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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】たちの、戦略的逃走
84/322

現場整理と必要な処置を

便宜上

ここから11話となります。

よろしくお願いいたします。

――待て。早まるな。


その声は裁判官イヴェル・グーン。


レムザに肩を借りて軍人へ言い放った。


「そこの2人は……、いや3人か。

 私たちを、そして今日までの

 法を守った者たちだ」


咳き込みながらも

号令しかけた軍人たちへ

その足を止めさせる。


「そこに居た、……いや

 もはや石塊いしくれとなった男。

 私にはウィルクスと名乗った

 男が、全ての発端となった」


軍人は突然の話に耳を疑った。

しばし放心状態となる。


「何を……。

 慧眼と呼ばれたあなたが

 見抜けなかったと……!?」


「……ナドル。

 ナドル・ファタール。

 俺の、親父、だった」


「なに!? 貴様の身内か!」


再度、軍人は細剣に手をかける。


「待て軍人!

 いや、シャルヴァ・ドゥ中尉!

 【焚き火の休戦協定】を忘れたか!」


「ムッ! 貴様、レムザニット……!

 今その話を、持ち出すか!」


「中尉は先の焚き火の前で

 『体現せしは己の意志と行動のみ』

 と言いはなった! それを曲げるか!

 あれは、中尉としての言葉か。

 否、シャル本人の言葉であったはずだ!」


「む! むむむ……」


「ち、中尉……!?

 口から血が……」


シャル中尉はあまりの正論か

一筋の血が流れるほど噛み締める。


「ここまで考えての協定か……ッ?

 レムザニット……!」


「そうだ」


「くっ……ならば、仕方ない。

 おい! 何を突っ立っている!

 作戦変更だ! 現場を保て!

 そこの貴様らからも、きっちり

 事情は聞かせてもらうぞ!」


中尉は細剣を収め

現場に指示を出していく。



* * * * *



現場はシャル中尉の部隊が

慌ただしくもそのまま保持していく。



「ハーク君。これ、ーーありがと」


ベルードは鉄槍ウェネスを差し出す。

ハークが受け取り、感覚を試すように握りしめる。


「よかッた」


「しっかり、約束は守ったワケ」


「そうダな。ベルード」


ハークは元の姿に戻っていく。

しかし完全ではなく、またも

腕に数枚の鱗、今回は脚にも鱗が残った


ベルードが鉄槍ウェネスを

ゆっくりと放すと槍は光と化す。

現持ち主であるハークの掌へと

吸いこまれ、消えていく。



「――兄様」


突然の呼びかけに

ハークはすぐ振り返ろうとした。


しかしその後ろを振り向く前に

ハークの体は横へ推しやられる。


慣性のまま辿り着いたのは

白い蛇の尾を持つ、大人ユミナである。


「あぁ兄様……ッ!。

 ご無事で何より。あぁ兄様。

 小さくもあの巨狐に向かうお姿は――」


「――本当にユミナか?

 俺には、あの雪の木の下にいた

 血を流していた女の人にしか……」


「あれは、私です。

 間違いなく私であったものです。

 そして今こうして兄様を

 抱き締めている私も、私です」


蛇の尾を器用に操り

ハークを自身へと引き寄せる。

ぎゅっと抱き締めつつじわじわと

白い尾でふたりを包み込もうとする。


「……何をしてい、痛たた」


「兄様。私は兄様と――」


大人ユミナはそう語りかけ

その腕でハークを抱き寄せようとする。


しかし大人ユミナの感情が

尾が直接先行したのか

尾が激しくうねる。


巨狐ナドルの石塊からこぼれ

床に落ちた砂が宙に舞い上がる。


「あぁ、兄さ……。

 は、は、……くしゅんっ!」


大人ユミナはくしゃみひとつ。


その衝撃に、大人ユミナは

ナドルの毒煙らしきものを吐き出す。


「うぉお?!」


突然のことにハークは咄嗟に脱出。


もうもうと毒煙はユミナを包み込む。



「ユ、ユミナ?!」


ハークは煙を払うと

見慣れた赤ん坊ユミナの姿がそこにあった。


「……う? う。うー!」


ユミナは首を傾げるも

ハークの姿を見つけると手を伸ばす。


「ユミナ。今のはーー」


「う?」


赤ん坊ユミナは何も覚えていないようだ。



* * * * *



「……あー、いいかねハーク」


ユミナを抱きかかえたハークに

声をかけたのはグーンである。


「グーン、裁判官」


「……私と、アナグマは軽傷だ。

 レムザが私たちをすぐ外に出したからだろう。

 どうやら、私とアナグマは

 ウィルクスにはあまり注視されてなかったようだ。

 私は少し頭痛と、いくらかの身体の痺れ。

 アナグマに至っては私よりも軽い」


「博士は無事だったんですね」


「だが、ばあさんだけは別。

 裁判長であったが故に症状が重い。

 これから病院にふたりで入院する。

 すまないが、ここでお別れだ。

 それを言いに来た」


「すみません。……ありがとうございます」


「まぁ、なんだ。

 ばあさんはその赤ん坊(ユミナ)

 えらく気に入っていた。……つまりだ。

 また時間が合えば、訪ねてくるといい。

 アナグマが電話だか覚えているはずだ。

 ……そうだ、何かの役に立てばいいのだが」


グーンはそう言って

自身の懐から二冊の手帳を

ハークへと差し出す。


「ひとつは、まだ使っていない手帳だ。

 何かメモする時用に持ち歩きなさい。

 もうひとつは……」


グーンはぺらぺらとハークへ見せる。

そこには文字がずらりと並び

長ったらしい文章が続いていた。


「あの、これは……」


「いつか君が、必要になったら

 文字をおおよそ読めるようになったら

 読んでみるんだ」


そういいつつ、グーンは二冊の手帳を

ハークの手に持たせた。


「それじゃあ、また。ありがとう」


グーンは少しふらつきながらも

軍人たちの元へと歩き出していった。


ハークは手帳をまだ無事である

胸ポケットにしまった。



「うー? うー!」


「ユミナ。これは絵本じゃないから」


「うー……」


ユミナの口先はとがり

ぶぅとつまらなさを体現した。



* * * * *



「中尉。今回の一連の行動は

 流石に目に余る。わかるね?」


「……はい」


エルハーダ裁判所、現場保持後。


遅れてやってきたのは

深緑の軍帽を深くかぶり

口元が見えないほどの白髭を蓄えた男。


深緑の軍服に青の勲章ふたつ付けている。

すこし猫背気味で、シャル中尉を

見下ろすほどの長身である。


腰には軍刀のような武器はなく

細かな装飾の施された小さな錫杖を携えている。

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。

次話投稿予定は

2021.11.5(金)です。

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