魔女がいて、僕らは会議室で
「はるか昔、そこには
ひとりの魔女が住んでいた。
ある時、その近くにあった
海岸線沿いの小さな国の王が
魔女の元を訪ねた。
理由は、分からない。
――だが結果として
魔女はその国を滅ぼした。
エイール大陸が生まれて
間もない頃と伝わっている」
レムザが指し示したのは
クレスヴェン山脈の西側。
山脈をちょうど半分に位置する地点。
「そうそう。よく知っているね。
大学の……、そう、考古学者が
共同で研究発表してたね。
……つまりね、二人はここを目指した。
それを計画するに必要な方法を
書き記した名無しの手紙が
ウォートの部屋から見つかったんだ」
「どうしてこんな所に?
誰がこれを?」
「レッド=アシッドのアジト。
魔女の居た地。ただそれが
偶然重なっているだけだ。
その真意を知るのはおそらく……」
「失礼します」
ハークたちが話す中
臆することなく現れたのは
先程の軍人ひとり。
「研究所の皆さん、着きました。
少佐と共に施設の中へ。
……お急ぎを」
「まずは降りようか」
博士がそういうと
レムザが最初に立ち上がり
エリー、ベルード、ハークが
支度を始めた。
* * * * *
エイール大陸南東部。
ちょうど複雑怪奇な駅と
わるいこ研究所本部を
正三角形に位置し
山脈側にある所。
その内のひとつ、地下駐車場にて
ハークたちは降りる。
「申し訳ないが、早速中へ。
今回は私の権限を以て
ここを仮施設とすることになった」
少佐が先行し、扉前に立つ
軍人の敬礼を受けて中へ入る。
大人数が入れるエレベーターが
ゴォーッとうなり、上がっていく。
「施設調査が終わるまで
ここを使っていい。
もちろん、研究所調査後
2週間は猶予を設けた」
そこはコンクリート張りの
雑居ビル内とは違う。
フローリングと暖かみのある
木製の内装。灯りもそれほど
強くはないが、部屋はとても明るい。
「無理言って、モカウの木が
使われたフロアを仮拠点として
借りたんだ。ちょうど
空いてたから幸運だったよ」
「――話が終わり次第
奥に来てもらえるかね。
この会議室で良いだろう。
おっと、失礼。席を外す。
兵士が近くで待たせる。
行く際には呼んでくれ」
少佐はそそくさと離れ
電話を取り出し、小さな声で
向こうの相手と話している。
そのまま角を曲がり、姿を消した。
「少佐は相変わらずのようだわ。
ずっと電話の応対に、現場の指示。
でも、ちょっと忙しいみたいね」
「そうなの? ミス・エリー?」
「そうよ博士。
モデルの打ち合わせとか
撮影とかでもずっとそうだったわ」
「うーん。僕としては
銃持って、バババーって撃っている。
そんなのしか思い浮かばないね。
……さぁ、会議室入ろうか」
少佐に示された会議室。
会議室は奥に縦長の部屋。
真ん中に白の長テーブル。
既に置かれた8脚と
積まれた椅子が4本。
壁はほとんどモカウの木で
作られているため、ほのかに温かい。
ハークは抱えたユミナの方を見る。
すこしだけ力が抜け、目を細めて
リラックスしているようだった。
いくらか使われた形跡のある
業務用のホワイトボードがひとつある。
数字と様々な線が
書き込まれていたような跡である。
レムザはふと窓の方に目をやる。
ブラインドが下がった窓。
その隙間を注意深く眺めた。
博士がおかれた椅子の一つに座り
ハークたちに座るよう促す。
* * * * *
「それじゃ、話を戻すね。
ウォートくんたちに
手紙を出した張本人はイチモ君だった。
これは、後々に監視カメラの映像、
そして紙に触れてて残った匂いから
わかったんだ。……正直信じたくない。
僕の体感では、こういうことを
する人とは思えなくてね」
「「それでーー」」
ハークとレムザが同時に切り出す。
ハークはとっさに口を閉じ
レムザへ話を渡す。
しかしレムザは気遣い無用、と
ハークから先に話すように促す。
「え、えっと……。
あの日、俺は誰もいない中
イチモから博士たちが
逮捕されたって聞いた。
それで、助けるためには
あの山の研究所に行こう、って
言われたんだ」
「唐突だな。なぜ着いていこうと?」
「レムザさんからの着信があって
助けをと言われて」
「ーーなるほど。
他職員の携帯を使ったのか」
「仕方ないよレムザ。
あの時、君は別の所へ
行かなければならなかった。
僕が最終判断したから……」
「恐れ入ります博士」
レムザは胸ポケットに手を添える。
何かを探しているようだが
ハッと気づいてその手を
額に当てて座り直した。
「ハーク。すまないが
ライターを返してくれ」
そういえばとハークはポケットを探る。
あったあったと取り出す。
銀のライター。縦に長い四角いライター。
ハークの手のひらに収まり
所々に傷がある。一番多いのは角部分。
塗装なのか銀色は剥がれ
細かい傷が集まり、白い跡となる。
ライターの下部に
小さく文字列が彫られている。
しかしその上から誰かによって
真っ直ぐ線が引かれる。
「本来なら、子供が持つには
あまりに変な代物だろう。
しかし、よかった。ありがとう」
銀のライターを、レムザへ渡す。
それを胸ポケットにしまい
ふぅと息をつき、天井を眺めるレムザ。
「あの、そのライター……」
「ーータバコはやめたほうがいい」
「い、いや、すごく
傷だらけというか」
「僕の所に来る前から持ってたね」
「……これは、貰い物です。博士。
彼からなし崩しに、押し付けられた
といえばいいのでしょうが」
「来る前だからーー」
「ここは、喫煙スペースは
なさそう、ですね。博士」
「え。そ、そうだね。
外にいけば大丈夫だろうけど」
「なら、少し席をーー」
“コンコン”
レムザがタバコのため立ち上がり
扉に手をかけた途端、ノックが響く。
「終わったかね?」
その声は少佐である。
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ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2021.11.19(金)です。




