鋭くも、どこか抜けたメイドと共に
恐竜はパチパチと断線していく音と共に
パチパチと体内から断線していく音を響かせる。
「さて、これには――、あら?」
姐さんと呼ばれた女性は
先ほどまで姿が見えていたはずの
サンサ兄弟がいないことに気づく。
姐さんの姿を確認すると
サンサ兄弟は既に逃げ出していた。
「急げ兄貴! こうなりゃ逃げる!
逃げるしかねぇ!」
「そ、そ、そうなのねぇ?!」
リードと共にドタドタと走るブラクバ。
「――行動を、記憶および記録しました」
姐さんは恐竜の近くに立つ。
サンサ兄弟めがけて
横たわる恐竜へ、その場で回転。
思いっきり、重い後ろ回し蹴り。
恐竜は水平に飛んでいく。
まるで重さを感じさせない軌道。
鈍い音と共に、向かっていく
そして、恐竜はそのまま
飛ばされた方――サンサ兄弟――へと
追いつく。
「うわぁぁぁ!?
なんで俺たちの方にぃぃぃ!?」
「わ、わ、わ、ぶつかるぅぅぅ!」
サンサ兄弟は意を決して、前方へダイブ!
“ズシィィィン……”
「「おおおおお!?」」
間一髪、ふたりの飛び込んだ先
そ後ろギリギリで恐竜は止まった。
兄弟は腰が抜け、へたりとその場に座り込む。
「戻ってきなさい。主人がお呼びです」
「「無理だって」」
* * * * *
「――4分、私は遅刻しました。
しかし譲歩および許しはしません。
あなた達も、返済を滞らせています。
こちらの方が、許容範囲です」
姐さんはどこからか
懐中時計を取り出して
時間を確認する。
銀の懐中時計。
細かい傷が光を反射させる。
秒針は止まらず回り続けている。
姐さんの掌に収まっていた。
「待ってくれよぉ!
それはその日によっては」
「言い訳はナシです。
主人から事前に
そう伝えられていましょう?」
「た、た、頼むのねぇ~!」
サンサ兄弟の必死の懇願を無視し
姐さんはふと、自身とを見つめる
見慣れぬ二人へ目を移す。
「こちらは?」
「え、あ、あぁ。兄貴の磁力で
引っ張られてきた奴と、その仲間――」
「う! あい!」
「……赤ん坊の3人、です」
紹介されると聞いて
ユミナがハークの服の中から現れる。
ハークはユミナが落ちないように抱えつつ
ベルードと共に、軽く姐さんへと会釈する。
「――犬のような赤ん坊ですね。
地下は幾段か寒いので……
湯たんぽ代わりですか?
あまり適切な抱え方ではありません。
おんぶ紐でも使うのがよろしいかと。
あと個人的な感想ですが、とても図々しい」
「う!? ……うー……」
その言葉に、なぜかショックを受けるユミナ。
しょんぼりしながらハークの
服の中へと体を丸め入る。
「磁力で引っ張られたなら
この子供もしくは赤ん坊に金属でも?」
「こ、こいつだ。鉄槍持ってたんだ!」
「鉄槍」
姐さんはその言葉を含み
ハークへ再度目をやる。
両の手を勢いよく合わせ
勢いそのまま開く。
そこには分厚い本が一冊。
装丁は黒の革に、それを保護するためか
鉄の装飾が施された本である。
ハークはその分厚い本の背と
その表紙と思わしき面に
何かしらの文字が彫られていることに気づく。
ベルードも同じくそれに気づくが
さらに表紙に彫られた字が
鉄の装飾によって数文字隠すように
作られているように見えた。
姐さんはペラペラとめくる。
あるページにたどり着くと
ハークとページを見比べる。
――鉄の神釘ウェネス。
姐さんがその言葉を口にした瞬間
ハークは彼女へ身構える。
しかしそれをベルードが止める。
彼の脚は、いつでも動けるようには
事同じく構えていた。
姐さんはふたりの様子など気にもせず
話を続けた。
「別名、鉄の三叉槍。
現祖を繋ぎ止める鎖のひとつ。
持ち主は、彼の家庭教師。年齢は20代相応。
現祖および現当主との会話に用いる物。
音叉。近しい者への贖罪と救済――」
「(……ハーク君)」
ベルードはハークの肩に手を置きつつ
ジリジリと後退
「(どうしてその鉄槍を知っている?
おかしい。合図と同時に後ろに振り向いて。
俺が抱えて逃げよう。すぐ離れたほうがーー)」
「そこの狼。お待ち下さい」
狼と呼ばれ、ふと振り向かんとするベルード。
しかし踏み留まり、何事もないように振る舞う
「主人からのご命令に
近々やってくる者たちを連れてくるように
と承っています。何卒、ご同行を。
逃げる場合は、ご容赦を」
姐さんはスカートを持って
決まった所作からお辞儀をする。
その後ろ、そろりそろりと変わった音が
姐さんの耳が捉える。
「ーーそれと、そこの二人(兄弟)。
共に来る様に。主人への報告を済ませろ、とのことです」
「……ちくしょう! せっかくのチャンスを!」
「バ、バ、バレたんだねぇ」
「うわぁなんて言えばいいんだぁぁぁ……」
リードはうなだれ、ブラクバは頭をポリポリかく。
* * * * *
「行きましょう。主人がお待ちです」
カツカツと黒のブーツを鳴らしながら
姐さんはとある方向へと歩き出す。
ふと姐さんは何かを思い出したのか
ピタリと止まり、ハークたちへ振り返る。
「申し遅れました。
私は主人に仕える使用人
……ライラナです。以後、よろしくーー」
ライラナは表情そのままに
片手をあげ、軽く伝えた。
ハークとベルードは
あまりの突然のことに
そして今更なことに驚く。
同時に、何も口裏合わせなく
反射的に二人は発した。
「「いまかよ!」」
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2022.1.7(金)です。




