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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
行商人とクレスヴェン闘争
99/322

兄の名は何だった?

「まだです。まだ」


ライラナの蹴りは弧を描く。

その鋭さを一目で理解したのか

男は間合いを取る。


男はライラナを注視しながら

そこに居る他の人たちにも

目を配る。



勢いよく脚で地を蹴る。


またもライラナへ突進を試みている。


「同じ手は――」


ライラナが構え、足に力を入れた途端。

男は迎撃を予測してか、間合いの外から

急旋回し、壁へと突き進んだ。


その姿は、壁を地のごとく駆ける。

重力など存在せず、壁を地を飛び跳ねまわる。


「少し考えたようですね」


ライラナの視界から離れた瞬間

強靭な脚を撃ち出し、飛び込む。


口を開く。そこから見えたのは

人の歯ではなく、獣のごとく

鋭い牙のような歯である。


その標的はライラナではなく

後方に位置していた、ベルード。


「………………」


ベルードは気づいてない。

何かに驚き、考えを巡らせている。


「ベルード!?」


それに最初に気づいたのはハーク。

一拍早く動き出してた。


鉄槍ウェネスを出現させ

さらに青い半竜となり

男の強襲を鉄槍ウェネスと共に

ギリギリながらも受け止める。


「ガ、ガ、ギ、……ギ、ガ」


鉄槍の硬さ、半竜の膂力を使おうとも

男の強襲はそれを上回っている。


「ベ、ベルード。逃げロ……!」


「――子供にしては、よくやった方です」


ライラナが間合いを詰める。


男の横っ腹に、後ろ蹴りをお見舞いする。


まっすぐではなく、ひねりのある蹴り。

打ち込まれた部分からねじれていく。



しかし男はそれでも

ベルードを狙い続けている。


「蹴りをもらっても尚、襲いかかる力。

 主人に報告しておきましょう」


「言ってイる、場合か?!」


ハークとライラナの双撃を弾き

男は後退しつつ闇へと身体を落とし込む。



「待ってくれ! 兄貴!

 いや、……兄貴の名は

 なんだ! 名前は……!」


「何を言っているんだベルード!

 待ってーー」


ハークの必死の引き止めを振り切るベルード。


その足は狼に、その手は人の腕で

兄貴を追いかける。



「お待ちを――」


“ギュウン”


しかしその道は、一瞬の真空によって止められる。


ライラナの蹴りによるものだった。


その軌道はしばらくその場をとどまり

そこだけが何物も受け付けないような

雰囲気を漂わせる。


しかしそれに触れようとは思えない。

直観とも思える何かが、身体を留める。


「あの男の兄弟、でしょうか。

 しかし話すことが出来ないと

 今しがた理解したはずです」


「止めないでくれ! 兄貴がーー」


「家族とは、信じ合うものでしょう?」


その言葉に、ベルードはうつむく。

兄貴と呼ぶ男の方に目をやる


ちくしょう。

そう小さく呟いて

片足で地を強く踏みつける。



「な、な、なんで俺たち

 こんな目に遭うんだろうねぇ」


「はぁ。本当、災難だ。

 悪いことしたからか。それともーー」


「人に借金して、返済せず

 トンズラしようとする者が

 災難に遭わないほうが不思議ですが?」


「そんなわけ無い。不公平だ。

 清廉潔白な人格者と見えても

 裏では汚いことをしている。

 それすら他人に押し付けてる

 奴だっている。

 俺たちはこの目で見てきた」


「あちらにはあちらなりの

 災難や幸福があるでしょう」


「……それを言われちゃあ

 おしまいだよ。姐さん」


「お、お、俺、頭痛くなってきたんだねぇ〜」


「兄貴は考えると熱が出るから

 難しく考えないでくれ」


「あ、あ、あ、でも、考えると出る熱

 ってことは、頭はいい、かもねぇ」


「「それはない」」



* * * * *



地下を進み、段々と地上の様子が

伺える場所にたどり着いた。


窓だった格子やら破壊された穴やらの

端々から見えるビル群を通り過ぎる。



行き着いた先は、地上に出て

入り組んだビルの迷路を超えた先。


とあるビルの誰の気配もない

静かで少し日の当たるフロア。


そこでビル内の一角に

隠れるように作られた小さな店。



そこが店だとはわからない。

看板は無く、扉に小さな呼び鈴が

付けられているのみ。


ビルの影。吊るされた洗濯紐と洗濯物。

様々な色形をなす看板の数々が

店をもっとうまく隠している。


「ここです、お客人。

 事前にお伝えしますが、お静かに願います。

 主人は静かなのを好みます。

 物音も、足音も、心音でさえ、注意を」


ライラナは店の前で振り返り

ハークとベルードへそう話す。


「……無理、じゃないか?」


「うー?」


「さすがに足音、心臓の音までって……。

 どれだけ神経質なワケで……」


「主人がそれを説明するかは

 分かりかねます。

 しかし、それによって被害を被るのは

 あなた達ですから。私は、伝えました」


「もし、それを破ったら?」


「――ご興味があるなら、実践することです。

 その代わり、私は即、逃げます」


ハークの問いかけに

ライラナは淡々と答える。

しかしその返答は、既知であるようだと

ハークは感じた。



「あ、あの、その」


「何か?」


「さっきの、兄貴の事なんだけどさ。

 名前、思い出せなかったワケで……。

 それで、貴女が知っているような

 感じしたんだけど……」


「……あの男については

 私が知る限りでは、あなたたちと同じ。

 客人であり、また別の存在でもある、と

 主人はお答えするでしょう。

 しかしそれだけです。

 主人が一番よく知っています。

 ……お分かりですね? 貴方が一番

 音を立てないように、気を払わねばなりませんね」



ライラナはゆっくり、静かに扉を開けるーー

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

2022.1.14(金)です。

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