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【魔族との対決、クルミとロゼス 後半】

ロゼスは頷き、満足したようにああ、とだけ言った。

パティはロゼスから目を逸らした。


ノースリーブのドレスでは冷たい風が肌を刺すようだ。しかしすぐに眼前の海を見て、パティは海へと走った。彼女は防波堤に立ち、岩でできた波消ブロックに足をかける。


ふぁさり、と、ゆっくりとパティの真白の翼が開かれる。壮大な、美しい見事な翼。


 その場にいる者は皆息を飲んだ。

クルミも、一度見ているはずのロゼスも、魔族でさえもその翼に釘付けになる。


 ばさっ、ばさっ!

 翼をはためかせ、パティはみるみるうちに空へと舞い上がった。吸い込まれるように、まるで空を泳ぐ鳥のように。


「あれがパティの翼―」

 クルミは呟くように言った。その声は掠れていた。

 空を羽ばたくその姿はクルミの想像を超える美しさだった。


(そうか……パティは特別なんだ)


 翼だけではない、あの美しい瞳も、それに他の天使とは異なる、人を愛する不思議な性質も。

 初めて会った時に本当は気付いていた。

 クルミはパティを見つめ、唇の端を持ち上げた。その顔はいつもの自信たっぷりの顔だった。


(行け、パティ……! 王子に会うんだ) 


 同じようにパティを見ていたロゼスは、その飛び立つ姿を瞳に焼き付け、次いで、魔族を見据えた。

 ロゼスは槍を構えながら走る。

 ゲルマは一瞬、反応が遅れた。


「遅い!」

ロゼスは大きく踏み込み、槍を肩の高さからゲルマに向かって突き出した。

ゲルマは反応していたが、僅かに動きが鈍ったため、肩を少し抉った程度だった。しかしロゼスは魔族に間髪を容れず、続けざまに槍を何度も突き出す!


傷は僅かだったが魔族は動揺したため、そこに隙が生まれた。ロゼスの渾身の突きを一撃食らった。

ゲルマは胸を突かれて、どさっと倒れた。

 黒い瞳は血走り、ぎりぎりと歯を喰い縛り、ロゼスを睨んだ。


「貴様……!」

 ロゼスはその形相に思わずたじろいだ。


魔物を相手にしたことは勿論あったが、魔族と戦ったことは数えるほどしかなかった。

 ロゼスは怯んだがゲルマは既に動けないでいる。

 ロゼスは止めを刺そうと槍を掲げた。

いくら深手を負っていても、止めを刺さなければしっぺ返しを食らうこともある。魔族は人間よりずっと生命力が高く油断できない。


そのロゼスの判断は正しい。しかしロゼスが止めを刺す前に、ゲルマはくそ、と呟き、黒い瞳でロゼスを見て、能力を発揮したのだ。

魔族により、その力は様々だが、ゲルマの力は相対した者の動きを封じることができた。しかし魔族が力を発揮するには条件があった。力のある魔族ほど、その条件は簡単、あるいはないこともある。


ゲルマの能力の発動条件はその者に殺されかけることだった。


(な、なんだ?)


 ゲルマの黒い瞳が一瞬光った、とロゼスは思った。しかし次の瞬間に体は凍り付いたように動かなくなっていた。指先一つ動かせなかった。


 ゲルマはにやりと笑みを浮かべ、這いつくばったままロゼスを見上げる。

 ゲルマは立ち上がると、そのまま剣でロゼスを切りつける。


「人間め!」

 ゲルマはしかし傷が深く、ふらふらとした足取りで切りつけたため、ロゼスの傷は致命傷にはならなかった。今度は心臓を刺す、とゲルマが再び剣を構え、ロゼスが死を覚悟した、その時。


 ゲルマは一瞬の内に命を奪われた。

クルミが背後からゲルマの背を思い切り刺したのだった。

 どさっ。

 ゲルマは前のめりに倒れ、絶命した。


(や、やったのかー)


 安堵すると同時、ロゼスは驚愕した。

何の躊躇もせずに人間そのものに見える魔族を背中から刺して殺すとは、恐ろしい娘だ、とロゼスは思った。しかしお陰で助かった。


 ロゼスの傷は致命傷ではないが、深かった。

彼は荒い息を吐きながら自分よりも年下であろう少女を見つめた。


「クルミ、お前は何者だ?」

「あたしは、今はただの商人だけど、世界一の武器商人になる、可愛い女の子だよ」


 可愛い、というところでロゼスは少し眉根を寄せた。

 顔立ちは確かに可愛らしいが、自分でいうとは図々しい、と思った。

 ロゼスは海の方に視線を投げた。


(パティは、王子に会えたのか?)


 いや、大丈夫だ、とロゼスは不安を打ち消すように拳を握った。


(信じるんだ、パティを)


 それよりも自分には今、やるべきことがある。

 ウォーレッド国の貴族船に魔族が乗っていたのだ。すぐに城に戻り、報告をしなくてはならない。


 ロゼスは海の彼方へと消えたパティから無理やり思考を閉ざし、グレイ色の切れ長の目を一層鋭くした。




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