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【異世界恋愛2】独立した短編・中編・長編

嘘でしょ。

「ミラベル嬢、折り入ってお願いがあるんです。私のことをいじめて頂けませんか?」


 身長差約三十センチ。年齢差三歳。黒髪黒瞳に眼鏡をかけた、理知的な容貌の美青年。

 アッセル侯爵家嫡男にして、学友である第二王子殿下の覚えもめでたきエルヴィン様は、高い位置から私を見下ろして、生真面目そうな声で言ったのです。

 嘘でしょ。


(わたくし)が……? エルヴィン様をいじめるんですか?」


 聞き間違いを期待して、私は小首を傾げて尋ねました。

 エルヴィン様は左目側の眼鏡フレームを指で軽く押し上げて「はい」とごく落ち着き払った様子で答えました。


「ミラベル嬢が、『私を』いじめるんです。具体的な方法はお任せしますので、考えつく限りの悪逆非道なことをしてみてください」

「なぜ」

「興味があるんですよ」

「『興味』」


 ただの。

 興味関心ごときで。

 三歳も年下の顔見知り程度の娘に依頼するには、重すぎる内容だと思うのですが。

 唖然として言葉もない私に対し、エルヴィン様は抜群に感じの良い笑みを浮かべてダメ押しをしました。


「手段は問いません。思う存分いじめてください。私にそういう……新しい世界を見せていただけませんか?」


 ですから、重いですって。

 新しい世界ってなんですか。


 * * *


 その日、私は公爵令嬢モニカ様主催のお茶会に出席していました。公爵家ご自慢の薔薇園で楽しいひとときを過ごし、日が暮れる前にと少し早めにお暇を告げたところで。

 離れた位置で談笑なさっていたエルヴィン様も「私もそろそろ」と言ってほぼ同時に席を立ちました。今回のお茶会は若い貴族の懇親の場といった様相で、モニカ様のお兄さまや第二王子を中心とした紳士の皆様もその場にいらっしゃったのです。


 門に向かうにあたり、エルヴィン様は私と自然に肩を並べて薔薇の小径を歩きはじめました。

 私は、お顔こそ存じ上げておりましたが、これまでエルヴィン様と口をきいたことはありませんでした。


(こういうときは、何かお話をするべき? 黙ったままというのも気まずいわ。でも、あまり馴れ馴れしく話しかけても、淑女らしくないと不興をかってしまいそう……。堅物そのものの印象の方ですし)


 名前と顔が一致するだけで、これまで接点も何もない相手です。

 私は悩みに悩み、ようやく意を決して「楽しかったですね」と声をかけようとしました。

 そこで先に、「ミラベル嬢」とエルヴィン様から名前を呼ばれたのです。「はい」と答えたら、この仕打ちです。「いじめて頂けませんか?」だなんて。

 思わず、足を止めて聞き返してしまいました。


「私、エルヴィン様に見込まれるようなこと、何かしましたでしょうか。その……、新しい、世界?」


 ん、んん~~? 聞き間違いだと思うんですけど一応確認させて頂きますね? という意味から、私は「なんのことか全然わからないんですけど」という困惑を全面的に態度で示しました。

 ああ、とエルヴィン様は口元を感じよくほころばせて言いました。


「実は、ミラベル嬢が邪悪な毒婦だという噂がありまして」


 とんでもない打ち明け話が始まりました。

 身に覚えはありませんでしたが、今日まで知り合いでもなんでもなかった年上の男性から伝えられるにはきつい内容すぎて、私は首を振りました。


「そういうの、良いですから。人の口に戸はたてられぬと言いますから、どこかで悪口を言われることくらいあるでしょう。でも知らなければそれまでです。親切なふりして本人(わたくし)の耳に入れるのはやめてください。傷つきます」


 私は早口にそう言って、顔の前に扇を広げました。

 そこまでのつもりでしたが、言い足りなくてもう一言付け加えました。


「悪趣味な方」


 目の錯覚でなければ、エルヴィン様はこの上なく楽しそうに笑いました。笑うところですか?


「たしかにその通りです。傷つけたことは謝罪します」

「謝るようなことは初めからしなければ良いかと思います。子どもではないのですから、して良いことと悪いことの区別はつきますでしょう?」

「本気で怒ってる。なるほど」


 なるほどって。なるほどって、何を納得しているのでしょう。反応としておかしいです。

 そこで私、ハッと閃いてしまいました。


(「新しい世界」……!! もしかしてこれはエルヴィン様の策謀ですか?)


 私には想像もつかないことですが、もしかして怒られることが「むしろご褒美」という方なのでしょうか。

 冗談のひとつも言わないような真面目そうな外見で、ご令嬢たちに「素敵」と憧れとともに褒めそやされている社交界きっての美形(イケメン)だというのに。

 ド……。

 私はその言葉を思い浮かべて、打ち消しました。まさかそんな。


 困惑しきりの私の前で、エルヴィン様は上機嫌そのものの笑顔で言いました。


「今の短いやりとりで、ミラベル嬢のひととなりが掴めたように思います」

「それはさすがにふかしすぎでは?」

「ふかす?」


 言葉が乱れました。エルヴィン様には、不思議そうに聞き返されてしまいました。

 私、現在は伯爵家の令嬢というポジションではありますが、その昔母が邸宅の庭師と駆け落ちして産んだ子で、邸宅に引き取られた十歳まで下町で育っています。ときどき、貴族階級の皆様がご存知ないであろう俗語が頭に浮かびます。普段は口にしませんが、いまは完全に口がすべりました。なんということでしょう。

 扇で顔を軽くあおぎながら、私は横を向きました。


「そんなに簡単に、わかったと言われるのは面白くありません」

「そうですね、これまた失礼を。その調子でもう少し私を激しく責め立てて頂けませんか?」


 あ……ド変態だ。


「『頂けませんか?』の使い方がさっきからおかしいでしょぉぉぉぉ。丁寧に言えば良いってものじゃないですよね!?」

「ん。だめだった?」


 目を瞬いて、不思議そうに聞き返されました。少し砕けた口調に、私はエルヴィン様の真意を探りたくてその黒瞳をのぞきこみました。

 はい。目は口ほどに物を言う。エルヴィン様、笑っています。

 私はたまらず扇をぱちんと閉じると、肩をいからせて決然と言いました。


「『いじめて頂けませんか?』『激しく責め立てて頂けませんか?』ほとんど初対面の異性からろくな前置きも脈絡もなく言われたらどうお感じになりますかエルヴィン様! お答えください!!」

「難しいですね。試しに、私に対してミラベル嬢がそのセリフを言ってみてください。はい、どうぞ」

「わかりました。エルヴィン様、私のことをいじめて頂けませんか? 激しくせめたて」


 おかしい。

 この会話おかしい。

 我に返ったのは、エルヴィン様が頬を染めて横を向いたからです。大きな手で顔を覆って「申し訳有りません」とかすれ声で謝ってきました。

 だから、謝るようなことははじめからしなければよろしいのではなくて!?


「私は今いったい、何を言わされたのでしょう?」


 怒りよりも、大きすぎる羞恥心のせいで、感情が乱れて声が震えます。

 エルヴィン様はもう一度「本当にごめんなさい」と言ってから、私に向き直りました。


「ほとんど初対面の異性からそのセリフを言われると、破壊力が大きいことがわかりました。……はぁ」


 最後は放心したような吐息まで。


「正直に言えば良いってものじゃないですよね!? 聞きたくありませんでした!! なんですかその意味深なため息!! 破壊力とは!?」

「ああ、もう、本当に。ミラベル嬢のお怒りはごもっともだと思いますが……。私もいま混乱しています」

「言われなくてもそう見えますよ。ええ、わかります。最初からすべて全部混乱していなければ言えないようなことばかり言っています。心配になってきました」

「この上、私にそんなお優しい言葉をかけてくださるなんて。天使ですか? それとも小悪魔ですか? 参ったな。女性がこんなに可愛く見えたのは初めてです」

「エルヴィン様、本当に大丈夫ですか? 全部声に出ていますけど?」


 私のその指摘は、「やぶ蛇」と呼ばれるもの。

 切れ長で涼やかな目元を朱に染めたまま、エルヴィン様は吐息とともに言いました。


「あなたのこと、もっといじめたくて、たまらなくなってきました。いじめられてくれますか?」

「だめに決まってますよね!? 最初と攻守逆転していますけど、今一度ご自分の目的を思い出してください!! あなたは!! 私に、『いじめられたい』のではなかったですか!?」

「そうですね。ミラベル嬢の、そのくるくる変わる可愛い表情をもっと見ていたい。もう受け攻めはどちらでも良いです。私を思いっきりいじめてください。私もあなたを心ゆくまでいじめます。二人でそういう関係になりましょう」

「とんでもない新世界の扉を開こうとしていますけど、巻き込まないでください!!」


 たまたま帰り道が一緒になっただけで、とんでもない濃い会話になってしまいました。

 繰り返しますが、私たちは初対面に近く、話すのはこの時が初めてだったというのに。

 道の前後に人影はなく、この会話を他のひとに聞かれることがなかったことだけは、幸いでした。


(エルヴィン様、わけわからなすぎて怖い……。だけど、わからないものを、わからないまま放置しておけば怖いだけだわ。もう少しとっかかりが欲しい)


「……エルヴィン様、仕切り直して頂けますか?」

「と言うと?」

「また日を改めて、落ち着いてお話をしましょう。ふたりとも……、少し落ち着いた方が良いかと」

「わかりました。つまり後日デートのお約束を頂けるということですね。その時まですべての用事をすませておき、何があっても時間を作ります。ありがとう、嬉しいです」


 すらすらと言われて、(デートなのかなぁ~~~~ん~~~~)と思いつつ、私は否定しきれずに「よろしくお願いします」と言ってその場は終わりにしました。

 歩くのを再開してから、次に会う日時を話し合っているうちに、互いに馬車を待たせているところまでたどりつき、別れることになりました。

 エルヴィン様は徹頭徹尾ド変態だった会話の気配をおくびにも出さず、「また今度」と爽やかに笑って去って行きました。


 * * *


 待ち合わせは、王侯貴族御用達の高級店が立ち並ぶ街角の瀟洒なティールーム。

 通りの端で馬車を下りて歩いて向かうと、わざわざ店の前で立って待っているエルヴィン様のお姿が目に入りました。

 貴族の若様らしい、品の良いシャツにベスト、ジャケットに薄いコートを軽く羽織っています。足の長いすらりとした立ち姿と、見目麗しい容貌で周囲の目をひきつけておいでです。

 慣れたものなのか、気にしない様子で手持ちの本を読んでいましたが、私が近づくと声をかける前にぱっと顔を上げました。


「ミラベル嬢! お待ちしていました。今日もお可愛らしいですね」


 実にナンパです。ド変態なのは存じ上げておりますが、意外です。

 今日までに少しリサーチしてきましたけれど、エルヴィン様の評判といえば、その真面目そうな見た目同様、堅物で通っているんです。私の知り合いのご令嬢方々どなたに聞いても、口々に「とても紳士的で真面目な方よ」「あまり女性と話している様子もなく、とても硬派で」「おモテになるのに浮いた噂ひとつないの」と言ってましたよ。


 頭の中で散々エルヴィン様に関する情報をひっくり返していじくり回していた私は要するに、その瞬間、動揺していたのです。


「可愛いだなんて。気安く言われましても、気を許したりしません」

「気を許してもらうための作戦ではありません。いまの素直な気持ちです。ですが、あなたが言われるのがお嫌でしたら次回からは控えます」


 次回。

 当たり前のように。


「その……、今日の話し合いでは例の件は決着がつかないということでしょうか。つまり……」

「いじめに関する話ですね」

「なんだかいま、とても真剣な話のような響きで言いましたね」

「変態のくせにってことですか?」

「そこまではまだ言ってません。早くお店に入りましょう」


 エルヴィン様と話すと、つられて私まで口数が多くなってしまいます。普段はそこまででしゃばらないように気をつけているというのに。私の家には私の下町育ちを快く思っていない義姉がいるのです。


 私が店の扉に向かうと、エルヴィン様がさっとエスコートしてくださいました。それは自然でさりげなくて、もし私に恋人や婚約者がいたらこんな風に大切にして頂けるのかしら、と夢に見そうなほどでした。


 * * *


「結論から言うと、シロだと考えています。あなたは好き好んで他人をいじめる人間とは思えませんでした」


 ティー・ルームでは、個室が用意されていました。

 広すぎない可愛らしい部屋で、青い幾何学模様の壁紙にベルベットの真紅の絨毯の対比が美しく、テーブルには白のクロスがかかっています。

 焼き菓子やスコーン、ケーキを盛り合わせた三段のハイ・ティー・スタンドが運ばれてきて、互いの皿にいくつか取り、お茶を飲んで一服しました。

 そこからエルヴィン様は、先日の奇怪な言動についての釈明をはじめました。


「ミラベル嬢のお姉さまであるウルシェラ嬢ですが、第二王子殿下の婚約者候補に名前があがっています。殿下とは何度かお茶会などで顔を合わせておいでですが、そのとき姉妹の話として気になることを言っていました。なんでも、ウルシェラ嬢とは血縁的に従姉妹にあたるお嬢さまが、義妹という名目で館にお住まいなのだとか。前当主のお嬢さまが下町で結婚して生み育てていて、身寄りがなくなったときに引き取ったと。その方の素行が大変悪く、義姉であるウルシェラ嬢にも大変な意地悪をなさると殿下に泣きついておいででして」


 ウルシェラ義姉さまらしいなぁ……。


「たしかに、現在当家は私の叔父が伯爵位を継いでいます。何もやましいところは無いはずなんですけど、いつか私に資産を分け与えるのが惜しくなったのか、どうにも煙たがっている様子が……あります。義姉さまも同じ意見のようで、もし私が今後家を追い出されることがあっても『とても悪い子だったから』と言うために、根回しとして悪評を流されているようにも感じていましたが……」


 エルヴィン様は話を聞きながらも意外なほどによく召し上がっていらっしゃいましたが、私の言葉の切れ目で「うん」と頷きました。


「私も殿下のお側でその話を聞く機会があったけど、どうも聞くたびに話が違って、辻褄が合わない。それで、どういうことか確認する目的でミラベル嬢に接触してみました。あなたが本当に、家族に仇なすならずものであるのか、見極めたいと」


「だから『いじめて頂けませんか』ですか。でも、それはさすがに無策に過ぎると思います。そう言われて本性をあらわにするひとが、一体この世界のどこにいますか」


 いるはずがないでしょう? という問いかけをこめての発言だったのに、エルヴィン様には「ミラベル嬢」と即座に言われてしまう。


「色々揺すぶってみたら、完全に素の本性で向き合ってくれたと思います。大変好ましい人柄だと感じ入りました。少なくとも、義姉に無体を働く方とは思いませんでした。愚かしい嘘なんて、こんな簡単にバレます。それでなくとも、家庭環境に問題があるという話が、婚約者選定に有利に働く情報ではないと、考えればすぐにわかりますね。どちらかというと、『問題児』を『問題児』のまま対処できない当主夫妻や義姉の器量の問題となるでしょう。だいたい、ミラベル嬢は問題児でもなんでもないです。とにかく可愛いです」


 最後の一言は完全にただのエルヴィン様の感想ですけど、大丈夫ですか?

 指摘しようかするまいか悩みつつ、私はお茶を一口飲みました。ひとまず、いまは「可愛い」にふれないことに決めました。


「そうでしたか。あの時は、体を張って確認してくださってありがとうございました。危うく私はエルヴィン様のことを純粋な変態と勘違いするところでした」

「あながち勘違いではないかもしれませんよ」

「はい、だめですよエルヴィン様。そういうこと素直に認めても、決して『潔くて素敵』とはなりません。普通にドン引きします。いいですか」


 まったく、油断も隙もない方です。隙あらば変態。隙を作ってはいけないと思い知りました。

 

「ドン引きというのは残念ですが、教授してくれるミラベル嬢はとても親切ですね。惚れ直します。それではひとまずここから少し違う話を」


 隙を見せたはずは無いのに何か不穏当な発言がねじこまれた気がしましたが、気づいたことを気づかれたら負けです。

 私はまったく何も思い当たっていないふりをして「何の話ですか?」と聞き返しました。

 エルヴィン様は私をまっすぐに見つめてきて言いました。


「あなたのいまの生活環境はあまりよろしくないのでは? つまり、ウルシェラ嬢をはじめとしたご家族との暮らしが、です」

「不自由はしておりませんが」

「気持ちの話をしています。はっきりと虐げられているわけではないとしても、家の外でこうして好き勝手なことを言われ、なおかついつか追い出される未来だという。落ち着かないのではありませんか?」

「そうだとしても、両親を流行り病で亡くした十歳の子どもに、今以上に良い形で生き延びる方法はありませんでした。私は十分に満足しています」

「無理していませんか」


 聞かないで欲しい。

 答えに詰まり、私はお茶を飲むふりをして時間稼ぎをします。何も思いつきません。


「無理はしているかもしれません。でも私ももう良い年齢ですから、自分の足で家を出ていくこともできるでしょう。どこかに無理やり嫁がされなければ」

「端的に言います。あなたに求婚したい。答えによっては、今日はもう家に帰さないつもりでいます」

「エルヴィン様が私に? 今日?」


 展開が早すぎませんか? と私が尋ねると、エルヴィン様は眉間にシワを寄せてきつい表情をしつつ言いました。


「ウルシェラ嬢から、あなたの縁談の話を聞きました。伯爵は、ずいぶん年上の相手をあなたの婚約者にお考えらしい。家にお客様があると聞いていませんか?」

「たしかに、今日どなたかがいらっしゃるとは」

「既成事実。今日屋敷に帰れば、夜にはあなたの部屋に男が押し入ってくることでしょう。そのときになればもう、あなたには選択肢はない。今ならまだどちらか選べる。どうしますか」


 エルヴィン様は目をそらさずに私を見ていました。視線がぶつかります。息苦しいほど、時間が間延びして感じられました。

 やがて私は一度目を瞑り、大きく息を吐きだしました。


「その話はおそらく本当だと思います。そして私には受け入れがたいことです。……逃げるためにエルヴィン様を利用することになりますが、本当に良いのですか」

「喜んで。今日は緊急避難で構いません。そのままいつまでも当家にいてくだされば良いのですが。私はあなたの気持ちが自分に向くまで、あなたに手を出さないと誓います。目に入れても痛くないくらい可愛いし、入れられるものなら本当に目に入れて閉じ込めてしまいたいけど、しばらくはそういった妄想だけでも生きていけると思います」

「エルヴィン様! いまはせっかく『あら素敵』って感動しているところなんですから、そういう本音を口にするのはおやめください!!」


 私が叱りつけると、エルヴィン様は眼鏡の奥で目を細めて、にっこりと笑いました。


(目に入れるってどんな感じです? 私には想像がつきませんが? どんな妄想しながら生きているんですか?)


 尋ねて詳細を語られても困るので、私は軽くにらみつけるのに留めました。

 エルヴィン様は、とても優雅な仕草で居住まいを正して、私に改まった口調で言いました。


「今日はこのまま、私と一緒の家に帰って頂けますか?」

「はい。大変ありがたくお受けします」

「こちらこそありがとうございます。今日から私たちの新しい関係が始まりますね。手始めに何をしますか? 私をいじめますか、私にいじめられますか?」


 嘘でしょ。その話まだ続いていたの?


 私の反応がよほど面白かったのか、エルヴィン様は直近の発言とは結びつかないほどの柔らかな笑みを浮かべて、声を立てて笑いました。



★お読み頂きありがとうございます!

 ブクマや★、イイネを頂けると励みになります(๑•̀ㅂ•́)و✧


★短編以外にも普段は長編作品も書いています。

 読んで頂けると大変うれしいです!


「封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる」

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