石塊(いしくれ)と見慣れぬ衣服
――中尉。いいかね。
「今回の処罰は、今ここで言い渡す」
シャル中尉はまっすぐ
目の前の長身の男へと目を向ける。
その顔には、一筋の汗が伝い
口元は真一文字に閉じられている。
「シャルヴァ中尉。
明日より4ヶ月謹慎処分とする。
その細剣の携帯は元より認めるが
何があろうと不用な抜刀は許さん」
「……了解いたしました、少佐」
「それともう一つ」
「はっ」
「期間中は軍人優待を停止。
および勤めとして、わるいこ研究所の
全面警備を言い渡す」
「はっ。了解いーー、今なんと?」
「軍人優待は停止。
いくらか手持ちや蓄えは
あるはずだろう」
「その後です」
「……聞こえなかったか。
研究所警備の任を言い渡す」
「は、はあああああああああああ?!」
シャル中尉は石のように固まる。
思考が止まる。
あまりにも斜め上の処罰だった――
* * * * *
「助かるわ、少佐。
ウチの警備は、清掃スタッフが
兼ねてもらっているけど
さすがに手が回らなくて……」
エリーは少佐から手渡された
書類に目を通しながら話す。
そこには4ヶ月のあいだ
シャル中尉を研究所警備に
当たらせる内容と共に
彼の衣食住についての説明が
追記されていた。
「いやいや! お安い御用だとも。
このシャル中尉の得意分野だ。
むしろそのまま居させてもらって
構わないくらいだ。そうだろう!
シャルヴァ・ドゥ中尉!」
少佐は嬉しそうに
声を少し大きくして話す。
少佐とエリー・スカーレットは
和気あいあいと話している。
少佐はシャル中尉の背中を
バンバン叩き、エリーへ微笑む。
それに反抗することはない。
ただ成されるまま居づらそうに
軍帽を深くかぶり、誰もいない
地面を眺めた。
「何しているんだあの二人……」
「ミス・エリーが女優の時に
イメージアップモデルを
したことがあるんだって。
それを教えてもらったとき
僕は世間は狭いなぁって思ったよ」
「博士! 大丈夫なのか?」
ハークがエリーたち三人を眺める中
アナグマ博士は変わった様子なく現れた。
頬を指でかきながら恥ずかしそうに
答える。
「うーん。なんか緊張しちゃって
みんな倒れていったらしいけど
その前に僕は失神してたみたい」
「えぇ……」
「本当なら、僕がロニィと接触
それを委任したということが
争点になってたはずなんだけど……
そこから先は記憶が、ね」
「結構前から失神してた、と」
「そうそう。だから気づけば
レムザに担がれてて
イヴェルさんたちと一緒に
法廷から出てたから驚いた驚いた」
「のんきだな、博士」
「うーん、そうだね。
年取ったからかな?」
「そういうものなのか」
「たぶん、そうだね。
ハークくんも僕くらいに
なれば分かってくれるかも」
頭をひねって考えるハークに
博士は微笑ましそうにその様子を
楽しんでいる様子であった。
「そうそう、ハークくん。
その子……」
「すみません、Dr.アナグマ!
少佐が話があるそうです!」
「え?! え、あ、分かりました。
すぐ行きますね。……えっと
ハークくん、ちょっと待ってて!」
博士はハークが抱える赤ん坊に
指さそうとした瞬間、遠くから
軍人が博士を呼びに来た。
それにすぐ応じねばと
博士は急いで向かった。
「なんだろう」
「う?」
ふたりは博士の背中に
一緒になって首を傾げた。
* * * * *
中尉の指示の下
現場となった法廷は
瞬く間に保持される。
その真ん中、石塊が数個転がる。
規制線越しにベルードはただ
それをじっと眺める。
「なに突っ立っているの」
「あ、あぁエリー、さん。
無事、だったんすね」
「……らしくないじゃない。
なに、あの石塊に何か――」
「――あれ、親父、だった。
さっきまで。それが石になって
赤い鳥に食われて、あんなふうに
転がっている、ワケなんすよ」
「……頭でも打った?」
「あ、はは……。そうかも」
「そう」
調子が崩れる、と
エリーはそのまま
ハークの元へと歩いていく。
「(ねぇハーク。
ちょっと教えてちょうだい)」
「(わ!? え、あ、エリー、さん。
な、なんです、か?)」
「(……あれ、本当に
ベルードの、お父さん?)」
エリーはこっそりと
ベルードと彼の目線にある
石塊に指をさす。
「(――そうだ、と
父親本人は言ってました。
けど、ベルードは匂いで
そう、と気づいたみたいです)」
「ふーん」
未だに立ち尽くし
心ここにあらずなベルードに
エリーは目をやる。
「興味なさそう、ですね」
「当たり前じゃない。
人の家庭なんて、聞いたところで
何もならないわ。ただそうだ、って
思わないとやってられない」
「そう、なんす、ね」
ベルードはまだ石塊を眺めていた。
ふとエリーは
ハークが抱えているもの
赤ん坊ユミナに目が止まった。
「ところで、ハーク。
あんたその子」
「う?」
エリーは興味津々に
ユミナを眺めている。
「あ、えっと……。
なんて言えばいいのか」
エリーはなんと問いかけてくるのだろう。
それに対してどう答えればいいのか。
おおよそ考えられる質問は
いままであったので用意してはいるが
果たして今回はどうか。
ハークは内心ドキドキしながら
エリーの言葉を注意深く耳を立てる。
「珍しい模様の服ね」
「え」
エリーはおもむろに
ユミナの服の端を指で挟む。
質感や色合い、模様を確かめた。
「あまり見ないものね。
肌触りも独特。きれいね。
違う所の子かしら」
「う? ……うっ!」
ユミナは機嫌を損ねたのか
プイッとハークの方へ顔を埋めた。
「……変わった子ね」
「ははは……」
ユミナはゆっくりエリーへ
薄目で姿を確認する。
しかし目が合うと、すぐさま
顔を隠した。
ハークはただ居づらさだけが
自身を襲いかかっていた。
「所で、その子どうしたの?
妹? それとも親戚の子?」
「今更、っすね」
* * * * *
「――つまり、雪山で拾ったと。
それも今回の件に、一役買った子
いや人かしら」
「そうっすね」
「その子、服の素材も知らないわ。
色々着て見て知る機会があったけど……」
「う? うっふー!」
それを聞いたユミナは、満足げである。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2021.11.8(月)です。




