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モテたいけれどそうじゃない

作者: 次元警察

 一人の男がとある森の中を全力疾走している。男の名はローヴェ。冒険者である。

 ローヴェがなぜ森にいて全力疾走しているのかというと、森にいる理由はとある薬草の採取依頼を受けており、この森で採取が可能なため。全力疾走している理由は、ローヴェは現在モンスターに追われているからである。

 しかしモンスターから逃げているのは襲われているからではない。


「ダーリン! 待ってぇぇぇ!」


 モンスターに求愛されているからである。

 

 実はローヴェは「異性のモンスターから異常に好かれる」という特異体質の持ち主である。その効力は凄まじく、一目惚れされるといっても過言ではない。


 一見するとすごく羨ましい体質なのだが、ローヴェ自身は渡せるものなら誰かに渡したいと思っている。その理由はこの体質はあくまでモンスターに好かれるだけであり、相手の価値観は変わらないから。つまり相手を拉致して子孫を残すモンスターであれば、確実にそう言う理由で追いかけられると言うことである。


 そんな理由もあり、ローヴェにとってこの体質は「ほぼ確実にモンスターに追い回される」という呪いに近い体質である。


「どうして逃げるの? アタシはこんなにダーリンを好きなのに」


 現在ローヴェが追われているモンスターはオークと言い、大きな体に豚の頭を持つモンスターだ。薬草を採取した帰りに遭遇し当然のように一目惚れされ追いかけ回されている。オークはその見た目通り鼻が効き、視界から逃れても匂いで追跡されるためローヴェもなかなか振り切れないでいる。


(このままじゃまずいな……。でも確かこの先に……!)


 しかしローヴェも闇雲に逃げ回っているわけではなく、森を探索した時の記憶を頼りにある場所へと向かっている。そしてなんとかその場所に辿り着きオークを撒く作戦を開始した。




 一方のオークはローヴェを見失っていたが、その優れた嗅覚でローヴェの匂いを頼りに追っていた。


「ダーリン、もう追いかけっこは終わりにしましょう。この後はアタシの家でゆっくり……あら?」


 匂いを頼りに追った結果、たどり着いたのは小さな池だった。そしてその池の前でローヴェの匂いが途切れている。


「おかしいわ。ここでダーリンの匂いが消えちゃってる。一体どこに……! ま、まさか⁉︎」


 オークは池の前でローヴェの匂いが途切れていること、そしてその池から下流に続く流れの強い川があることから、ローヴェが池に落ちて下流に流されてしまったのではないかと考えた。


「こ、こうしちゃいられないわ! ダーリン、今助けるからねぇぇぇぇ‼︎」


 オークは大急ぎで下流に向かって走っていった。そしてオークが去って少しした後……。


「……ぷは! はぁ……はぁ……。上手くいってよかった。そして水棲のモンスターがいなくて本当によかった」


 池の中からローヴェが現れた。ローヴェはオークを撒くためにこの池に飛び込み自分の匂いを消し、池から続いている川に流されたと錯覚させた。もっとも、流されたと思われなかった場合は本当に流されて行く予定だったが……。


 一安心したローヴェは持っている荷物を確認する。やむ終えなかったとはいえ荷物を持ったまま川に飛び込んだため中に入れていたものが濡れていないか心配だった。


「……依頼の薬草は全部濡れていないな、他の荷物も無事のようだ。さすが高かっただけはあって効果は確かなようだな」


 今回のことが日常茶飯事であるためローヴェは貯金を叩いて防護の魔法がかかった魔法の鞄を購入していたのだが、耐水効果もあったのは嬉しい誤算だった。荷物の確認を終えたローヴェはさっさと森を出ようと歩き出そうとしたのだが……。


「うわ‼︎」


 突然引っ張られるような感覚が襲い、ローヴェは空中に投げ出された。そして引っ張られた先は人の何倍の大きさもある巨大な蜘蛛の巣だった。ローヴェがなんとか脱出しようともがいていると……。


「あらあらあら、住処を変えた途端にこんないい男が見つかるなんて」


(ア、アラクネ……⁉︎)


 現れたのは美しい女性の上半身に巨大な蜘蛛の下半身を持つモンスターであるアラクネ。ローヴェが絶対会いたくないモンスターのうちの一体である。

 その理由は、アラクネやラミアといった女しか存在しないモンスターは繁殖のため、多種族の男と子孫を残す。しかしその方法は『自分達が気に入った男を拉致・監禁して無理やり行為に及ぶ』という非常に強引なもの。そのため冒険者ギルドでも危険視されているモンスターである。そんなモンスターにローヴェが見つかればどうなるかは簡単に想像できるだろう。


(まずい! はやくなんとか脱出しないと……!)


「本当に運がいいわ。こんないい男もう見つからないかも」


 ローヴェは必死にもがき、体を蜘蛛の巣から外そうとするが一向に離れる気配がない。その間にもアラクネはどんどん近づいてくる。もうだめかと思われたその時……。


「うお⁉︎」


「キャ!」


 突然蜘蛛の巣が壊れ、ローヴェとアラクネは地面に落下した。何が起こったのかと周りを見渡してみると、近くの木に斧が突き刺さっている。どうやらこの斧で蜘蛛の巣が壊れたようだ。そしてローヴェはこの斧に見覚えがあった。


「見つけたわぁ、ダーリン」


 この斧は先ほどまでローヴェを追いかけていたオークの持っていた斧だ。どうやら撒いたと思っていたのだが、ローヴェを見つけることが出来ずに戻ってきたようだ。


「ひどいわ。いなくなったと思ったらまさか浮気していたなんて……」


「あらあら浮気だなんて、一体誰の旦那様に向かっていっているのですか?」


(俺はどっちの男でもない!)


 そんなローヴェの心の声とは裏腹にオークとアラクネは睨み合い、一触即発の状態だ。いつ争いが起こってもおかしくない。


「ダーリンを返してもらうわよ!」


「豚風情が勝てるとでも思って?」


「愛の力は無限大なのよ!」


(しめた! 今のうちに……)


 アラクネの言葉が引き金となり、2体のモンスターは戦い始めた。ローヴェはその隙を窺い、地面に散らばった自分の荷物を素早く集めると、急いで森を抜け街へと戻るのだった。






「ええ! アラクネが⁉︎」


 冒険者ギルドへ戻ったローヴェは、薬草の納品を済ませると同時に森にいたアラクネのことを話した。


「ええ、なので早めに対処をしたほうがいいかと」


「わかりました。それにしてもアラクネと遭遇してよく無事でしたね」


「あははは……、運がよかったんですよ」


 まさかオークとアラクネの修羅場の中心にいたなどとは口が裂けても言えないローヴェは笑って誤魔化した。


「とにかく、ご報告ありがとうございました。ギルドマスターに報告し早急に対処いたします」


「よろしくお願いいたします」


 ローヴェはアラクネの報告を済ませた後、依頼されていた薬草を納品し自分が借りている部屋へと向かった。そして置いていた自分の荷物をまとめるとこの街を離れることにした。自分を探しにアラクネが街までやってくる可能性があったからだ。

 街を転々とするのは何時ものことなのだが、次の街へ向かう途中ローヴェはため息をついて自分のささやかな願いを呟いた。


「はぁ……、結婚してぇ」

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