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96【リリア国の二人の王子】

 別れ際に神具のことを訊かされ、アルはすぐにでもそのことについて問い質したかったが、仕方なく、アルとパティはマクーバ王に言われたように、城へと向かった。

 門番に名乗り、城門を抜けて城内に入る。


 通された場所はこじんまりとしているが、寛げる一室となっているラウンジだった。

 マクーバの趣味である狩りの際に捕ったであろう、鹿や獅子の剥製が飾られ、獣の皮のラグが敷かれ、弓や鉄砲、それにナイフも幾つか飾られ、拘りの強い狩りの道具が揃っていた。


「アル、久しぶりだな!」

 部屋に着くなり、扉を勢い良く開いたのは、ティモス・リリア・フランク、リリア国の第二王子だった。  

 アルよりも五つ年上で、明るく人当りが良い王子だ。ティモスは短い茶髪に、マクーバと同じ薄茶の瞳をしていた。


「ティモス王子、変わりないようだね」

「旅では魔族と遭遇したんだって? 大変だったな、アル。まあ無事で良かったよ」

 ティモスはアルの背中を叩いて彼らしい挨拶をした。 

 ティモスは二十歳だが、敬語を使うと彼が嫌がるので、アルは友人のような話し方をしていた。


 ムーンシー国やカストラ国に魔族が現れたことは、他国も何らかの情報源を持っており、既に他国の王族の耳には入っているだろう。ティモスもその情報源を元に話していた。

「ああ、大変だったが、色々な人に助けられてここにいられる。ティモス、旅の友人を紹介するよ」


 アルはパティの肩を少し押すと、美しい瞳の愛らしい少女が前に出て、丈の短めのワンピースの裾を持ち、お辞儀をした。

「はじめまして、パティと申します」

 カーディガンを羽織って翼を隠してはいるが、南大陸は気候が熱いので薄い布ごしに翼が透けていて、また大きな翼はカーディガンの隙間からはみ出していた。

「へえ。この子が天使か。お前も隅におけないな、アル」

 ティモスは肘でアルを突いたが、

「ティモス、パティとは共に旅をしているだけだよ」

 と、柔らかく否定をした。

「えー。なんだよ。じゃあお前まだガールフレンドの一人もいないのか?」 

 アルは少し考え、セトラのことを思い出したが婚約の話が白紙になったばかりで、彼女と再会する日もまだ先になるだろうと思われたので、多分、と曖昧に言った。


「少しは俺を見習えよ。そんなんじゃ兄貴みたいになるぞ」 

 といい、ティモスは五つ上の兄を思い出し、含み笑いをした。

 ティモスの兄ネイサンは二十五だが未だ独身であり、恋人もいない。


 リリア国ではメイクール国と同じく、十八歳で王位を継承する時期に当たるが、メイクール国とは違い、結婚をしていなければ王位を継承することができない。

 人当りが良く、活発で見目も華やかなティモスとは違い、根暗で地味な風貌のネイサンには結婚を承諾してくれた貴族や王族の娘はなく、それどころか今までガールフレンドの一人もできたことがなかった。

 今もきっと部屋に閉じ籠って本を読んだり、召使いたちを巻き込み、好きなカードゲームに没頭しているに違いない。

 数年前からネイサンは一人で王都に行き、怪しげな店で見知らぬ者たちとカードゲームを楽しんでいるらしいと、噂になっていた。


「ティモス、異種試合に神具が賞品に出されると聞いたが、本当なのか?」

「ああ、そのことか。母上は父上の決めたことにお怒りだよ。あれは王家に代々伝わる価値のある物らしいからな」

「僕も賞品にするのは賛成しない。今各国で魔族が神具を狙っている。神具には大きな力があり、それを扱える特別な者がいるんだ。そのことを王に伝えたい」


「本当かよ。俺には古いだけの靴に見えるけどな」

 ティモスは少し黙り込むと、不意に目を上げた。

「アル、パティ、ちょっと神具を見てみるか?」

 ティモスは悪戯っ子のように笑んで見せた。

「父上はまだ時間がかかるだろうから、どうせ暇だろ」

 二人はティモスに言われるがまま、ラウンジを出た。


 回廊に出ると一人の青年がそこを通りがかった。

「ネイサン王子、お久しぶりです。アルタイアです」

 アルは青年に明るく声をかけた。

 長い前髪と肩までの赤毛の青年はアルを見たが、すぐに顔を背けた。

 リリア国第一王子、ネイサン・リリア・オルビスだ。


「……ああ。僕はこれから王都へ行く。邪魔するな」

 ネイサンはそう言い、アルとパティを交互に見て、その場を離れた。

 そう言われてしまったので、アルはそれ以上何も言わず、ネイサンの後ろ姿を見送った。


「ネイサン王子は、変わられたか?」

 ネイサンがは前から大人しかったが、以前はもう少し愛想良く接してくれていた。あんな言い方をされたのは初めてだったので、アルは驚いた。


「気にするなよアル。兄貴はずっと変なんだ。ここ数年、王都の妙な店に通ってるんだぜ。薬でもやってるんだろ。あれじゃ結婚なんか一生無理だな」

 ティモスは呆れ果てて言い、行こう、と二人を促した。

 

ネイサンは少し進んで振り返り、パティの背を見て、薄手のカーディガンの下の透けた翼を目にした。彼は口元をもごもごと動かし、天使……、と、微かな声を発していた。


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