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完成

 そんなこんなで、コスチュームのデザインを初めてから一週間と数日。

 ここに至るまで数多くのデザインが犠牲になったが――ついに今日。


「ま、これでいいんじゃない?」


 黛の家から持ち出してきた本をベッドで寝転びながら読んでいたブランカは、ついに僕のデザインにOKを出した。


「やったぁ――!」


 やっとここに辿り付いたんだといううれしさにあまり、思わずガッツポーズを決める。

 あくまでコスチュームのデザインなので、ゴールじゃなくてむしろそこがスタートラインなんだけど、嬉しいものは嬉しい。


「いちいち大げさすぎない?」

「いやでも、ようやくOKが出たんだよ!? 嬉しくない方がおかしくないか?」

「知らないわよあんたの都合なんか。ま、昨日キャンサー喰ってなきゃ、これもボツにしてたけどね」

「えぇ……」


 デザインを考えている間もキャンサーが出現の手を休めてくれるはずもなく、その時は例のツルツルなデザインで戦うことになった。

 キャンサーの体はブランカのエネルギー原になるだけでなく、ブランカのボディーに変換することも出来るので、戦うのは決して悪い話じゃない。


 ACTに見つかるリスクは大きかったけど、それを上回るリターンもあるし、幸いにもACTにも民間人にも姿は見られていない。


「で、どうするんだ? 一応デザインは出来上がったけど、取り込まなくちゃつくれないんだろ」

「その端末に入ってるデータを、その腕に移せばいいじゃない」

「そんなこと出来るのか? この義手にケーブルなんて組み込まれていなかった気がするけど」

「無いなら作ればいいのよ。端末を充電するケーブル持ってきなさい」


 言われたとおりにすると、義手がぬるりと動いて――そのままケーブルを食べた。


「ちょっ!?」

「――よし、これでケーブルの構造は理解できたわ」


 やがて義手の手首から銀色のケーブルが姿を現した。

 飛び出てる場所が場所なので、点滴の管みたいだ。

 ブランカの口ぶりではこれはさっき食べたケーブルではなく、構造をインプットしたブランカが変形したものらしんだけど……


「あ、あのー……さっきのケーブルは?」

「喰ったんだからもう無いに決まってんじゃない」

「なんでことしてくれたんだおまえはああああああああああああああ!」

「充電ケーブルくらいで大げさね。スマホのやつ使えばいいじゃない」

「規格が違うから使えないんだよ! 新しく買い換えたばかりなのに……」


 がっくりと項垂れる。


「さっきっから喜んだりがっかりしたり忙しい奴ね」

「やかましい!」


 ヒーロー活動には必要なことだとは分かっているけど、余計な出費が増えてしまった……

 落ち込む僕なぞ知ったことかと言わんばかりに、ケーブルが触手のように鎌首をもたげ、コネクタを充電口に差し込んだ。


 やがてブランカの干渉によってipadの画面が次々と切り替わり、データが自動でブランカの方へ転送される――なんて都合のいい話があるわけもなく、手動でデータを共有する必要があるみたいだ。

 凄まじい性能を持ってるのに、なんでいちいち操作がアナログなんだろうかという疑問はさておくとして。


『――データ転送完了。準備はいい?』


 黛の体からではなく、脳内にブランカの声が響く。

 自分の体の変化を詳しく見るために鏡の前に立って言う。


「ああ、いつでも大丈夫」

「心拍数が凄いことになってるけど」

「だとしても大丈夫だ」


 このシチュエーションで心拍数が上がらない方がどうかしている。


『それじゃ、行くわよ』


 義手が変形を始めた。

 ボディーがスライム状になって僕の全身を包み込む。

 ここまではいつもと同じ、ちょっと――いやかなり不気味なつるつるてんでガリッ細いヒーローの姿。


 だが、今回はそこから先がある。

 ボディーは徐々にがっしりしたものに変わり、頭部も狼をモチーフにしたものに変わっていく。

 自分が描いた絵が、デザインしたアーマーが、立体化して目の前に――いや、僕自身が装着している。


「うわあ」

「で、どう? 感想は」


 ぺたぺたと、マスクに触れると硬質な感触がアーマー越しに伝わってくる。


「うわあ、うわあ、うわあ」

「あのー仁?」


 今度は手を閉じたり開いたり――


「うわあうわあうわあうわあうわあ」

「いい加減にしろバカ仁!」


 顔面に加わった衝撃で、自分がぶん殴られたことを自覚してふと我に返った。

 多分義手で殴られたんだろうな。


「あ、ブランカ。何かあったの?」

「それはこっちの台詞よ。さっきからうわあうわあとしか言ってないし、ついに狂ったのかと思った」

「失礼な。僕はいたって正気だよ。多分」

「そこは胸張って言いなさいよ……」

「いやでもさこんなことができるなんて、凄すぎるよ」


 初めてRCユニットを装着したときだって、ここまでの感激はなかった。

 これがスタートラインであることは分かっている。

 分かっているけどさあ……


「やばい、多分マスクの下で滅茶苦茶ニヤけてる」


 今写真を撮ったら、いつもの無表情じゃなくていい感じの笑顔になるんじゃないか?


「はいはいよかったわね、キモい表情全開じゃなくて」


 ブランカの皮肉も今は笑って受け流せるぞ。

 本当だったらこんなアパートの一室じゃなくて、秘密の地下室とかガレージでやると雰囲気が出そうだけど、それはそれと言うことで。


「よし、ここは一つ自撮りを……いや待てよ。ブランカ、写真撮ってくれない?」

「はぁ? なんであたしが」

「自分で撮るよりポーズに自由度が出ると思って」

「まったく、たかだか造形が変わったくらいでここまで興奮するものなの?」


 とか言っていても、ブランカは僕のスマホを手に取りレンズをこちら向けてくれた。

 さてポーズはどんな感じにしようか。

 定番の胸を張っての直立立ちもいいけど、腰を低くして決めるポーズも悪くない。

 いや、いっそのこと全パターンを試そうかと考えていた瞬間、街中に設置されたスピーカーから警報が鳴り響いた。

 それが意味することは一つしかない。


「キャンサー……!」


 今までの無駄に高揚した気分が一気に切り替わり、熱が一気に引いていくのが分かった。




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