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32【ロベート・ガラ家の人々 前半】

 時を少し遡るが、ネオは、ラスティル王との会食を断り、自宅の屋敷への道を辿っていたー、筈だった。


 ネオは、屋敷にすぐには戻らなかった。

 アルたちが泊まることは従者に言づけただけで、帰宅することはなかったのだ。

 彼は、自国の王に堂々と嘘をついていた。

 ばれることはないだろう。

 ばれたところで、幾らでもいい訳できる、とネオは思っていた。


 確かにネオの母の具合は良くなかった。

 だが彼は、そんなことは微塵も気に止めていなかった。むしろ、いつも口うるさい母親が静かにしているのでせいせいしているくらいだった。


 ネオは従者を乗せた馬車を止め、街中で降り、とある飲食店に入って行った。

帰りは自分で帰るといい、馬車は待たせなかった。


 ネオが入っていた店は若い女性やカップルが集うカフェで、珈琲や紅茶の他にカルテルやリキュールといった酒や軽食も提供していた。

 時刻は昼を過ぎ、昼食をとりにきた客は減り、酒や珈琲を飲みにきた客が数組いる程度だった。


「ネオ。遅かったじゃない。いつまで待たせるのよ」

 店の奥、四角い木のテーブルの窓辺に腰かけていた若い女の隣に座ったネオに、女は身を捩らせ彼の腕に絡みついて言った。

 女は色気を漂わせたドレスに身を包み、高いヒールを履き、ネオから貰った、手に入りにくいエキゾチックな香水の匂いを漂わせていた。


「つまらない用がありましてね」

「もう。帰ろうかと思ったわ」

 女は絡みついた腕を一度放し、腕を組むと頬をぷくっと膨らませる。


「怒らないでください。美しい顔が台無しですよ」

 ネオは彼女の肩を抱き寄せ、甘い声で囁く。


 彼女の名は確か、マリアンナといった。

 はっきり言ってよく覚えていない。

 一度酒屋で見かけた彼女を誘い酒を一緒に飲み、そのまま男女の関係になった。

 会うのは三、四度目くらいだろうか。


 しかし彼女はネオにとって特別な女性ではなかった。

 それはマリアンナにとっても同じだろう。

 お互い割り切った関係で、マリアンナには婚約者もいた。それにネオの遊び相手も彼女だけではなかった。


 ネオには二つの顔があった。というより、表の顔と裏の顔というべきだろう。

 表の顔は舞の名手で、名門貴族の跡取りで、立場も礼儀も(わきま)えている。

 そして裏の顔は、女好きの遊び人、尻軽男で名が通っていた。


 勿論、大っぴらにロベート・ガラ家の悪口をいうものはいないが、遊び人のネオの影口を叩く者は多かった。

 だがネオはそんなこと気にも止めていないし、例え自分のことを悪くいう者がいたとしても、ただのやっかみや嫉妬で、悪口を言われたからと言って女にモテなくなるという訳でもなかった。


 事実、ネオの舞のファンである女性は数多く、恋人候補は後を絶たなかった。


 流石(さすが)に王の耳にさえもその噂は入っているだろう、とネオは思っていた。

 しかし王や、城の配下の者に咎を受けたことも注意されたこともない。

 ラスティル王はネオの舞の虜であるし、何せ、王自身も今、若い町娘、リンに夢中なのだ。

 文句を言える立場でもないだろう。


 ネオとマリアンナは食事や会話もそこそこに、近くの二人きりになれる宿へと入っていった。

 暫くして、ネオは宿を一人で出た。

 マリアンナは眠ってしまったので、起こさずにこっそりと出て来た。


 そこでネオはようやく、自宅の屋敷へと向かった。


 屋敷へ帰る途中、痩せた幼い少女が汚い服を着て、外で一人、遊んでいた。

 ネオが銅貨を三枚ほど手渡すと、少女は嬉しそうに微笑み、ありがとう、と言った。


(ここ数か月の間に、ずいぶんと様変わりしたな)


 ネオが帰りに通っていた道は貧しい民が住むスラム街で、そこで暮らす者はほとんどが困窮していた。

 以前は、これほど酷くはなかった。

 スラムに住んでいる者も食事はまずまず食していたし、王妃主催の食事の提供も月に何度かあった。

 それもリンが現れてからは王妃は公の場には姿を見せていない。


 ラスティルは数か月の内に、国の法律を幾つか変えていた。

 税収を増やし、歌や踊りに長けた者には報酬をやり、突如、大きな劇場や演奏場を建設したり、貴族を招いて盛大なパーティや催しを行ったりしていた。

 元々金を持っていた者は益々恵まれ、貧しかった者はさらに貧しい暮らしを強いられていた。


 ネオもまた、あのリンという娘が来てから、王が変わったと考え、彼女がラスティルに何か吹き込んだのではと怪しんでいた。

 しかしだからと言って、ネオは何か行動を起こす訳ではなかった。

 そこまでの正義感などネオは持ち合わせていないし、その内、王も目を覚ますだろうとも思っていた。


(ただー)

 腹を空かせた子供や年寄りを見ると、胸の痛みを覚えずにいられなかった。


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