78【戦いの始まり】
パティは誰もいない倉庫の建物に隠れていた。
アルとクルミが心配で堪らないが、自分にはどうすることもできない。待つしかないのだ。
不安に押し潰されそうな時、奥からがたっと音がし、話し声がした。
パティは恐る恐る音のする方へと向かった。そこには、これまた先ほど会ったばかりの、頬に傷のある長身の男と、彼に似た格好をした男二人がいた。一人はごつい体格の大きめの男で、もう一人は細身の優男だった。
「……ダン?」
パティはそっと顔を出した。
「ん? パティか。お前一人か?」
「ええ、クルミにここで待つよう言われまして」
パティは気を落とした様子だった。ダンは何となく状況を把握した。
「そうか。クルミと知り会いだったのか。クルミがいるかと思ってここへ寄ったんだが、入れ違いだったか。それで、クルミは城へ行ったのか?」
「はい。アルも一緒です」
(二人だけで、あの魔物の巣窟のような場所へ?)
ダンはぎゅっと拳を握った。
「よし、すぐに俺たちも城へ向かうぞ」
ダンは子分二人に言い、踵を返そうとする。
二人の男は腕を組んで、へい、と返事をした。
ダンが入ってきた扉に向かおうとした時、パティはダンの腕を掴んだ。
「あの、ダン、わたしも一緒に連れて行ってください!」
ダンは腕を掴まれたことに少し驚いていたが、構わずパティは叫んだ。
「いや、でもな、パティ。城には多くの魔物や、魔族がいるだろうから、危険だ」
「解っています。でもわたし、アルたちが心配なのです」
パティは顔を俯けた。
「お頭、連れて行ってあげましょう」
「ああ、オレたちもいるし、この天使ちゃんは護ってやれますよ。こんなところに一人残しておくのは可哀そうだ」
手下二人はパティを見て、同情して言った。
「お前らなあ」
ダンは分かっている。あいつらは天使が珍しいだけだ。
ダンはため息をついた。パティははらはらとした瞳でダンを見つめていた。
パティは居ても立っても居られないのだろう。その気持ちはダンにもよく分かる。
「分かったよ」
と目を瞑り、腕を組んでダンは言った。
「だがその格好じゃ駄目だ。ここにある手頃な動き易い服に替えるんだ。向こうで待ってるからよ」
「はい! ダン、有難うございます」
パティは嬉しそうに言い、深く、お辞儀をした。
アルは周囲を見渡した。
クルミが隠れた扉の横の壺は小柄なクルミならば何とか身を隠せるが、アルなら無理だろう。
コツコツという足音はもうすぐ傍まで迫っている。窓辺にかかっているカーテンは開いていた。
(もうここしかない)
アルは窓に足音を立てずに駆け寄った。
「何か音がしたか……?」
ダイスは扉を出たところで窓の方を向いた。しかし人影はない。カーテンは片方閉まっていた。
シスは、立ち止まった王の背に立ち、
「さっさと歩け」
と言い、ダイスは背後の魔族に怯え、再び歩き始めた。
ダイスが少し歩いたところで、シスはアルたちの方を見た。まるで二人の存在に気付いているかのように笑みを浮かべたが、何もせず、ダイスの後を付いて行った。
シスとダイスが歩き、見えなくなったところでクルミは壺の横からひょこっと顔を出し、ゆっくりとそこから出た。アルもカーテンの後ろから姿を見せる。
「危なかったね」
「いや、あの魔族、隠れていることに気付いているようだったがー」
「まず神具を手に入れようとしているのかもね。どちらにしても、こっちには有難いよ。アル、魔族が戻って来ない内に王妃たちを連れて逃げよう。先に攻撃すれば連れて逃げるチャンスもある」
「しかし、ダイス王が連れて行かれたんだ」
「見捨てる訳じゃない。体制を整えるの。国に分散した兵力も戻ってないし。あたしたちだけじゃあの魔族には勝てない」
「……分かった。王妃たちと、隙をついて逃げよう」
クルミは頷き、皮のベストから小型の爆弾を取り出した。
「発火して五秒で爆発する。これをあの魔物のところに投げるから、その隙に王妃たちを誘導して」
魔物二体は王妃たちの前に立ちはだかり、メイリンは少し離れた場所にいた。
アルは飛び込む体制を取り、クルミは発火装置の紐を引っ張った。
「……今だ!」
クルミは前に飛び出し、小型の爆弾を魔物に向かって投げ、アルは同時に飛び出した。
ドン!!
クルミの投げた爆弾は火花と爆風を噴き出し、大型のごつごつとした、岩のような体の魔物に直撃し、黒い羽の生えた小柄の魔物は素早く逃げた。
「王妃様、セトラ、ネオ、こっちへ!」
アルは飛び出し、叫んだ。セトラたちがアルに注目する。
「アル、危ない!」
ネオが、破裂音と爆風と共に現れたアルに向かって叫び返す。
ガツッ!
その声でアルは真横から短剣を振り下ろした気配を察知し、片手で剣を素早く構えて防いだ。
メイリンの振り下ろした短剣はアルの構えた剣に当たり、アルは横からの衝撃に押されて倒れた。
「アルタイア、やはり来たわね」
メイリンはツカツカと倒れたアルの前に歩み、静かな怒りを称えた声で言った。




