限られた時間内で、情報交換
――終わったかね?
「彼が待っている。
面会時間が限られている。
急いでくれるかね?」
その声の主は少佐。
少々焦っているのか、扉越しから
他の兵士に指示を出す声も
小さくも続けて聞こえてきた。
「わかりました。
……じゃあ僕らで行こう」
「彼から指名がある。
Dr.アナグマ、レムザニット
ベルードと、ハーク。
以上の四名だ」
「よしじゃあ……。
あ、ユミナちゃんは……」
「う? ……うっ!」
周りの雰囲気を察したのか
何かを理解したのかわからないが
ユミナはキリっとした表情で
ハークの服を掴んで離さない。
「ユミナ。少しの間だから……」
「うぅっ!」
ハークの促しを拒み
ユミナは一層離れようとしない。
「困ったね。ええっと、少佐。
ひとり追加しても?
赤ん坊ひとりなんだけど……」
「む。……、いいだろう。
ただし、静かに頼む」
「ユミナ、一緒に行けるって」
「う? うい!」
ユミナの掴んだ手は少しだけ緩まる。
しかし掴んだままであった。
「あら、私はお留守番かしら?」
ハークたち四人を席に座ったまま
少し笑みをこぼしながらエリーはつぶやく。
「あ、あぁすまない、エリー。
……そうだ。何か持ってこさせる。
そこの兵士に頼んでくれ。
その分の金はこちらが負担する」
少佐は近くにいた兵士に目をやる。
それに気づいた兵士はそそくさと
エリーの元へと向かう。
「いいわ。それじゃ……」
エリーは兵士と話し始める。
「――急ごう。時間がない」
少佐に促され、ハークたちは会議室を出た。
* * * * *
「なぜ君のような少年まで
指名されるかわからないが……。
彼と何か接点でも?
兄弟、身内か何かか」
少佐に連れられ
フロア奥の部屋へと急ぐ。
ちらりとハークの方へ
少佐はチラリと目をやる。
その一瞬でも、ハークの頭から
爪先まで観察していた。
「あ、はは。何でですか、ね……」
少佐からの目線と合わないように
ハークは少し目線を下へ落とした。
ちょうど少佐の腰部分に
ハークは目を留める。
ふと裁判所にて彼が持っていたはずの
小さな錫杖が無いことに気づく。
「まぁいい。――現時点において
彼の身柄は軍が預かることになった。
面会には……、いやこの際面倒だ。
三者の全面協力と、彼からの情報提供を
交換条件としている」
少佐は入っていった扉を開け、進む。
博士、レムザが続き、ベルード
ハークは恐る恐る中へ――
* * * * *
開けられた部屋。
薄暗い。所々にヒビが見える。
そこはシンプルで何も無い
仕切りとして分厚いガラス板一枚。
仕切られた空間にひとつずつ
チリチリと今にも消えそうな灯りが
辛うじて薄暗いながらも部屋を照らす。
「やぁ、どうも」
仕切りガラスの向こう側。
その声はイチモ。
首から下を白いツナギの様な服を着、
拘束具を付けられ、腕は動かせない。
ひじ掛けのあるシンプルな椅子に
両肩、腰、足に頑丈そうな幅の広い
ベルトを締められている。
「「イチモ!?」」
ハークとベルードは驚きのあまり
同じ反応を示した。
「また変わった服装だな、イチモ」
「あはは……、レムザさん。
分かってたでしょう」
「少佐、これは……」
博士は戸惑いつつも
少佐に理由を求めた。
「体裁上、こうする必要がある。
訳のわからない力を振るわれても困る。
たとえ研究所スタッフであっても
今こそ我々の管轄だからだ」
少佐とハークたちは
ガラス板向こうのイチモと相対し
用意された椅子へと座る。
「裁判、決着したんですか?
……だからここにいると思いますが」
「バルドリアでの一件は
改めて裁判し直しだろう。
だが、それで片がつく」
「……それは良かった」
レムザと交わすイチモは
もう分かっていたと言わんばかりに
話を進める。
「少佐。ここからは僕から伝えます。
席を外してください」
「それは出来かねるな。
悪いが――」
イチモは部屋の隅に目をやり
自身の頭上に下がった
頼りない灯りを眺める。
「監視カメラ、ありますよね?」
「――いいだろう」
少佐は一人部屋を出る。
扉の向こうからコツコツと
靴を鳴らす音が遠のいた。
* * * * *
レムザは少佐が出ていくのを
傍目で確認する。
ふぅと息をつく。
ハークから返されたライターを
胸ポケットから取り出す。
タバコを取り出し、口に加える。
ライターのフタの具合を
確かめるように2度開閉する。
その後、ようやくタバコに火を付けた。
「その拘束具、軍のか。
それとも……」
「少佐が借りた物だそうです。
なかなか丈夫ですね」
「そうか。……、よし。
時間が無いそうだ。
みな、話が聞きたそうだ」
ハーク、ベルードは困惑しつつ
イチモの姿に何度も確認する。
一方、博士はイチモの様子を
ただただ戸惑いながらも
どこかホッとしている様子だった。
レムザは椅子に深く座り
イチモと他の三人を眺める。
「博士、ベルードさん、ハーク君。
えっと、ごめんなさい。僕はその……」
ギリギリとベルトが軋むも
動かせる範囲で、彼は目の前の
4人に頭を下げる。
「――イチモは敵、なのか?」
博士とベルードが戸惑う中
ハークはすぐに口を開いた。
「え!? ハ、ハークくん。
……違うけど、そうかも。
今は、もうアレ使えないし
あの子、エドの声も聞こえない。
たぶん、事実上役目はなくなった
と思う」
イチモは、はぁと息をつく。
ゴソゴソと手を動かそうとするも
動かせないことに気づくと
またも息をつく。
「イチモ、さん。俺の親父はーー
アンタと同じ、立場だったのか?」
「親父さん?
すいません。何の事か……」
「親父が裁判に現れた。
イチモ、さんと……、ハーク君と同じ
鉄の武器をーー」
ベルードの言葉の端々は震えていた。
レムザがそれに付け加え始める。
「ベルードの父親、ナドルと名乗った。
彼は自身の息子、ベルードの兄から
わるいこの力を奪った。
姿を変え、鉄の武器らしきものを
使って我々を襲った。
……イチモ、【焚き火の休戦協定】での
話の通りなら、あれはユニヴァーと」
「ユニヴァー。
……いえ、知らない人です。
確か違う人が持主のはず。
すみませんが、最近になって
所持者が変わったかと。
それにナドルという名も初めてです。
おそらくベルードさんが思う
事はない、と思います」
それを聞いたベルードは
見るからにホッとしていた。
前のめり気味に座った椅子を
少し背もたれに近づくよう座り直した。
「僕も、いいかな」
博士が口を開く。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2021.11.22(月)です。




