脱出とトイレと黒外套
少佐は足早にハークたちを
部屋から出るのを確認する。
部屋の中をチラリとのぞき
すぐに部屋を施錠した。
「今後、彼との面会は
私を通してくれ。
他の手続きはこちらで済ませる」
「あ、あぁわかった。
――少佐、イチモくんは……」
恐る恐る尋ねる博士に
少佐は静かに息を吐き
誰もいない空間へ目をやる。
「悪いようにはしない。
しかし良くはしない。
彼はそれを承知している、と
ここで伝えておこう」
「……よろしく頼むよ」
* * * * *
3人は会議室に戻る。
そこに、つまらなさそうに
机に肘をついて、宙を眺める
エリーの姿があった。
「あら、終わったのね」
脚を組み、部屋のとある隅を
両の手で組んだ所に顎を置く。
3人の姿を確認すると、エリーは姿勢を正す。
「良いかね。私は、本部へ戻る。
何かあれば近くの兵士に
言ってくれ」
少佐は足早に部屋を出ていく。
「ーーイチモ、は?」
「拘束されていたな」
「そう」
エリーの質問にレムザが淡々と答える。
驚くことも焦ることもない。
事実、その通りの言葉を受け止めていた。
机には先ほどの時には無かった
様々なお菓子の入ったカゴがふたつ。
そして紙とペンが人数分が置かれている。
「特に変わったことは?」
「何度か少佐が廊下を
行き来してたようね。
話し相手になってもらった
兵士がチラチラ廊下を
気にしてたわ」
レムザからの質問に
エリーも淡々と答える。
「ひとまず少佐のご厚意に甘えて
施設建て直しが終わるまで
ここかしら?」
「そうなるだろう。だが……」
レムザはそう言った瞬間
部屋の隅や電子機器、照明など
各所から、火花が小さく飛び散った。
あまりに複数同時に起こったため
一瞬かつ大きな音が響き渡る。
「きゃっ! 何?! 故障!?」
「いや。ようやく見つけた。
研究所をダウンさせてだけの
事はあるな」
「ダウンって、一体何をするの?!」
「ベルード。外の様子は分かるか」
「ちょっと! 話、聞きなさいよ!」
エリーの言葉に気を留める間もなく
ベルードは目を閉じ、耳を澄ませる。
「え? ……慌ただしく歩く音が複数。
兵士たちが動揺してますね」
「なら、少しは時間があるか」
「何をしたの!?」
* * * * *
「ハーク、イチモから
何か言われなかったか?」
「な、何かって……」
「おおよそ、なぜ今それを?
という内容なのだが」
「……? 言ってたのは
10時なら歴史……。
13時なら座学、とは
言ってた気がーー」
レムザはそれを聞いて
眉間に右の指を置く。
しばし考えた後、言い放つ。
「よし。ヒントは北東部にある」
「ほく」
「とう」
「ぶ」
「……う?」
レムザの言葉に、エリーも
ベルードも、ハークも
ユミナも、首を傾げた。
* * * * *
「イチモからだ。
ちょうど時間が良かった。
北東部。それだけが手がかりと。
そして、そこはクレスヴェン山脈に
近く場所、と思われる」
「何を根拠に……」
「焚き火の休戦協定。
そこで決めたことは3つ。
ひとつ、今回の一件は
研究所、軍、イチモの三者による
協力を持って解決する。
ふたつ、三者は互いを牽制
および妨害をしない。
みっつ、定期的に情報交換を行う。
共通目的は、真犯人を見つけ出すこととした。
今回は3つめ。情報交換となる。
クロックポジション、は知らないか」
「突然じゃないの!」
「仕方ない。軍がどれだけ
研究所そのものを危険視しているかだ。
なぜ施設調査に入った?
なぜ仮施設といってここを貸してくれた?
なぜちょうどよくモカウの木を
使ったフロアがあった?
偶然なら出来すぎている。
それに少佐の携える錫杖、あれが気になる。
イチモと相対する時には外していた」
「だからって少佐を疑うの?」
「……あくまで仮説だ。
人は言葉と行動が伴わないことが
往々にしてある」
「じゃあ、どうするの。
少佐たちに歯向かうの」
「監視が付いているなら
逆に利用するだけだ」
「?」
「幸い、ここの窓は内外問わず
衝撃に強い。俺の力でも突破は難しい。
ブラインド越しだが、格子状の線が
入っている。頑丈な窓なのが分かる。
鍵穴もだ。鍵を開けるのに、鍵がいる。
軍ならではだろう。
だからこそ、利用させてもらう」
* * * * *
「((はぁ……、この歳になると
トイレが近くて、辛いなぁ。
やっぱり最近運動不足とか食事とか
もっと丁寧にしないとーー)」
アナグマ博士は、仮施設の
洋式トイレにてふと考えていた。
「(まさかイチモくんがエドに
勉強を教えていたなんてなぁ……。
本当にまだ驚いている。……けど
イチモくん、いったい何歳なんだろう?
え、僕と同い年くらい? そうなると
あんなに若い子みたいな風貌……。
何か秘訣でもあるのかなぁ。
こんどそれを聞いてみようかな)」
さて早く戻ろう、と立ち上がる瞬間。
建物がミシミシと揺れる。
同時に爆発音。
「うわわ!? 事故?!」
博士は慌ててトイレから出ると
そこには会議室の中から
吹き飛ばされたレムザ。
その前面にはエリーがいた。
音を聞きつけた兵士たちが
レムザたちと会議室の様子から
編隊を組んで会議室へと向かう。
「待て! 危険だ!」
レムザの言葉を振り払い
兵士たちは突撃する。
兵士たちが見たものは
会議室の壁に大穴。
そこから逃走を図る
黒い外套をまとう男ーー
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続きます。次話投稿予定は
2021.11.29(月)です。
次回で11話最後です。




