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75【グリーンビュー国の異変 後半】

 その頃、王都にいたアルとパティも、魔物の放たれた危険な地帯にいた。


 突然沸いて出てきた魔物の群れに、アルたちは戸惑いの中にいた。

 パティは混乱している。現れた魔物たちの気配が多すぎて上手く探知できないのだ。魔物の群れは何の前触れもなく現れ、その少し前には、魔物の気配など一つもなく、穏やかな街そのものだったのだ。


 アルは宴席の格好のまま飛び出したため、武器を持っていない。魔物の攻撃に対し格闘でしか対抗する手段がなく、パティを護りながら魔物を相手にすることは通常の戦いよりもずっと困難だった。 

 アルは一通りの戦いを学んでいたが、格闘術を極めてはいない。それに格闘家であってもクローやナックルなどの装備はしているものだ。素手で、何の装備もなしに魔物に戦いを挑むなど無謀そのものだ。

(何とか逃げながら、武器を探すしかない)


 しかし一体をアルが相手にしている内に、二人は四体の魔物に取り囲まれてしまった。

 四つ足の、猫の顔に似た獣のような魔物が長い爪でアルの背後からその手を振り上げた。

「アル!」

 パティは叫び声を上げ、アルは背中を切られる、と、思わずパティは目を瞑ったが、次にはその魔物の眉間に、飛んできたクナイが刺さった。


「ギニャアーー」

 叫んだ魔物の動きが止まり、後方にどすっと倒れた。

 クナイを投げた方を二人が振り返ると、そこには先ほどまでドレス姿で会ったクルミが軽装で、すたりと地面に着地したところだった。

「クルミ!」

 パティがその名を呼んだ。どうしてここへ、と訊く間もなく、残った魔物が彼女と、アルたちに向かってくる。


 クルミは臨戦態勢のまま持っていた剣をアルに向かって投げた。

 アルは飛んできたそれの柄を掴み取る。細身の刀身の女性用の剣だったが、有難かった。

「王子様、使いなよ、それ」

「助かるよ!」

 アルは言い、剣を構えた。

 空から向かってくる鳥型の魔物に、アルは剣を斜めに振り下ろした。魔物はキエエ、と鳴き、その場に落ちた。

「へえ、王子の割にやるじゃん」

 今度は二足歩行の熊のような姿をした魔物が口を開き、ぐるると鳴き、クルミに襲い掛かる。

 クルミはその攻撃を避けたが、魔物が振り上げた爪が少し手の甲に触れ、ぴっと血が散った。


「まるで動物園だね!」

 そういい、ぺろっと手の甲を舐め、高く飛び上がった彼女は短剣を下に持ち替え、魔物の背中を刺した。熊の姿の魔物はそれに怒り、再びクルミに襲い掛かる。―が、クルミは腕に装備している盾で牙を受け止めると、魔物の胸に確実に短剣を突き刺した。

 あっという間に二人は周囲の魔物たちを倒し、パティはようやく息をつくことができた。


「あたしの名はクルミ・レイズン。さっきのダンスパーティーで王子様は見ているけど、挨拶はしていなかったね」

「クルミ、僕のことはアルでいい。助けてくれて感謝するよ」

「通りがかっただけだよ。パティも無事で良かった」

 クルミは、アルの横にいる、まだドレス姿にカーディガンを羽織ったパティを見た。

「クルミ、有難うございます。先ほどもダンに助けていただいて、今日は助けられてばかりです」

「パティ、ダンの知り合いだったの?」

「はい、北西大陸にいた時にー」

「二人とも、その話は後にしてくれないか?……」

 長くなりそうな女子の会話を、アルは遠慮がちに遮った。


「クルミ、今どういう状況か君は解るか?」

「さあね。うちの店に戻って少ししたら、外が騒がしくなって、見たら、魔物がうようよしていたんだ。何で急に沸いて出たのかこっちが知りたいくらい」

 アルは何も言わずに聞いていた。

「……でも目的地は想像がつくよ。あいつら、通りがかりの人間を襲っているけど、城に足が向いている」

「やはりそうか」

 狙いは城に隠されているという噂の神具と、石を持つ者か、とアルは予想した。

 アルは迷っていた。


(城に向かえば王都よりも多くの魔物と、それを束ねる魔族もいるだろう)

 あれほどの魔物を束ねる魔族だ。パティは連れて行けない。己の命もどうなるか分からない。だが、城にはグリーンビュー国の王族たちも、逃げ遅れた人々もいるだろう。放ってはおけない。


「僕は城へ向かう。クルミ、君はパティを安全なところへ連れて行ってくれ」

「アル、そんなの、危険です! ここにはメイリンもいるかも知れません!」

「ああ、分かっている。僕は大丈夫だ。だから、パティ、君は大人しく待っているんだ」

「でもー」

「アル、ちょっと待ってよ」

 クルミは横から口を挟んだ。

「まだあたしはそれを承諾してないよ。それに、あたしは待ってるなんて性に合わない。パティを置いていくのは賛成だけど、あたしは一緒に付いて行く」

「クルミ、しかし君は女の子でー」

「ストップ! そんな馬鹿な理由であたしは待たないから、あんたはただあたしを一緒に連れて行けばいいよ」

 クルミはアルの口元に指を置き、話す言葉を遮った。


 アルはそれ以上何も言えなかった。

 また、あんたと言われたのは初めてだったが、小気味良い口調だったので、嫌だとは思わなかった。

「あたしがいた方がアルも助かるでしょ? パティ、あたしがアルについて行くから、待っていて。アルはあたしが護ってあげるからさ」

 クルミは一息に言い、有無を言わさぬ強さがあった。

 アルもパティも気圧され、アルはああ、と言い、パティは、はいと言った。


「じゃあ、二人ともあたしについて来て。城の近くに頑丈な建物があるの。そこまでパティを連れて行ってから城に潜り込もう」 

 そう言い、クルミは先頭に立って二人に付いて来るよう促した。


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