終身雇用
日本の人口が1億人を下回ってから数十年経った。
少子高齢化が進むと共に、1億人を上回っていたときと変わった事が幾つもある。
1つは、高校や大学など学業を終えた者たちに自衛隊への入隊が義務付けられた事。
自衛隊に入隊し最低4年勤務しなければ、どんなに優秀な成績で学業を終えても必要な国家試験を受ける資格を得る事ができない。
私も航空自衛隊で6年間勤務した後試験を受け、公務員になった口。
公務員だけで無く、医者や弁護士など国家試験が必要な職に付くためには自衛隊勤務は必須なのだ。
この制度が導入されたお陰で、導入前より公務員や医者弁護士などの職に付く者による不正や不祥事が減ったと言われている。
自衛隊で規則を守る事を叩き込まれているからだろうな。
2つ目は減り続ける働き手不足を補う為、完全コンピューター制御の仕事や店舗が増えた。
無人のバスやタクシーそれにトラック、スーパーやコンビニ等の小売店やファーストフード店等が此れにあたる。
それに完全コンピューター制御では無いけど、あらゆる分野で仕事の補助にコンピューターが使われていた。
例えば私が勤務している役所では、書類の作成や資料集めなどはコンピューターの仕事。
私たち人の仕事は、議員さんや他部所との折衝や市民からの問い合わせなどの対応だ。
3つ目は終身雇用制度の復活、コンピューター制御によるオートメーション化が進んでも、どうしても人手が必要な仕事はまだまだ沢山ある。
そういう仕事は3k「きつい」「汚い」「危険」と言われる業種が大半を占める。
若い人たちに敬遠され新入社員の入社が見込め無い。
だからこの終身雇用制度は、それ等の仕事に堪能なベテラン社員を逃さず死ぬまで働かせようと考えた、ブラック企業と言われている会社が率先して行っているらしい。
そんな事をボンヤリと思いながら○○霊園行きのバスに乗車する。
庁舎で使用しているコンピューターのメンテナンスのため、入庁して初めて残業を経験した帰り道。
何時は自宅と駅の間約2キロの道のりを健康のために朝晩歩いている。
でも今日は、初めての残業で疲れた身体を少しでも労ろうとバスに乗った。
○○霊園が終点だと、500メートル程戻らなければならないのだけどね。
バスの中は、30才の私より5〜60才くらい年上の老人でギッシリと埋まっていた。
終身雇用制度の会社に勤めているのか、疲れ果てた青白い顔の老人たちは俯いたまま一言も喋らず、バスの揺れに身を任せている。
皆、私と同じ住宅街に住んでいるらしく終点の○○霊園まで誰も降車しなかった。
バスから降り家に向けて歩き出そうとして、…………わ、私は気がついた、気がついてしまった。
終身雇用制度が死ぬまで働かせる制度では無いって事を。
な、何故なら、……私と共に終点で降車した老人たちが皆、閉め切られた○○霊園の門の中に溶け込むように消えて行くからだ。