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ミサイル回避法

「セァ――!」


 裂帛の声と共にセクエンスによる一閃。

 分断されるレントの触手。

 ブラストリアを装着した渚沙は、縦横無尽に飛び回り、息を継ぐ暇もなくレントに攻撃を仕掛けていく。


 すでにブラストリアMark2は体に馴染んでいた。

 スーツケースへの変形が追加されているが、それ以外の変更は成されていないので当然と言えば当然かも知れない。

 だがそこにいたるのには簡単なる道のりがあった。


 従来のRCユニットは専用のコンテナや基地でしか装着出来ないので、出撃するタイミングに遅れが生じるという逃れようのない弱点があった。

 携帯性を重視したRCユニットは、これまでも研究が成されていたことだが、どうしても実戦投入できる性能に届かないものが殆どだった。


 しかしブラストリアMark2は、先代にまったく劣らない性能だ。


 ここにいたるまでどれだけの試行錯誤があったのか想像に難くない……が、あの忌々しい金髪社長の高笑いが頭に浮かんだので、ぶん殴って追い返す。

 アームによる攻撃をギリギリの所で避けながら、胸にセクエンスを突き立てた。

 スラスターの勢いが乗っていることもあって、デスペラードの装甲をいとも簡単に貫通する。


 人間が装着している状態であれば即死は免れない。

 だが、今この機体に宿っているのはキャンサーだ。

 装甲の隙間から、レントのボディが槍状になって次々と撃ち出される。


「チィ――!」


 胸部を蹴り、攻撃を逃れる。


「醜いな……やはり」


 半分機械半分怪物の体になったデスペラードを睥睨し、渚沙は嫌悪を隠そうともしていない。

 デスペラードは愛しい弟のRCユニットだ。

 それなのに今は、ビスクドールの分身体によって、醜い傀儡へと堕している。


「鬱陶しいよ、おまえ――!」


 背面のミサイルポッドから大量の小型ミサイルが撃ち出される。

 ミサイルにはホーミング機能が搭載されており、一度狙いを付けたら最後、燃料を失うか標的を破壊するまで止まらない。


 舌打ちしながら、スラスターを操作しさらに加速させる。

 夜空を駆ける渚沙に、通信が入る。


『あーテステステス! 聞こえてますの渚沙! というか本当に渚沙ですの!?』


 インカムから、来美の妙に焦った声が聞こえてくる。


「ああ私だ。正真正銘の波沢渚沙だぞ。安心したか?」

『大量のミサイルと追いかけっこ中の状態で安心出来ると思いまして!? ていうかそれはなんですの。ブラストリアは今修理中のはずでしたわよね?』

「あの狐の新製品だ! スーツケースから変形するから携帯性抜群だぞ」

『わーおそれはすご……ってバカじゃないですの!? 自分の体がどうなってるのか理解してまして!?』

「当たり前だ。自分の体だぞ? まだいけると言っている」


 戦い始めてから体のあちこちが悲鳴を上げているが、返ってそれが気付けになっていて、意識は極めてクリアだ。


『ついに頭だけでなく体もおバカになったんですのね……』

「こんな時に下ネタはどうかと思うぞ」

『言ってませんわよ! そんな状態で試作機のテストとかコンクリ抱いて清水の舞台から飛び降りるようなもんですわ!』

「ならまだ大丈夫だな……!」

『もう嫌ですわこの規格外人間……』


 それでもインカムを切らずに、来美はオペレートを務めてくれた。


「来美、ミサイルの数を把握できるか」

『全部で十……さすがに全て食らったら厳しい事になりそうですわね』

「なるほど。つまり当たらなければ問題ないのだろう?」

『……』


 沈黙する来美からは、


「それが出来れば苦労しませんわ……」


 という無言の抗議が聞こえてくるようだった。

 ミサイルは編隊を組みながら渚沙を追跡する。

 まるで死神の両手が迫ってくるかのよう。


「近くのビルに突っ込めば勝手に爆発してくれるか……?」


 ブラストリアの出力ならば、ガラスや壁を突き破ることくらい造作でも無いが、あのミサイルは貫通力は高く無いタイプだ。

 試してみる価値はあると思ったのだが――


『そんなことしたら明日の朝刊はコラテラル・ダメージで大バッシングですわね。あくまで私達の目的は人々の生活を守ることであることをお忘れなく』

「ぐぬぬ、避難完了しているならばいいではないか」

『駄目に決まってるでしょうバカナギ』


 そこまで言われては、引っ込めざるを得なくなった。

 空高く舞い上がれば、振り切れると思ったが、ミサイルはしつこく渚沙に追いすがってくる。


「少し間引くぞ――!」


 体を捻って急降下する。

 視界いっぱいに駐車場の黒々としたアスファルトが広がっていく。

 ミサイルもその後に向かう。

 少しでもタイミングが遅れれば、渚沙もただでは済まない。


 一歩間違えればド派手な投身自殺と化すだろう。

 だが――無論そんなミスを決めることではない。

 急旋回して、再び上空へと飛んだ。

 いくら追尾システムが搭載してあるとしても、余りに急な行動にミサイルは対応できずに衝突して爆発すると思ったのだが――


『……全て無事ですわね』

「何っ!?」


 見れば、確かにミサイルは地面に衝突することなく、渚沙を追跡し続けていた。


『すんごい精密ですわねー……これ、あちらさんにぶつける事は不可能っぽいですわ』


 定番の対処法を塞がれ、少し歯噛みするが、八方塞がりというわけではない。


「……やはり逃げるのは性に合わんと言うことか」


 そうぽつりと呟くと、渚沙はセクエンスを投擲した。

 激しく回転するセクエンスは軌道上に存在するミサイルを次々と切断し、次々と爆発させた。

 セクエンスの直撃を免れたミサイルも次々と誘爆していく。


「やはりこの手に限る」


 ほっと息をついた瞬間、レントの触手が渚沙の脚に絡みつく。


「ぬ――」

『ミサイルばかりに気を取られている場合なのかな――!』


 脱出しようとするが、撃ち漏らした三基のミサイルがブラストリアに容赦なく直撃し、爆発した。


「ぐあっ……!」


 爆風の衝撃と熱に顔を顰める暇も無く、渚沙はアスファルトに叩き付けられるた。


「ぐっ……」


 骨が軋みを挙げて体が上げる悲鳴が一掃大きくなる。

 頭からぬめりのある液体が伝うのを感じた。

 どうやら頭部を出血したらしい。

 ブラストリアはそこまでのダメージではなかったが、どうやら駄目になるのが早いのは渚沙の体の方らしかった。


『渚沙――!』

「心配するな。まだ体は動く」


 痛みを無視すればまだ戦える。

 それを嘲笑うかのように、デスペラードの脚がのしかかる。


「ぐっ……!」


 潰されまいと両腕で脚部を持ち上げる。

 しかし単純なパワーでは、デスペラードに勝てるRCユニットは存在しない。

 従来のRCユニットであれば、何か遠距離武器を使うなどして危機を脱することも可能だったろうが、ブラストリアは武器をセクエンスのみに絞っているためそれも不可能だった。


「潰れろ、虫けら――!」


 死の鉄槌が、ゆっくりだが確実に渚沙の体へとのしかかっていく――


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