狭い道の先、光がありますように
「はぁ、はぁ……。
お待たせ、ハークくん。
……いいかな?」
アナグマ博士は息を切らしながら
大急ぎで走ってハークの元へ来た。
「博士。まず、休んで」
「あ、あぁ、そうだね……」
博士とハークたちは
近くのベンチに座った。
* * * * *
アナグマ博士が息を整えて
改めてハークに話し始める。
「改めて、ハークくん。
うん。おかえり、かな。
さっきはごめんね。
連れ去られた時は驚いたよ。
イチモくんがするとは思わなかった。
けど、うん。無事で良かった。
……それで、その子は?」
「はい。レグリシス山の途中
雪原の木の下で、拾いました」
「拾いましたって……」
「う? うー!」
ユミナは博士の方を向き、手を伸ばす。
博士はそれに応え、手を添える。
「あ、あぁ、握手かな?
これはありがとう。
えっと、ユミナ、ちゃんだっけ?」
「う! ういっ!」
博士との小さいながらも
しっかりとした握手。
ユミナは比較的落ち着き
すぐにハークへ顔を隠す
様子はなかった。
* * * * *
「――博士。
その子、ユミナちゃんは
わるいこ、っぽいす。
でも、なんか匂いが若干
違うワケで。あとなんか
大人になってたっす」
踏ん切りがついたのか
ベルードはハークたちの元へと
駆け寄る。
「――本当に? 大人に?」
「本当っす。親父……
えっとナドルは兄貴のわるいこの
力を使ってて、八本の尾から撒いた
毒がすごくて……。それをユミナちゃんが
吸い込んで、気づけば大人に――」
ベルードの話に、一拍置いたのち
博士は腕を組んで、首をかしげる。
まさに目が点になり、宙を眺めた。
「……聞き違いかな。
わるいこの力を、親が?
奪った? それとも受け継がれた?
それにその、ユミナちゃんが?
毒で、大人に? ――どういう事?」
「無理もない、です。
連れ去られてから色んな事が
起こり続けて……」
博士は額に手を置き
ふぅと息をつく。
周りを見渡す。
軍人たちが中尉や
少佐の指示の元
あちこちを動き回っていた。
「……ここじゃ落ち着いて
話が出来なさそうだね。
……ちょうどその事で
話しに来たんだ。
あそこの少佐から
仮施設を借りることになったんだ」
「え、借りる? 研究所は?
そこなら――」
「あの後、こっちも色々あって
……研究所もここみたいに
ほとんど壊されたんだ。
警察と軍が、調査に立ち入るほど、ね」
「――は?」
「う?」
「あぁここにいましたか!
Dr.アナグマ! それと
そちらは関係者の方々ですね?
申し訳ありませんが、移動を。
少佐から早急に、とのことです!」
「そ、そうでした。
すみません、今行きます」
少し先で叫ぶ軍人の一人に
博士は手を振って答える。
軍人は足早に少佐と中尉の間を
行ったり来たりし、また他の軍人も
同じく忙しない様子だった。
「ミス・エリーたちは
先に乗っているはず。
僕らだけが最後らしいから
急いでいこう」
「どこに行くっていうんだ?」
「――わからない。少なくとも
研究所からは近いところ。
大丈夫。そこは譲歩してもらったよ」
* * * * *
軍の輸送車の中。
ごうぅんごうぅんと
エンジン音は車内に響く。
辛うじて、会話はできるようだった。
輸送車内の一室。
部屋というよりかは
兵士たちが寝る場所を
一角借りるというものだった。
「えぇっと、それじゃあ
僕からは研究所について
ハークくんがさらわれる
ちょっと前から話すね」
――バルドリア山麓村から戻り
ハークが眠りに付く頃。
突然、研究所内のあるフロアの
電気系統がダウンし始めた。
それに気づいたスタッフが
確認のためにその場へ急行した。
すると、暗闇の中で
トタトタと何かが走る音を
そのスタッフは耳にした。
そして近くでカリカリと
何かを食む音がし、その方へ向く。
本来壁内にある電線が
壁の一部が壊され、そこから
飛び出した各種の電線を
数匹のネズミが食い荒らしていた。
慌ててスタッフは
連絡するも時既に遅く
バチバチという音と共に
電気類はほぼダウン。
研究所はほとんど機能停止に
追い込まれてしまった。
連絡を受けた博士は
急いで重要な電気系統である
子どもたちの部屋や
資料保管庫などを独立。
しばらく自力で
稼働できるようにさせた。
それにはハークの部屋も
もれなく含まれていた。
その直後、四方から扉をこじ開ける音。
複数の足音。それは特殊部隊を率いた
数名の警察であった。
後に警察は軍に制圧されるも
逮捕状の内容が内容であった。
経済特区からの要請および訴状。
これに警察は軍による妨害とし
全ての責任のみを
訴状にまとめて押し付けた。
正義漢のシャル中尉が
先行したため、直属の
上司である少佐が後を追った――
「ハーク君は知ってると
思うけど、本部の掃除って
行き届いている。
ロニィがしてくれてたからね。
大変だけど報告書もお願いしてるから
現状は把握できてる。
だから、ネズミが入るような
環境ではないんだ」
「えっと……、つまり
ネズミが今回の原因って
ワケっすか?」
「いや、誰かが
ネズミを放ったとか?」
ベルードとハークは頭をひねる。
しかしその答えは、正解ではない。
博士は目線を斜め下に落とし
眉をひそめ、頬を指で掻く。
「……うん。ネズミが
意図的にするとは考えにくいの。
考えたくないけど、誰かが
差し向けた、ならわかるけど
そこもね」
「何か引っかかる?」
「……実はね、ネズミの
わるいこがいたんだ。
レムザが対応してね。
名前は、ウォートくん――」
ウォート。
ハークには聞き覚えがあった。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
202.11.12(金)です。




