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応接室(下)

 全部聞いた。

 最悪だった。

 音声データであいつは全てを語った。俺との出会い、そして別れ際のあの約束、その後俺を殺す為の兵器を作っていたこと、俺が行方不明になった後、何故人間の蘇生、死者の蘇生の研究を始めたのか、その全てを。

 あいつは、最期まで俺との約束を果たそうとしていたらしい。

 俺が死んだと思ったから、自分で殺すために、殺し直すために、あの約束を果たすためだけに、俺を生き返らせようと。

 ほとんど飲まず食わずで何日も眠らずに、自分の身体のことなんて気にかけずに、ずっと。

 それで、死んだ。

「この、馬鹿女……」

 ――私があいつを殺したかった、そんな絶望じみた妄執がどうしても消えてくれなかった。

 俺だって、お前に殺されたかったから泥水啜ってまで生き延びた。

 ――ひょっとしたら私との約束を覚えていたんじゃないかという自惚れも少しはしたけど、多分別の理由があったんだろうって思ってる。

 自惚じゃないよ、お前に殺されるために醜態を晒してまで生き延びた。

 ――じゃあ私があいつのことをどう思っていたかっていうと……この際正直に言ってしまうと、実は普通に好きだった。

 今更そんなこと聞かされて、どうしろっていうんだよ。

 今更だ、本当に今更だ、何もかも遅すぎた。

 お前がもしまだ生きていたら、俺はお前の狂気を知って歓喜に打ち震えていたかもしれない。

 生き返らせてまであの約束を果たそうとしてくれていたお前を、素直に喜べただろう。

 だけど、お前は死んだ。

 ふざけるな、なんで死んだ、なんでそんな無茶をした、目的を果たすために我武者羅になれるのは確かに美点だけどお前のそれはもうただの欠点だ、なんで自分の限界がわからない、何故目的を果たせないまま自分が死ぬ可能性を考えない。

「はは、あはは……ふざけんな、勝手に死にやがって……ふざけるな、ふざけるな」

 お前に全部話したのはただ誰かに吐き出したかったからじゃない、赤の他人で部外者だったからじゃない、そんな理由じゃない、ふざけるな。

 俺がいなくなった後でお前がのうのうと生き続けるのが我慢ならなかった、お前の隣に俺以外の誰かが座るのが嫌だったから、全部話して殺そうとした。

 それすら知らずに、一人で勝手に死にやがった。

 ふざけるな、ふざけるな、本当に腹が立つ。

「死ぬなら俺を殺してから死ね……俺に殺されて死ね……」

 そんな言っても仕方のないことを、何度も繰り返し呟いた。


 パソコンから記憶媒体を引き抜いて、握り込む。

 部屋から出ると、少し離れたところに突っ立っていた眼鏡の男がこちらに寄ってきた。

「おわったか」

「ああ……これは、もらってく」

 記録媒体を掲げてそう言うと、男は無言で首を縦に振った。

「それじゃ、俺はこれで」

 それだけ言って男に背を向ける、もうここに用はない。

「……この後、どうするつもりだ」

 振り返って、何も答えずに小さく笑みを浮かべた。

 全てを察したのかそうではないのか、男は目を大きく見開いて俺の顔を見つめる。

 男は何かを言いかけたが、結局何も言わずに無言で俺を見送った。

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