたみたい。魔法の反動で体が悲鳴を上げてるだけだから」


 ティルが呼吸を乱していた。

 まるでスタミナが切れたように。

 視界が定期的に暗くなる。


「でも……」

「そんなに心配しなくていいよ」


 ティルがアリサに微笑を向けた。

 

「はぁ……はぁはぁ……とりあえず帰ろう……か」

「そうだね」


 アリサがティルに肩を貸して歩き始める。

 ティルは、おぼつかない足でアリサに合わせて歩き始めた。

 帰路を歩いていると、アリサが空を見て首を傾げた。


「そういえばまだお昼過ぎなんだ……。長い時間、模擬戦してたはずなのに?」

「結界内と外だと、時間の流れが違うからね。魔力溜りのおかげでできた芸当だけど」


 ティルが苦笑いを浮かべた。

 全盛期の自分なら魔力黙りを使わなくてもできるけど、と思うが口にはしなかった。


「それでもすごいよ! そんな魔法陣を作れるなんて」

「そうでもないよ。時間をかければ大がかりな魔法は意外と簡単に作れるんだよ」


 アリサは、ティルから魔法の講義を受けながら屋敷に向かうのだった。

 そしてその道中、急激に冷え込み始めた。


「なんか寒くない?」


 ティルが寒さのあまり震えていた。


「え!? 雪!? 今夏だよ!!?」


 アリサの視界に白い物がチラつき、空を見上げると雪が降り始めていた。


「異常気象……いや、この季節に雪は流石に有り得ない」

「お姉ちゃんでも原因が分からないの?」

「流石にこれだけだと情報不足だね。魔法の気配がないから天候操作ではなさいそう。うー、さむっ!」


 二人は身を寄せあって、寒さを凌ごうとしている。

 しかし、焼け石に水であった。

 夏服で真冬の気温には勝てなかったのである。


「は、ははは早く帰ろう!!」

「そうだね、我が妹よ」


 駆け足で二人は屋敷を目指す。


「異常気象かー」


 ティルがふと空を見ると、雲が凄まじい速度で動いていることに気がつく。


「!? 急ぐよアリサ!!」

「ど、どうしたの!?」

「話はあと! 道中で話すから今は走って!」

「う、うん」


 困惑しながらもアリサは、ティルの指示に従って走る速度を上げた。

 ティルも動かない体を無理やり動かして、アリサの負担を軽減するように動いた。

 急ぎ足で森を抜け、街が見える場所まで移動した。


「はぁはぁ……はぁ……ここまでくれば遠面は大丈夫かな」


 ティルが汗を拭いながら言った。


「そ、それなら理由を教えてよ」

「そうだったね。結局、道中では言わずじまいだったし」


 ティルがそう言うと息を整えてから、その理由を話し始めた。


「一言で言うと古龍だよ」

「こ、古龍!? ……確かにそれならこの異常気象も納得が行くよ。でも、なんで古龍だってわかったの?」

「仮に魔法だったとしても、常時あの速度で雲が動くことはないからだよ。ほぼ全ての古龍に共通する自然干渉に気流を乱して、上空の風を暴風にする能力があるからかな。雲の動き的に古龍がいるのは、進む雲の反対側――」

「――つまりさっき居たあたりにいたことになるんだね」

「そう」

「お姉ちゃんが慌ててた理由がやっとわかったなの」

「少しでも知識があれば、いざって言う時に役に立つから、勉強しておいて損はないよ」

「さっき、身を持って知ったばかりだよ。……それよりも帰りどうしよう」


 アリサが深刻そうな顔で言った。

 ティルの服が血で汚れていたり、戦闘の際に敗れていたからだ。


「どうしよ」


 ティルが両手を上げて、お手上げだと身振りで語る。

 そしてアリサが絶望のあまりため息を零す。


「はぁぁぁ。母上に怒られるのは、嫌だよ〜」

「ママが怒ると怖いもんね〜」


 ティルが悟ったような顔になっていた。


「言い訳どうしようかな〜」

「お姉ちゃん……」

「大丈夫だよ。私も一緒に怒られるから」


 ティルが優しくアリサの頭を撫でた。

 そして姉妹揃ってため息を吐くのだった。

更新が遅くなり、申し訳ありません。

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これからもよろしくお願いします。

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